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ドラゴンのたまご


 やあみんな、おはよう。もしかしたらこんばんはかもしれないが、俺が今過ごしている時間は夜明けも間もない爽やかな朝だ。隣には清々しい朝日に照らされながら、艶々の銀髪を揺すって山登りに励むカーミラもいるぞ。


 俺たちはギルドの依頼でドラゴンのたまごを採取するため、昨日の夜からこの山を捜索していた。ドラゴンのたまごならドラゴンがいた場所の付近に転がってるだろう、という安直な予想を裏切られて何時間も探し回っているのである。


「ゴロ~、もう無理、疲れた」

「そうだな。今日はもう帰って休もう」

「ふかぁ~。だっこして!」

「はいはい。お、アグニャがいるぞ」


 向こうも俺たちに気づいてこちらへと近づいて来てくれた。やけに疲労困憊の俺たちをみて、不思議そうな顔をしている。


「朝早くから山登りか?」

「探し物をしてるんだ。ドラゴンのたまご見てない?」

「いや、見てないが。というかドラゴンを退治して1ヶ月経ってるし、以前はあったとしてももう無いのでは」

「それはないね。ドラゴンの孵化は特殊な条件下でしか起こらないし、たまごは周りにカモフラージュするから持ち去られたとも考えられない」

「詳しいな、カーミラ」

「ドラゴン退治の専門家だからね、ふかっ」


 孵化とふかふかをかけているのだろうか。それはそうとして、ドラゴン退治の専門家ならドラゴンが産卵する場所に心当たりが無いのかな。無いんだろうな。あったらすぐ見つけてるわな。


「さて、私はパトロールに戻るとしよう。もし見つけたら譲るよ」

「ありがとな、アグニャ」

「お仕事がんばって~」

「じゃあな~……おっとっと!」


 俺たちに別れを告げ、山を登ろうとしたアグニャは突然転びそうになった。どうやら足元にデカい石ころがあったようだ。あまり整備されていない山道だし、俺たちも気を付けなきゃな~とカーミラに声をかけると、何だか驚いた様子で石ころをガン見している。


「こ、これ、ドラゴンのたまご!」

「は? このコケまみれのデカい石が?」

「間違いない。コケを剥がすと……ほら」

「このダイヤモンドのような質感、我が国を襲っていたドラゴンのウロコと同じ色だな」

「こんなあっさり……いや、ありがとうアグニャ。カーミラもすごいじゃないか、一発で見破って」


 コケを剥がしてドラゴンのたまごだと言われれば確かに分かるが、さっきアグニャが蹴っ転がした時の見た目は完全にただのデカい石だった。さすがドラゴン退治専門家、ドラクラー。

 小竜公サマはもしかしてたまごの駆除も承ってたのだろうか。ドラゴンの発生を未然に防ぐドラキラー、お買い求めはカーミラまで……って、何を考えてるんだ俺。


 ともかくアグニャに礼を告げ、俺たちは下山して家に帰ったらすぐに眠りについた。なんせ夜通し足場の悪い山の中を歩き回っていたのだから、疲労はピークに達していた。カーミラは箱のフタを開けっぱなしで眠り、俺はソファで一休みしてたらそのまま座った体勢で眠ってしまった。


 変な姿勢で眠ったので、結局昼過ぎに目が覚めてしまった。しかもあまり疲れも取れていないし最悪である。しかし起きたら腹がすいたので、ひとまず昼食をとることにした。


「おいしょ、フタ閉めてあげてっと。たまごは……ふかふかが守ってくれたのか、ありがとな」

「ふかぁ……」

「寝言までふかふかなのか」


 カーミラにたまごを任せていたので割っていないか不安だったが、ふかふかが身を呈して守り続けてくれてたので無事だった。ふかふかにはドラゴンのウロコの飾りもついてるし、自然と引き付けあったのだろうか。


