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カーミラを笑わせる


 カーミラと出会って結構経つが、思い返すとカーミラが爆笑しているところを見たことがない。いつも不敵な笑みだったり、俺をからかうような小馬鹿にした笑いだったりで、おもしろい物事で純粋に笑ってる顔は見ていない。そうと決まれば早速カーミラにお願いしてみよう!


「カーミラ、笑って」

「突然どうしたの? まあ笑うけど」

「うーん、なんか違うよなぁ」

「ゴロ、無茶ぶりする。ふかぁ~」


 今の笑顔は確かにかわいらしい表情だったが、何ていうか作ってるんだよなぁ。俺はもっと、カーミラ自身でも抑えられない心からの笑顔が見たい。しかしそれはカーミラの言う通り無茶ぶりだよな。


「ふかふか……ふかっ」

「あ、そうだ。ふかふかにコート着せて……さすらいのふかダンディ!」

「ぶーぶー」

「それならエリを立てて、ふか侯爵!」

「分かってないなぁゴロ。こうするんだよ」


 ふかふかからコートを脱がせると、いきなりカーミラはパンツを脱ぎ出した。そして純白のパンツをあろうことかふかふかに被せてしまったのだ!!


「ほら、正義の味方ふかホワイト」

「ぶっふぅー!!」

「プルプル、ボクハ、カーミラノ、シモベダヨ」

「あっはっはっはっは、忘年会じゃあるまいし!! ぶはははは!!」

「ま、こんなもんよ」


 クソ、逆に笑わされてしまった。なんかセンスが親父くさいけど、それで笑う俺も俺である。俺を笑かして満足したのか、カーミラは誇らしげにパンツ履いてるし。ああ、見せんでいい、見せんで。見たら負けだ、負け。


 さて、次の手段を考えよう。今のカーミラの行動を分析すると、自分の持ち物を利用した笑いが好きなのかもしれない。ということは、俺も何か自分の愛用してる物を使えばいいのだ。

 とは言っても、日用品以外で俺の愛用してる物なんて武器の長剣くらいしかない。これでどうやって笑いを取れるんだ……あ、良いこと思いついたぞ!


「ね、こっち見て」

「も~、また笑ってとか言うんでしょ」

「ほら! リンボーダンス」

「ぷっ、バッカみた~い」


 イスとテーブルの間に剣を置いてリンボーダンスしたが、今の笑いは面白いというより見下したような笑みだったぞ。なんでだ?


「ほ、ほら、クイッ、クイッ!」

「うわぁ、クネクネしないで、きも」

「き、きもい!?」

「それよりめし。めし~!」

「はい……」


 めっちゃ頑張ったのにキモいとか言われたよ。放心した俺はドテりと床に倒れこんじゃった。男だってたまには倒れていいじゃない。人間だもの……ぐぇ、床に倒れた衝撃で剣が落っこちてきた。踏んだり蹴ったりだな。


「あっ……ふ、ふふふ」

「!?」

「ぷっ、くすくすっ」

「わ、笑った!?」

「い、いや別に」

「今笑ってたよね、もっかい、ちょっとだけでいいから!」

「早くめし! がおー!」

「ふっ、今回は引いてやるぜ!」


 今のは確実に手応えがあったぞ。そうか、カーミラは不意打ちに弱いのか。あからさまに狙った行動ではダメだが、そこからアクシデントを起こせば勝機はある!


 料理をしながら俺は様々なアイデアを思いついてはボツに、しかし着々と具体案ができていく。晩飯の鍋を作り上げる頃には、完璧なコメディーショーが俺の脳内には出来上がっていた。


「さあカーミラ、今日はトマト鍋だぞ」

「おいしそ~。もしゃもしゃ」

「そうかそうか、嬉しいぞ」

「バクバク……うまうま」


 あ、食事中には何もしないぞ。お食事はお行儀よくいただきましょう、っていうのは常識だからな。みんなも"娯楽品"を楽しみながらの食事をたまには忘れて、誰かとおしゃべりしながら食事という行為そのものを楽しむと優雅な気分になれるぞ!

 もし一人暮らしでそんな相手がいないよって人は、コンビニであったかいコーヒーとおにぎりでも買って、のんびり人の往来を眺めながら食えばいい。"娯楽品"を使わないと手持ちぶさただなぁと思うなら、それはそれで心がまだ癒しを求めてないから良しとすればいいさ。


「ゴロ、考え事?」

「はて、俺は一体なにを考えてたんだ?」

「へんなの~。あ、ごち」

「おわ、もう鍋からっぽ……」


x x x x x x x x x x x x x x x


 さて、食事を終えてカーミラはのんびりしているぞ。普段からのんびりしてるけど、食後は特にのんびりしている。無防備な今ならカーミラを爆笑の渦に巻き込むことも不可能ではない……!


「ふかふか~」

「隙あり! こちょこちょ~!」

「ふかぁっ!?」

「ほら、くすぐり~!」

「うっ、んぁ、あん……」

「こ、こちょこちょ……」

「ひぅ、ふっ、ふー……!」

「……」

「あ……もうやめるの?」


 なんで瞳が少し潤んでるですかね。俺は足の裏をくすぐっただけなんだけど。まあいい、出鼻はくじかれたが次の手段に移る!

