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吸血鬼と過ごす大晦日


 今日は一年を締めくくる大晦日。今年は本当に色々あったなぁ、吸血鬼と出会ったり俺の背負ってた罪をお許し頂いたり、ドラゴンがいなくなって欠点が無くなったこの国でカーミラと自由に生活させてもらえるようになったり、振り返ると本当に良い年だった。


 というか今年あった良い出来事は全てカーミラが絡んでるようなもんだ。今日はカーミラに感謝の気持ちをきちんと伝えて、清々しい気分で年越ししよう。俺は早速、雪の降る景色を窓から眺めてるカーミラに声をかけた。


「カーミラ、今日は大晦日だ!」

「そうだね~。ふかふかは年越し初めてだねぇ」

「それでその、今年の締めくくりとしてカーミラにお礼くらい言おうと思ってな」

「うゅ、なんだか照れるね」


 なんかそう言われると俺まで照れ臭くなってくるじゃないか。ええい、思いとどまっても仕方ない、勢いに任せて言っちゃえ!


「カーミラと出会ってから俺はすごく助けられたし、カーミラと過ごす毎日がすごい楽しいんだ。今年は本当にありがとな」

「わ、私もね、ゴロに助けられてほんとに良かったって思ってたよ! も、も~、なんかすごい恥ずかしくなってきた……」

「はっはっは、吸血鬼でも面と向かって感謝されると照れるんだな。今のカーミラ、すごいかわいいぜ!」

「ぷぅ、嬉しいけど、あんま言わないで」


 ぽっ、と顔を赤らめるカーミラ。たぶんこの顔は本気で照れてるからあんまりからかうと……喰われる。

 いやいや、何を言ってるんだ俺は。あ、そういえば食うと言えばあれを用意しなくちゃ。


「年越しそば、買わないとなぁ」

「へ~、まだその風習残ってたんだ」

「吸血鬼も年末にそばをすするのか」

「ん~、吸血鬼が蕎麦に抱いてる印象は少し人間とは違うかな。でも私たちはほぼ例外なく蕎麦が好きだよ」

「そうなんだな。じゃそば好きな吸血鬼のためにいっぱい買うか」

「いっぱいは食べない。別に吸血鬼の大好物ってワケじゃないから」


 なんかややこしいな。好きなのかそうでないのかハッキリしてくれ。人間にとって縁起のいい行いが、吸血鬼にとってタブーな行動だったりするかもしれないんだし。まあそばを食いすぎた吸血鬼が天に召されたなんて聞いたことないから大丈夫だと思うけど。


 まあそれはともかく、俺たちは師走の忙しさに翻弄されている店屋へ来た。ここ最近は年中無休と言いつつ、ちゃっかり閉まってる店が多い。そんな中でたまたま開いてる店に入ると、まあ人でごった返してるワケだ。人はなぜ年末年始に買い物をしがちなのか?


「きゃ~、人が多すぎるよ~」

「離れないように手を繋ぐか?」

「えっ!? お、お手々を?」

「なんだよ、じゃあ二人三脚みたいに脚でもくくるか?」

「ううん、手を繋ご。な、なんか恋人みたいだね」

「いや~、カーミラと俺はもう世間に主人とシモベって知れ渡ってるからそんな勘違いされないだろ」

「ああ、そう」


 なんだなんだ、嬉しそうにしたと思えば急に冷めた顔して。やっぱ俺と手を繋ぐの嫌なのかな。でもいざカーミラの小さな手を握ったら、指を絡めるように握り返してきた。冷たい風に吹かれて冷えきったお互いの手を、まるで温め合うかのようにギュッと握る。これなら決して離ればなれにならないな。


「くふ~、ゴロ、触り方がえっち」

「ばっ、バカな事言うでねぇだ! 手を繋いでるだけだが! そばはどこかな、あァ!?」

「ふふふ、焦りすぎだよ。でも手は離さないんだね。そういうとこ好きだよ~」

「アッ! おもちだァ!」

「変なの~。ふ~かっ」


 くそ、こんな買い物客が大勢いるところで誤解されそうな事言うんじゃねえ。子連れのおばさんとか怪訝な顔で睨んでるし。さっさと買い物済ませちまおう。


 食材コーナーを見ていたらそばは大量に置いていた。ごった返す人混みをかき分け、無事に2人前を取った。さぁ目的は果たした、あとは会計を済ませて家に帰るだけ……と思ったが、カーミラは何やら衣料品コーナーを見ている。ふむ、そう言えば俺、カーミラに冬物の服は買ってあげたが防寒具の類いは何もあげてないな。よし、まだしばらくは寒いだろうしアレ買うか!


