からかわないで、ドラキュラさん
つくづく思うが、俺は毎日毎日カーミラにおちょくられてよく我慢してるもんだ。上級種族としての優越感から来る小馬鹿にしたような態度もだけど、その強者が時たま見せる甘えたがりの乙女のような態度に、何度負けそうになったことか。いやむしろ勝ってるのかもしれないが。
俺だって男だからカーミラのような絶世の美少女が甘えてきたら下心が芽生えてしまうのだ。今まで内緒にしていたが、俺はこう見えてスケベだ。けど安心してほしい、俺は身の回りの女の子達が幻滅するような行為は一切していない。何をしてないのかって? ナニだよ。分かってくれよ。
人畜無害に生きてくって第1話の最初に宣言してたろ。あれ律儀に守ってんだからな。誘惑の多いこの小説で我ながらよく我慢してると思うよ。日常編入ってからはカーミラはしょっちゅう風呂上がりのしっとりスベスベお肌を下着だけ着けた状態で見せつけてくるんだぜ。でも手は出さない、絶対にな。俺ってマジ賢者。でも悪魔。賢者なのに悪魔。マジ卍。
「ふか~ふっか」
「……はぁ」
「どうしたの~」
「なんでも」
「そ。ふかっ」
冒頭から変な事を長々と口走ったが、それほど俺は我慢してるって言うのを分かってほしい。そしてふかふかを無邪気にぽふぽふしてるカーミラが、不意にスカートの裾からおパンティ覗かせてるのもわかってほしい。
「はぁ……」
「ね~、ため息多い。おこ?」
「いや、そんな事はないよ。ごめんな」
「あ、もしかしてふかふかしたいんでしょ」
「ふかふか……しようかな」
「いいよ~。ふんふ~ん」
「お、おお、お膝に来るのね」
「二人でふかふかしよ。ふかふか~!」
近いんだよ。あとやわらかいんだよ。ついでにいいにおいするんだよ。もひとつおまけにかわいいんだよ。ああ、ふかふかをバシバシして気持ちを沈めよう……
「ふん! ふん!」
「わ、おこじゃん」
「おら、オラァ!」
「ふ、ふかふか~!」
「どぅえやっぽおぅ!」
「むか~! かぷり!」
「あ、あっぽおぅ!!」
極めつけにコレね。めちゃくちゃお上手な吸血。記憶を取り戻してからは、全身が脱力して抵抗できないくらいの達人技になっている。そして技術の向上と共に、快感もケタ外れのものになっているんだよ。知らなかったでしょ。
「ぷぅ、ふかふかいじめないで!」
「誠にごめんなさい」
「分かればいい。ふかっ」
俺の膝から立ち去るカーミラを快楽の余韻の中で眺めながら、なんとも言えない敗北感に打ちひしがれた。ちくしょう、からかわれてばっかじゃフェアじゃない。俺だってたまには飄々と小悪魔ぶってるカーミラをおちょくってやるぞ!
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作戦その1。カーミラのめしにニンニクを混ぜる。しかもタダのニンニクじゃないぞ、青果市場で見かけた中でも段違いに巨大なニンニクをチョイスした。さすがに1個まるまる使うとシャレにならなさそうだから、一片だけにしておいたがな。しかしそれでも普通のニンニクより少し小さいくらいのサイズだッ!!
うきうきしながら俺はトマトジュースの中に擦りおろしたニンニクを混ぜる。ひひひ、こいつぁ青汁よりもキくぜぇ!!
「カーミラ、めしだぜ!」
「は~い。お、トマトジュースだ」
「ほら、チャーハンと卵スープもあるぜ」
「おいしそ~。ぱくぱく」
「ひひひ……」
「??」
もちろんチャーハンとスープにもニンニクを大量に仕込んでいる。さあカーミラ、吸血鬼の苦手なニンニク尽くしだぞ。悶えるがいい、はっはっは!!
「んぅ~、ちょいピリでうまうま」
「ちょいピリか! うん、ちょいピリね!」
「お、トマトジュースも今日はスパイシー。腕あげたな、我がシモベよ」
「ははぁ~! で、他には?」
「あ、うん、おいしいよ」
「そ、そう、ありがとな?」
な……なんだと……巨大ニンニクが全く効いていない!?
おかしいぞ、以前おにごっこをした時はあんな小さなニンニクでもギャン泣きしてたのに。第18話の最後らへんを見てくれ、明らかに効いてるよな?
あの出来事でニンニクに耐性ができたのだろうか。と、なにやらカーミラが台所を眺めてるぞ。その視線の先にあるのは……
「あ、あれって」
「はっ……隠し忘れてた!」
「やっぱり! ジャンボリーキだ~」
「え? ジャンボリーキ……?」
「なにとぼけてるの、料理の隠し味で入れたんでしょ」
「いや、これニンニクじゃ」
「全然違うよ~。あ、別名は無臭ニンニクだけどね」
「別物!? じゃ、吸血鬼に害は無いのか?」
「そうだけど。え、もしかして知らずに入れたの?」
お、なんかあんまり怒ってないぞ。これなら上手く誤魔化せるかもしれない。見てなみんな、俺の国家を騙しこんだ口の上手さを! 俺は足の早さと口の上手さだけは自信があるんだぜ!!
