ゴーレム娘は嫌いですか?
カーミラと一緒に昼下がりの街を散歩していたら、意外な人物を見かけた。お隣の国でゴーレムの館を経営している店主だ。非常に目立つ魔術師風の格好なので、人混みの中でもすぐに気づいた。せっかくなので声をかけよう。
「どうも、こんにちは」
「あれ!? あなたはギルド員のゴロさん? 今日は彼女さんとデートですか?」
「ゴロ~、こいつは良いやつ!」
「こいつとか言わないの! あ、こっちは吸血鬼のカーミラです。ほら、謝りなさい」
「いえいえ結構ですよ、でも吸血鬼さん……の割には太陽の下を歩いてるのですね」
「俺も最初はビックリでしたが意外と平気みたいで。しかし、こんな遠くへ何をしに?」
「この国の王様がゴーレムに興味があるという噂を耳にしたので、ダメ元で謁見しようかな~と思いまして」
あ~、あの王様は吸血鬼フェチだしゴーレムも好きそう。しかしそういう事なら力になれそうだな。アグニャを介して王様に会わせてもらおう。
「それなら俺の知り合いに王様の側近がいますので、一緒に会いに行きましょう」
「えっ、すごい! ぜひお願いします! あ、でもデートの最中なのに……」
「ふかふか~」
「え?」
「気にするな、って言ってます」
「はぁ。ど、どうも?」
「ふかっ!!」
カーミラもこの人を気に入ってるみたいだし、たぶんそう言ってるだろ。しかしこの人、全身厚着してるけど暑くないのかね。今は冬だけど天気が良いから、全身を包むその魔術師のローブは着込みすぎな気がするぜ。
まあ女の子に暑くない、上着脱げば? みたいなことを言うとカーミラが咬みついてきそうなので言わないけど。さ、余計な事を考えてたらもう王様の城だ。アグニャは今の時間なら訓練場で新米兵士でも鍛えてるだろう。
「お、噂をすればなんとやら。おーいアグニャ」
「むむ、また女が増えてるな、ゴロよ」
「おいおい、この人は俺のギルドが懇意にしてるお方だからあんま変な事言わないでくれ……」
「あはは、気にしませんよゴロさん。でもゴロさん、何だかかわいい女の子の友人が多いのですね」
「おお、貴殿もそう思うか。ゴロには気を付けてください、こいつは口が達者で……」
「ぬわー、やめんかアグニャ! もういい、この人は王様に用事があるんだ。会わせてくれないか?」
「ああ、いいとも。英雄さん」
いちいち余計な事を言うなよな。今日のアグニャ、なんか当たりがキツくない? 俺、なにか悪いことしちゃいましたか?
「王様、謁見したいという人がいます。通してもよろしいですか」
「ほっほ、誰かのう」
「ゴロが連れてきた、ゴーレム商人です」
「ゴーレム商人!? おもしろそうじゃ、通してくれ!」
「はっ!」
アグニャが了解を得て、王の間へ入れてくれた。アグニャは俺たちを見届けると、自分の仕事をしに立ち去っていった。
王様は玉座に座って暇そうに本を読んでいたが、俺たちに気がつくと嬉しそうに話しかけてきた。
「やあ英雄ゴロよ、そして小竜公カーミラ。会えて嬉しいぞい。で、そちらの厚着した者がゴーレム商人かの?」
「はい! 隣の国でゴーレムの館という店を経営している、レムコという者です。この度は王様がゴーレムに興味があると聞きまして、何かお力添え出来ればと謁見いたしました!」
この人、レムコっていう名前だったのか。そういえば初めて知った。しかしこの暑苦しい格好なのに、汗一つかいていないぞ。実は魔法で涼しくなるように調整してたりするのかな?
