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エシャーティとギルド長の馴れ初め


 今日は家にエシャーティが遊びに来ている。カーミラと紅茶を飲みながら楽しそうに談笑しているので、俺は何かお茶菓子でも持っていって、あわよくば美少女たちのおしゃべりに混ざろうとした。

 そしたらとんでもない事を話題におしゃべりしていたので、俺は思わず部屋の陰から聞き耳を立てて見つからないようにした。そう、二人は俺の大嫌いなギルド長についてなにやら話しているのだ!


「それでふかふかがねぇ」

「うふふ、ギルさまって昔からあんなんだったわよ」

「人間にしては強い。だが次はぶちころ」

「やめてね~カーミラ。あたし怒るよ」

「ま、あいつは別に間違ってはいない。ふか~」


 ギルド長の戦闘力についておしゃべりしているのだろうか。それなら俺も混ざっていいかな。ギルド長は誰がどう見てもバチクソ強いので、そこに異議はないし。


「お茶菓子持ってきたよ」

「わ~い、ビスケット~」

「気が利くわね、ゴロ!」

「ゴロもおしゃべりしよ」

「おう、やる事ないし混ざるぜ!」


 そしてどんな事を話してたのか、あたかも知らないかのように二人に聞く。立ち聞きしてたことは内緒だ。


「ギルさまって何者なのか、カーミラが知りたいって言うのよ」

「まだ何も聞いてないけどね」

「俺もそれは気になるな」

「実はあたしも詳しくは知らないの。初めて会った時からあんなだったし」


 あんな、というのはたぶん神様を呼んだりするぶっ飛び戦術のことだろう。正直俺はギルド長本人よりも、エシャーティとギルド長の馴れ初めの方が気になるのだが。どうしてエシャーティはあんなにギルド長が好きなのか、という事が。なのでそれとなく聞いてみる。


「そういえば二人はどういうキッカケで知り合ったの?」

「話せば長くなるね。あれはもう10年くらい前だったかな」

「エシャーティ、遠い目。ふかふか~」


x x x x x x x x x x x x x x x


 悪い政治家や自惚れた王族、悪どい資産家や汚い手を使う実業家があたしは許せない。


 弱い人間をいたぶって私腹を肥やしたお金持ちどもの資産を、あたしはあるべき元へと還元する義賊として世間を騒がせていた。たった一人で強固な警備網をくぐり抜け、屋敷から盗みあげた大金を市中でバラまく。もちろんあたしは大罪人として指名手配されていたけど、街の人たちが衛兵からあたしを匿ってくれて何とか難を逃れていた。


 今日も皆の期待を背負い、単身貴族の屋敷へと忍び込んでいた。そこまでは順調だったが、問題は仕事を終えて屋敷から出ようとした時に起こった。


「お前が噂のエシャーティか」

「しまった……見つかったか!」

「その荷物を全て置き、大人しく着いてこい」

「嫌よ! 権力のイヌの言うことに従うわけないじゃない!」

「む、逃げるな!! 出でよヘルメス、我にケリュケイオンを授けたまえ!」

「うっそー! なにあれ!?」


 警備の男がなにやら叫ぶと、なんと神様のようなものが物陰から現れて妙な杖を渡すとまた消えていった。しかしそれがどうした、その杖がどんな作用をもたらすかは知らないが、百戦錬磨のあたしを捕まえる事などできるわけない。


「ビックリしたけどハッタリね。バイバ~イ」

「ふふん。目には目を、泥棒には泥棒神を、だ!!」

「あーあー聞こえませーん」

「ケリュケイオンよ、逃げる者を追いたい。故に追いかけなければ逃げぬ。ふんがァ!」


 やつは意味不明な事を叫んで杖を振っている。なんかアブないやつみたいね、さっさと逃げましょう……ん?


「あ、足が勝手に動く……!?」

「エシャーティよ、相手が悪かったな。もし領主が俺のギルドに依頼しなければ、お前は偉大な義賊として祭り上げられたままだったのに」

「ぐぐぐ、なんであんたの方に行くの!?」

「そんなこと俺に聞かれても知らん。杖の持ち主であるヘルメスに聞け。呼べるなら、だけどな」


 どんどんあたしは警備の男の元へ向かい、とうとう手錠をかけられてしまった。こんなにあっけなく捕まってしまうなんてとても信じられない。

 それにあたしが捕まってしまえば、せっかく悪い金持ちどもが考えを改めてきていたのにまた調子に乗ってしまうじゃないか。全てパァだ、協力してくれた街の皆や希望を託した弱者たちに合わせる顔がない……