「手、冷たかったから手袋買おう」

「ふかっ、いいの?」

「いいに決まってるだろ~。ほら、いっぱいあるし選ぼうぜ」

「わ~い、ありがと! ねえ、どれがいいかな」

「カーミラは爪が鋭いからな。普通のだとすぐ破けるだろうし、ここら辺のが良いな」


 指の部分だけ生地がない手袋をカーミラにすすめる。少し寒そうだが、無いよりは断然あったかいだろう。カーミラは素直に俺のすすめを聞き入れ、様々な指ぬき手袋を選んでいる。


「ね、やっぱ吸血鬼だし黒かな」

「うーむ、この白いのも似合う」

「ゴロがそう言うなら白にしよっ」

「試着とかしないでいいのか、即決じゃないか」

「ゴロが選んでくれたっていうのが大事なの」


 実を言うと適当な事言っただけだとは言えない。どうせ俺の意見なぞ聞かないか、聞く素振りを見せつつ結局自分が選んだやつを買うものだと思ってたから。まさか俺がすすめた物を即決で買うとは思いもしなかった。


 ま、カーミラに似合いそうなのは事実だし、本人も気に入ってるみたいだし結果オーライだろう。そばと手袋を購入し、店から出たらカーミラは早速手袋を着けた。


「さいこ~だね。ぽかぽか」

「気に入ったようだな。大事にしてね」

「うん! あ、ゴロのお手々寒そう。お家まで手を繋ご~」

「お、いいねぇ。凍えそうなんだ、あっためてくれ」

「むぎゅ~」


 手袋越しのカーミラの温もりは、どんな寒空でもへっちゃらなくらいぽかぽかしていた。


x x x x x x x x x x x x x x x


「ほら、ゆで終わったぞ」

「おそば、おいしそ~。ずるずる」

「おっ、除夜の鐘が聞こえるな。あれアグニャが鳴らしてるんだぜ」

「そうなの? アグニャ、お坊さんだっけ」

「いや、城にある鐘はお坊さんじゃなくて騎士団長が鳴らすんだ。この地域には寺とか無いしな」

「へぇ~。アグニャ、色々するねぇ」


 ちゅるちゅると麺をすすりながら、俺たちは友人の鳴らす鐘を聞き届ける。基本はゴーン、ゴーンと鳴らしているが、たまにテンポアップしてゴンゴンゴンゴンと連打している。それでいいのか、アグニャよ。


「あはは、アグニャ飽きたのかな」

「もしかしたらトイレに行きたいのかも」

「あ~、ありえそう。なんか知り合いがこういう事してると面白いね」

「だな。今度アグニャにあったら真相を聞こうぜ」


 除夜の鐘をおもしろがるのは俺とカーミラくらいであろう。あ、そういえば吸血鬼とそばの関係をまだ聞いてなかったな。ほら、吸血鬼はそばが好きだけど好物ではないって言うトンチみたいなやつ。ちょうどそばを食ってるし聞いてみよう。


「なあ、吸血鬼はなんでそばが好きなんだ?」

「あ~、それはね、吸血鬼の習性と年越しそばの由来が関係してるの」

「ほほう」


 カーミラは詳しく説明するため、ゴキュゴキュとそばを一気食いした。ぷはぁと一息つくとキリッとした表情になり、スラスラとしゃべり始める。


 まず吸血鬼の習性の一つに、小さな物が散らかったを見るとキチンと集めてしまう癖がある。例えば家の玄関に砂が散らかってるとほうきで集めたり、砂糖や塩などをこぼすと躍起になって片付けてしまう。

 そして年越しそばの由来の一つに、昔々に金細工職人が散らかった金粉を効率よく集めるためにそば粉を用いたため、金を集める→金運が上がるという事で次の年の金運を招くため年越しにそばを食べるようになった、という説がある。


「私たち吸血鬼の習性と年越しそばの由来が偶然にも一致し、いつからか吸血鬼はそばを愛するようになった……」

「マジか、意外としょうもない理由だった」

「私もそう思う。しかし吸血鬼の本能がそばを愛してやまないから仕方ない」


 また一つ吸血鬼について詳しくなってしまった。知らなくてもいいような知識だけど。


 食い終わった食器を片付けながら来年について思いを馳せる。来年も今のような楽しい日々を送れるだろうか。もしかしたらこの日々はあっさりと壊れ、再び俺は逃げなければならない事態になるかもしれない。その時に俺の隣にはカーミラはいるだろうか。


 ふと後ろを見ると、嬉しそうに今日買った手袋を着けてふかふかを抱くカーミラがいた。俺の視線に気づくと、屈託のない、だけどどこか小悪魔な笑顔でこちらを見つめ返してくれた。

 なんだ、心配ないじゃないか。カーミラはいつだって俺の心を見透かしている。そしていつだって俺を助けてくれるんだ。俺はただ、シモベとしてご主人様に仕えていればいいだけじゃないか。


 さ、もうすぐ年越しの瞬間がやってくる。カーミラの笑顔に負けない笑顔で、俺はあの言葉を言ってやる。さあ、3、2、1……



ゴロ「なあアグニャ、除夜の鐘連打したろ」

アグニャ「む、聞いていたのか」

カーミラ「なんで連打したの?」

アグニャ「実は思いっきり突いたら鐘を釣っていた金具が壊れ、転がり落ちたのだ。連打したように聞こえたのは、その時に鳴ったものだろう」

ゴロ「な、なんつう怪力だ……」


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