「ほっほ、いかにもワシはゴーレムが気になっておった。ゴロよ、おぬしはいつもワシが会いたい者を連れてきてくれるのぅ。何だかおぬしが怖くなってきたわい」
「えっと、どういう意味ですかね」
「……さすが王様。私の正体にお気づきでしたか」
「ふかっ!? レムコ、もしやゴーレム?」
カーミラが驚きの声をあげると、レムコはバサバサと着込んでいた服を脱ぐではないか!! 俺と王様は紳士なので、大慌てでお互いの視界を手で塞ぎあった。
「むほ~、ゴロよ、見えておらんか!?」
「大丈夫です! 王様こそ見えてないですよね!?」
「セーフじゃ。まったく、近頃の女は脱げばいいと思ってるから困るのぅ」
「ほんとですよ。うちのカーミラも家ではパンイチで目のやり場に困ってます」
「なにィ!? おぬし、そんなうらやま……いや、アグニャ曰くおぬしはヘタレじゃったな」
「ねえ、あの二人なにしてんの?」
「たぶん私が裸になったと思ってるのでしょう」
レムコが大丈夫ですよ~、と言ったので俺と王様は少しわくわくしながら手をどかしあった。いや、別にレムコの裸体に興味津々とかじゃないからね。俺は非常に人間に近いゴーレムという存在に興味があるだけであり、決して邪な心などない。
「おお、レムコよ、そなたは球体関節ドールじゃったか!!」
「ふか~、グラスアイにシルキーセラミック……レムコはロストテクノロジーの塊だね」
「いえいえ、私なんてただの一ゴーレムに過ぎません」
王様とカーミラが何を言ってるのか全然分からないが、どうやらレムコはすごく珍しいゴーレムのようである。ちなみにレムコは今、体にフィットしたスパッツとTシャツ姿である。
陶磁器の滑らかな肌に、ボールのような形状の関節が違和感を感じつつもどこか魅力を感じる。そしてよく見たら両目の色が違うオッドアイでもあった。その目は有機生物の眼球なんかでは到底敵わないような、キラキラとした輝きを宿していた。
「あ、あの、ゴロさん、そんなに見られるとオーバーヒートしちゃいます……」
「あっ!? よく分からないけどごめん!」
「ま、ゴロが見とれるのも無理はない。レムコは確かに芸術作品としての魅力が高いからね」
「おいおいカーミラ、そんな物扱いしちゃダメだぞ。レムコは立派な女の子じゃないか」
「いやぁ~、そう言われるとゴーレム冥利に尽きますね」
ま、人間に友好的な吸血鬼がいるんだから人間にそっくりなゴーレムだっているだろう。人と会話出来て普通に人間社会で生活できるゴーレムはさすがに珍しいけど。
「それでは王様、商売の話としましょう。こちらが当店ですぐにご用意できるゴーレムのカタログです。どうぞ」
「いや~、ワシはレムコが見れたしぶっちゃけ満足なんじゃがのう」
「そ、そんな!! 今でしたらドラゴンを生け贄に造り出したダーゴマキナとかいますよ!!」
「なにぃ、クソドラゴンをぶち殺して生まれたゴーレムじゃと!! 最高じゃないか!!」
そ、それは第29話で裏ボスとして使われるはずのゴーレムなんじゃ……王様もダーゴマキナには無性に乗り気だし、もし売れたらギルド長が黙っちゃいないぞ。
という俺の不安を察したのかレムコはそっと舌打ちしてきた。
「てへへ、実はたまご1個で2体造れるんです」
「あ、なるほどね」
「憎きドラゴンの怨念がこもったダーゴマキナは、兵士たちのサンドバッグ代わりにぶちのめしてもらうと楽しそうじゃの~」
「それでは商談成立ということで! こちら契約書になりま~す」
「ほっほ、ハンコをぽ~んとな」
チラリと契約書を見せてもらったら、ダーゴマキナの値段が書いてあった。え~と、いち、じゅう、ひゃく、せん……
「え? 20億円……?」
「そうですよ。超貴重な素材を使ってるので本当は値段とか付けれないくらいですけど、まあ王家とのお近づきの証ということで大出血サービスです♪」
「そうじゃぞゴロよ。ワシもゴーレムに造詣が深いのでこの値段は破格なのも分かっとる。いやぁ、楽しみじゃのぅ!!」
「すごいね~、ふかふかいくつ買えるんだろ」
もしかして俺、めちゃくちゃすごいブツの製作に携わった? いや、こういう工芸品とか芸術品の類いは値段は飾りなんだ。あまり深く考えると頭痛がしてくるし、考えるのはやめよう。
レムコと王様はまだしばらく商売の話をするだろうし、俺とカーミラは二人に別れを告げて帰ることにした。
「じゃゴロさん、その節のおかげで販路拡大に大成功しました。本当にありがとうございます、たまにはうちに遊びに来てくださいね」
「あ、そうだ、大事なことを言い忘れてた。ギルド長にはカーミラの事は絶対に内緒にしてほしい。あの人、カーミラを倒したって思い込んでるから」
「あいつ、マジ嫌い。レムコも気をつけて~」
「え、あの人がそんなに……? と、ともかくカーミラさんの事は秘密にしておきます。ゴロさんにはいつもお世話になってますから!」
「助かるよ、それじゃあね」
「ほっほ、ワシも大歓迎じゃからいつでも来てくれ~。じゃあの」
「ばいば~い。ふか~」
すっかり日が落ちて暗くなった夜道をカーミラと一緒に歩む。まさかレムコがゴーレムだったとは思いもよらなかったが、思えばカーミラと初めて会った時もまさか吸血鬼だとは思わなかった。少し懐かしい事を思い出しながら、あの時より少し馴れ馴れしくなった吸血鬼と共に家へと向かうのだった。
アグニャ「ほらお前たち、これをお国の仇だと思ってぶちのめせ!!」
兵士「し、しかし騎士団長、これ強すぎ……」
アグニャ「ドラゴンはもっと強かったんだぞ!! 手本を見せてやる、ドラァァァァァァ!!」
兵士「さすが騎士団長、ワンパンで倒した!」
レムコ(うふふ、整備費用、まいどありです)