 ともかく俺はふかふかをたまご守りの任から解放し、安全な袋へとたまごを移した。カーミラの体温であったまっているが、まさか孵化したりしないよな。特殊な条件下でしか孵化しないとか言ってたけど、なんか不安なんだよなぁ。


x x x x x x x x x x x x x x x


「というわけで、これがドラゴンのたまごです」

「すごいぞ、確かに本物じゃないか。お前の最近の有能さはどうしたと言うのだ」

「なんか今日はおだてますね、ギルド長」

「いやな、ぶっちゃけるとドラゴンのたまごなんて一生かけて探すような代物なんだぞ。嫌がらせがてらお前に任せたが、まさか即座に持ってくるとは……」


 なんだと。今回はたまたまドラゴンに心当たりがあったからよかったけど、まさかそこまでレア物だなんて。そういえばドラゴンは吸血鬼よりは数が多いものの、世界に100匹もいるかどうかって希少さだ。


「とにかく依頼はこなしましたよ。それでは」

「ま、待て、後出しで悪いのだが、ドラゴンのウロコ……特にこのたまごと似たような質感の物はなかったか?」

「え~、一応ありますけど……」

「でかした! それも納品したら報酬を10倍にする!」

「今日中にお納めします!!!!」


 今回の報酬はただでさえ破格だというのに、うちにいくつかふかふかの飾り用にストックしてるウロコを献上したらさらに跳ね上がるなんて!

 いったいどんな人間がこの依頼を出してるのかは知らないが、まあ俺には関係のないことだ。うおお、大金が俺を待っているぜ!!


「ふん、金に目が眩む男でよかった。む、どうしました、依頼主さま」

「あはは、やっぱ無理難題ふっかけたかな~って思いまして。それと、当店の太客であるあなたに依頼主さまなんて言われると困りますよ」

「そうですか、ゴーレム館の店主殿。そうそうそれですが、さっき走り去ったやつが納品してきましたよ」

「え、まさか、えええええええ!?」


x x x x x x x x x x x x x x x


 家に着いたらカーミラがちょうど風呂から上がってきた。そういえばもう夕方か、今日はろくに休まず動き回ってるなぁ。


「ゴロ、どっかいってたの」

「ギルドにたまご納品しにな。そうそう、ふかふか用のウロコってどこに置いてたっけ?」

「なんで?」

「なんかウロコも一緒に納品すると、報酬がいっぱい増えるんだよ。1枚分けてくれ」

「それはできない。ふか!」

「なんでだよ、もったいねえぞ」

「だから、ふか!」

「は?」


 なに言ってるんだろう、この風呂上がりでパンツ一丁の変態吸血鬼は。あんまりふざけたこと言って俺の金もうけを邪魔するなら、ちょっと分からせてやるぞ。パンツとかベビードールだけの薄着でうろついた事を後悔させたろか、お?


 という感じでカーミラに俺は本気だぜ! という圧をかけたら、めんどくさそうにカーミラが事情を説明しはじめた。


「あのね、ドラゴンのたまごの孵化にはウロコが必要。つまり誰かがドラゴンを悪用しようとしてるって事」

「そ、そうなのか!」

「野生のガキドラゴンなら大した脅威でもないけど、もし悪い人がドラゴンを利用すると言うのなら、それはそれはだるい事に」

「それじゃ俺は断ってくるよ! 金なんかに眩んでまた罪を犯すとこだったぜ、ありがとう!」

「それがいい……へっくしょん!」

「ああ、そんな格好で長話するから。ほら、暖めてやるよ」

「ふにゅ~。ぽかぽか」


 暖炉の前でカーミラを膝に乗せて抱き締めてあげながら、俺は危うく汚名挽回しそうになった事を反省する。俺はでしゃばってはいけない、欲張ってはいけない。けして主役ではないのだから、後先考えずに行動してはいけないっていう誓いを再び心の中に刻んだ。