「あ~、いや、実は無性にニンニクが食いたくなってな! ほんとはカーミラの皿とは分けて作ったんだけど、俺の皿と間違えて置いちゃった! ごめん!」
「そっか。本物のニンニクじゃなくてよかった~。ゴロ、ナイスチョイス!」
「あは、あははは……」
どうよ。ちなみに一番大事なのはちゃんとごめんなさいを言うことだ。もし相手が怒ってなかったり、イタズラに気づいて無かったとしても、悪さをしたらごめんなさいを言う。たとえ自己満足になるとしても、日頃の行動ってのはいつか自分に返ってくるからな。前科者の俺が言えた口じゃないけど。
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作戦その2。聖水をぶっかける。さすがにまずい事になるかもしれないけど、まあカーミラなら平気そうだし大丈夫だろ。それよりも聖水を手に入れる方が難題だ。さすがにそこら辺でほいほい売ってるワケないしなぁ……あ、知り合いに聖職者がいるじゃないか!!
「なんだ、私に用か?」
「アグニャ、聖水出して!」
「っ!? へ、へんたい!」
「ウボァー!?」
な、なんでぶん殴るんだアグニャ! 俺はただ聖水が欲しいだけなのに! アグニャの率いる騎士団って一応聖騎士もいただろ!?
「ふん、次変なこと言ったらまた追放するぞ」
「ピクピク」
くそ、作戦その2も失敗だ。まさか作戦その3を使うことになるとはな……
作戦その3。俺は実は女だったと嘘をついてみる。いや、ほんとはこの作戦使いたくないんだよ。まず俺、普通に男顔だから女だったっていう嘘なんか通じるわけない。あとナルシストっぽい気がするし、なんなら頭おかしいと思う。
でもこれくらいめちゃくちゃで馬鹿馬鹿しくてインパクトがある方法じゃないと、吸血鬼を動揺させることなどできないだろう。
さあ、家に帰ってきたぞ。カーミラは優雅に翼の手入れをしているようだ。ああ、なんて獰猛な黒色をしたスタイリッシュな翼なんだ。俺も一応悪魔なんだしああいうの生えないかな。
そんなことを考えながら手入れの様子を眺めてたら、カーミラがこちらに気づいて声をかけてきた。
「あ、ゴロ、お手入れ手伝って~」
「ああいいぞ、と言いたいが実は大事な話があるんだ」
「ふか……?」
きょとんとした愛くるしい顔で俺の話を聞く。こういう時に限ってやけにキュンと来る仕草してくるよな、全部お見通しなのかもしかして。
「じ、実は俺、女なんだ……」
「あ、やっぱり?」
「え、いや……え?」
「いや~、そうだと思ってたよ。だってゴロにあんまりチャーム効かないし、私みたいな美人の誘惑に耐えれる男なんていないしねぇ」
「そ、そうだろ!? あはは……」
いやなんで信じるんだよ。俺どこからどう見ても男だろ。え、吸血鬼が人間のオスとメス見分けるの、チャームして効くかどうかでしか判断しないの? どうしよう、このままじゃ俺、女になってしまう!
「じゃゴロが勇気を出して打ち明けてくれた記念に、一緒にお風呂入って、一緒にねよ!」
「いや、それはちょっと女同士でもハードル高いんじゃ」
「なんで! けち!!」
「うわ、脱がそうとするな!」
「女同士なら恥ずかしくないでしょ!」
「うわあああ、まずいって!」
こいつ、俺のズボンを自慢のツメで引き裂こうとしてくるぞ! なんて厄介なやつだ、作戦その3も中止だ!
「じょ、冗談! 冗談だってカーミラ!」
「は? いや、ここまで来て……」
「ご、ごめんなさい」
「私の魅力に屈しない人間が男なわけない。やっぱ脱いで。ほら早く、私の忠実なシモベ!」
「ひぃ~、ごめんなさいしたじゃん!」
「脱がないなら脱ぎたくしてあげる。ほら、あついよ~ごめんね~」
「うおお、魔法で熱風当てるな! あ、アチチ!」
その後、カーミラの魔法に対抗するように俺も冷風を体を当てまくったら次の日えげつない風邪を引いた。やっぱり吸血鬼をからかおうとしちゃダメだな。あ、でも、男の尊厳は守り抜いたからね。
カーミラ「はい、あ~ん」
ゴロ「アチチ……お、なんかスタミナ出そうな味」
カーミラ「昨日のチャーハンの残りに無臭ニンニク全部入れておかゆにしたよ~」
ゴロ「おお、どうりで……」