「ごめんみんな、ぐすっ、ふぇぇん……」

「エシャーティよ、なぜお前は一人で頑張る?」

「だってあたしの家族は、弱い人たちから搾取して栄えた悪しき一族なの……」

「一族の罪を償うためにこんな偉業を一人でやってのけたと言うのか」

「そうよ。でもいくら償ったって神様は許してくれなかったみたいね。年貢の納め時よ」


 思わず涙が込み上げたものの、何だかこの人は話が通じるので引っ込んでしまった。手錠をかけたし領主へ引き渡すんだろうけど、なぜかあたしを見つめて考え込んでいる。よく見るとこの人なかなか男前ね、なんだか照れちゃう……


「よし。エシャーティ、俺のギルドに来ないか」

「それはまた急だね」

「俺もここの悪徳領主には愛想が尽きているのだ。実を言うと、お前の盗みが成功していればやつの治世は崩れ去り、しかも有力な後釜が控えている状況なのだ」

「んん? よく分かんないわ?」

「つまり俺に着いてくればいい。この街の者は心配しなくていい、次の領主候補はまともだ」

「そう、そうなのね、素晴らしいわ!」


 ようやくこの街は悪政から解放されるのか。そしたらあたしの出番はおしまいね。助けを求める弱者を探して、また風来坊をしましょう。


「おい、聞いていたのか、俺についてこい」

「……それはできないわ。あたしは一族の罪を償う事に一生をかけるの。だから、」

「だったら俺のギルドはちょうどいい。たまにここの領主みたいなクズが依頼を出してくるが、大半は本当に困っている者からの依頼だ」

「で、でもあたしは悪い金持ちを成敗するの……」

「じゃエシャーティにはそれ系の仕事を回す。一人であてもなく悪代官を探すよりは、よっぽど効率的に世直しできるぞ」


 俺に任せろ、とたくましい言葉を渋いけど優しい声で言う。あたしはその男らしい姿に一気に心惹かれた。この頼もしい男の人になら、罪深い一族から生まれたあたしも甘えてもいいだろうか?


「……こんな、ワケありの女でもギルドに入れてくれますか」

「喜んで迎え入れるさ。さあ行こう、エシャーティ」

「はい! えっと」

「俺のことはギルド長と呼べばいい」

「えへへ、じゃあギルさま!」

「……ま、よそよそしいよりはいいか」


x x x x x x x x x x x x x x x


 エシャーティの熱い語り口による思い出話は、俺たちに紅茶を飲むことを忘れさせるほどの聞き応えであった。


「ま、こんな感じでギルさまと知り合ったのよ」

「エシャーティ、意外な過去があったんだな」

「なによゴロ、ワケあり女に軽蔑した?」

「薄情者がいるよふかふか~」

「いやそうじゃなくて、なんか仲良し家族のイメージあったからさ」

「ああ、それはよく言われるね」


 まさか良家の、しかも裏表のなさそうなエシャーティには似つかわしくないちょっとワルな家柄の出なんだぜ? そう考えるとエシャーティがますます魅力的に感じるな。まあ貧困家庭で育ちましたと言われても、それはそれでそそるけどな!


「それはそうとギルド長は昔から神様を召還してたんだな……」

「ギルさまはご自分の事を何も話してくれないのよね。まあそういうミステリアスなとこも素敵なんだけど、うふふ……」

「ゴロ~、お茶」

「おう、待っててな」


 エシャーティがニヤニヤしてギルド長のことを考え始めたので、俺とカーミラはお茶を飲みながらそれに相づちを打つ。今までエシャーティがなぜあんな嫌なやつに惚れているのか不思議だったが、それも納得だ。

 しかしギルド長は露骨に俺とエシャーティで対応違うなぁ。まあエシャーティは自分が犯したわけでもない罪を健気に償おうと一生懸命だったから、手をさしのべてあげたくなるのも分かるけどさ。


「はぁ~、ギルさまはほんと良い声してるわよねぇ。あの声は甘えたくなる声だわ」

「ふか……ふか……」

「おい、飽きたからって遊ぶなよ。聞いてやろうぜ、ほら」

「うふうふ、うふふ」

「ふかふか、ふかか」

「はぁ……」


 美少女二人の特に意味のないこの会話をここから2時間聞き続けることになるとは、今の俺には知るよしもなかった。



エシャーティ「ほらみんな、今日の収穫!」

街の人たち「うぉぉ、ありがたや~!」

エシャーティ「あ、ギルさまも一緒にバラまきますか?」

ギルド長「やらん、こんな悪趣味な事」

エシャーティ「あ、あくしゅみ……!?」


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