 俺はほのかに赤面してるカーミラから離れ、テーブルに置いてあったバナナを取った。カーミラがなぜかギョッとしたが、俺はそんなことお構いなしにバナナを剥いて食べた。うん、ほどよく熟しててうまい!


「ふぅ、くすぐったら疲れたぜ。やっぱバナナは栄養満点だな」

「ね~、さっきの続きしよ~」

「もうこちょこちょはしない。ああうまかった」

「ぷぅ~、いくじなし!」


 一体何を言ってるんだ。俺はただカーミラの笑顔が見たいだけなんだ。と、ここでこっそりバナナの皮を床に置いておく。台所にあるゴミ箱までわざと向かい、そして帰り道にあるバナナの皮で大袈裟にステーン!! ふはは、不意打ちその2である。さあ笑えカーミラ!


「どわわ~!!」

「ちょっと、大丈夫?」

「バナナの皮で滑った!!」

「はぁ?」

「いや~、まるでコントだ」

「床、ベタベタ。ちゃんと拭いてよ~」

「あ、はい」


 至極最もな事を言われた。こうなったら奥の手使うぞ! 俺の尊厳を代償にする大変危険な手段だが、強情なカーミラを笑わせるにはもうこれしかない!

 床を拭く俺をカーミラはどこか蔑んだ視線で見ている。よし今だ、バカになれ、俺!


「お……おぅっおぅっおぅっ!!」

「今度は何、オットセイ?」

「おっ!? ドドドドシャー!」

「うわ、べたべたの床を這い回ってる……」

「ブルルァ!! ぽぽぽぽ!」

「ゴロ……疲れてたんだね、今日はもう私が片付けるから休んで……」

「アパパ!! ウパパ! ヴァッ」

「こ、こわいよぅ、ふかふか」

「うわぁ! 泣くなよ!」

「ふぇ~ん!」


 諸刃の剣は破滅の道へ誘ったようである。俺は全身をバナナ汁まみれにし、カーミラは顔中を涙まみれにした。とにかく俺は大急ぎで床を拭いてひとまず着替え、カーミラをなだめてあげる。俺は女の子の涙が苦手なのだ。


「ほら、俺はまともだぜ。床も始末したから安心しろ」

「ひっく、ゴロ、おかしくならない?」

「ちょっとふざけただけだ。もうあんなことしないよ!」

「よかった……ね、一緒にねよ?」

「そ、それはちょっと無理」

「なんで! けち! 空気よめ!」


 泣いたり安心したり怒ったりで忙しいやつだな、カーミラは。しかしまだうるうるとしてる深紅の瞳や、どこか不安そうに俺を見つめる仕草に俺はいとも簡単に屈してしまった。


「じゃあカーミラが寝るまでだぞ……」

「やった~! ゴロ、すき!」

「うわ、スリスリするなよ。バナナの汁が付いてるから風呂入ってこねえと」

「きゃ~、ばっちい。そうだ、一緒に入ろ」

「もうカーミラは入っただろ。ベッドで待ってろ」

「は~い。楽しみだね、ふかふか」


 ぱたぱたと嬉しそうな足取りでベッドルームへと向かうカーミラ。対する俺は、今から土の詰まった箱に入るために体を綺麗にするという矛盾に気づいてしまった。が、仮にも女の子の寝床に入るのだから体を綺麗にするのは男の務めだろう。深く考えてはいけない。


 シャワーを浴び終えたらカーミラも忘れてくれてるかな~、という期待を抱いたりした。なので俺はちょっとした用事がある体でカーミラの入った箱をノックした。するとバカーンと勢いよくフタが開き、満面の笑みでふかふかを抱いたカーミラが横になってた。


「来て、ゴロ……」

「い、いや~、箱がカーミラサイズだし、やっぱやめにしとかない?」

「ダメ。こっち来て」

「うっ、チャームしたな……分かったよ、入るからチャームはしないで」

「ふふふ、ギュー」


 箱に入った途端にカーミラは俺に抱きついてきた。それは置いといて、意外にもこの箱は広くて快適である。土もてっきり硬いのかと思ったが海辺の砂粒のようにきめ細かくて柔らかく、これなら寝れそうだ。って、寝ないってば。


「これなら少しゴロゴロできそうだな」

「ぷ、ぷくく、ゴロゴロ……」

「ん? ゴロゴロがどうした」

「きゃははははははは!! ご、ゴロがゴロゴロって! ぷくく、あー、おもしろ」

「ええ、笑いの沸点低すぎない?」


 めちゃくちゃしょうもない事で大爆笑している。俺の苦労は一体なんだったんだろう。しかし普段の取りつく島も無さそうな印象はどこへやら、今のカーミラは心の底から無邪気に笑う女の子でとても魅力的だ。整った顔を決して崩さなかったあの絶対的存在の吸血鬼が、今はゲラゲラとしょうもないシャレに顔を歪ませるほど笑っているではないか。


 その笑顔を見ていたら、なんだか俺も笑顔になっていた。



ゴロ「ふとんがふっとんだ!」

カーミラ「きゃっきゃ」

ゴロ「あ、王様が歩いてるぞ! ウォーキング」

カーミラ「ふふふふ、ゴロ、天才的な笑いのセンス……あははは!」

王様「お、おぬしらのノリが分からんぞい……」


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