 膝の上に乗っかっている、このかわいらしくも頼りになる吸血鬼との暮らしを終わらせたくない。


「……ゴロ、ん」

「なにしてんだ?」

「キス。あ、脱ぐ?」

「はぁ~、暖まったみたいだな。んじゃギルド行ってくるぜ!」

「もう、照れちゃって。ふかふか」


 前言撤回。あんまり過剰評価すると、肩透かしを食らった。カーミラの誘惑を流した仕返しにチャームとかされたら面倒だし、さっさとギルド長の元へ行くことにした。


 …………


 そしてまたもギルド。距離が近いとはいえ何度も国と国を行き来するのは疲れたぞ。今日はエシャーティの家にでも泊まらせてもらおう。


 と、ギルドに珍しい人がいる。あれは……


「あれ、ゴーレム館の店主さんじゃないですか」

「こんばんは、ゴロさん。あなたがドラゴンのたまごを持ってきてくれたと聞いて、どうお礼をするか悩んでたんですよ!」

「ほほ~、依頼主はあなただったんですか。あんな使い道のなさそうなたまごを高額の報酬出して手に入れて、一体なにを?」

「ええ、実はゴーレム全書という書物を最近買いましてね。そこにダーゴマキナという強そうなゴーレムが記されてたので造ろうかと」


 この人、自分でゴーレム作れたのか。というかドラゴンのたまごを素材とするダーゴマキナってめっちゃ強そう。


「でも大金をはたいてまでゴーレムに入れ込むとは、凄まじい情熱ですね」

「うふふ、ダーゴマキナくんが完成した暁には最近噂になってる裏ダンジョンのボスになってもらいますよ~」

「裏ダンジョン……?」

「それについては俺が説明してやろう。ウロコは持ってきたか?」


 うっとりとダーゴマキナの事を話す店主に変わり、ギルド長が話しかけてきた。


「お前の整備した遺跡を利用した新米たちが、近頃優秀な成果をあげているのだ。そいつらのために更なる腕磨きの場を設けることになってな」

「なるほど、それでどこかに裏ダンジョンを整備するのですね」

「いや、場所はもう決まっている。あの遺跡だ」

「へぇっ? それはまたどうして」

「だって最初に挑んだダンジョンに実は裏ダンジョンがあった、みたいなの冒険者は大好きだろう」

「あっ、確かに好きそう」


 冒険者ってそういうの大好きだよね。モンスターの襲撃受けて廃村になった村に後日行ったら復興してて都会になってた、とか。


「その裏ダンジョンでもボスが必要なので、再びこのお方へ協力を願ったのだ。なのでお前に払う報酬はギルドの予算から出ている」

「そうでしたか。そういうことなら報酬は要りません。今は生活に困ってないので」

「ほ、ほんきですかゴロさん!? 超貴重なドラゴンのたまごを持ってきたのだから、どんな理由でももらって当然ですよ!!」

「そうだぞ、ゴロよ。近頃のお前は優秀だしもらっておけ」


 ほんとは俺だって1年は遊んで暮らせるような莫大な報酬、ほしいよ!!! でもたまご探しはほぼ人任せだったし、さっき欲張らないようにしようって心に誓ったじゃないか。だから俺は二人の誘いを頑として退けることにする。


「本当にいいんです。あ、うっかりウロコ忘れちゃったなぁ。ギルド長直々の依頼、しかも大事業に関わる貴重な物を忘れるなんて大失態! これは報酬カットも致し方ないな、残念だな~」

「……ふん、ますますお前が嫌いになったよ。そこまで言うならそうさせてもらおう」

「わかりました、では明日納品しに来まーす」

「ほ、ほんとに断っちゃいましたよ!!」

「ふん、だから嫌いなんだよあいつ」


 俺はただ自分の心に誓った信念に従ったまでさ。今日はずっと動き回って疲れたな、でもなんだか心地の良い気分だぜ。



ゴロ「あの~、泊めてくれませんか」

エシャーティ「カーミラが一緒ならいいよ!」

ゴロ「い、いません……」

エシャーティ「じゃ無理。ごめんね~」

ゴロ「あ、そうよね、ダメよね、あはは……」


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