カーミラのお風呂事情
みんなはちゃんと毎日お風呂に入っているかな? 俺とカーミラはきちんと毎日欠かさずに入っているよ。もちろん一緒には入らないけどな。
ほら見てみな、今ちょうどカーミラが浴室へ入っていったぜ。土の敷き詰められた箱に眠るカーミラは、寝起きにすぐ風呂に入る事が多い。たまに腹が減ってたりしたら先にめしを食うけど。
カーミラがお風呂に入ってる間に夕飯を作ろう。なんせカーミラは2時間くらい入浴するから、今から料理を作り始めるくらいでちょうどいい。
しかし、さあ米を研ぐかという時にカーミラが風呂場から大声で俺を呼んだ。
「ゴロ~、お湯出ないよ!!」
「おかしいな、ボイラー見てくる」
「ふぇ~さむいよ~」
「急ぐから我慢してて」
外に出てボイラー装置を見てみるが、よく考えればこれが壊れてるかどうかなんて俺には分からないぞ。魔法を動力に動いているらしいから、もしかすると電気の魔法を浴びせれば直る……?
「びりびりするぞーなおれよー」
「ピピピ……災害防止装置ガ作動シマス」
「およよ」
「リセットスルニハ管理会社ヘ」
「ふぇーくち!」
カーミラのくしゃみが聞こえる。俺はこの謎の装置を業者に任せることにして、ひとまずカーミラに服を着てあったまっててくれと脱衣所のドア越しに言った。するとカーミラは突然浴室から出て来て、俺に抱きついてきた!!
「あっためて!!」
「ひぇ~、まずいですよ!!」
「すりすり……」
「せ、せめて服を着てくれ」
「ゴロ~、着せてちょうだい」
そんなことしたら、その、カーミラの裸体が目に入るじゃねえか! いや裸で抱きつかれてる状況も既にアウトな気もするけど、俺は見てないからセーフ。とにかく俺は目を固く絞り、抱きついてるカーミラを少しぬくまらせてあげてから脱衣場を出た。
俺の少し後に土ボコリの着いた普段着を着たカーミラが、脱衣場から不満そうな顔で出てきた。
「風邪ひくかも。ゴロのせい」
「ごめんなさいね。そうだ、アグニャにボイラー壊れたから業者手配してもらわないと」
「私も行く~」
というわけで城へ行きアグニャの部屋へ来た。どうやらアグニャは一仕事終えたばかりだったのか、少し汗をかいていた。
「どうした、何か用事か?」
「家のボイラー壊れてさ。あの家の設備は国が提供してくれてるし、直すのもここ来たらいいかな~って」
「自分で業者でも何でも呼べばいいだろう」
「いや、以前王様に家が壊れた時はワシを頼りなさいって言われてさ……」
「そうだったか」
しかし地震で被害にあった時とかはすぐ頼ろうと思うのだが、今回はただのボイラーの故障である。なんだかケチなお願いをしてる気がしてきたぞ。やっぱ自分で業者呼ぼうかな。
「なるほど、話しは聞かせてもらったぞい」
「お、王様だっ!」
「なぜこんな、私の部屋の前などに……」
「窓からカーミラたちが来るのが見えてのぅ。もしやと思いここへ来たのじゃ」
アグニャの部屋に置いてあるサンドバッグで遊んでたカーミラも、王様が来たのでこちらへ近寄ってきた。
「王様、ごきげんよう。ふかふか~」
「ほっほ、麗しの小竜公殿、こんばんは。そうだ、直すついでに家の風呂場の不満を解決しようぞ」
「ふとっぱら~!」
「でも俺たち、あの家の風呂場に何の不満もないけど」
「いや、あるよ」
毎日みっちり2時間も使ってるクセに不満があるのかよ。しかしカーミラは吸血鬼だし、もしかしたら人間には想像もつかない不便があるのかもしれない。俺たち人間はカーミラの不満とやらに興味が湧き、3人とも神妙な面持ちで耳を澄ませた。
「蛇口から血が出るといいな~」
「血……?」
「そう、血。バスタブいっぱいの血で湯浴みをするのが、吸血鬼本来の入浴なんだよ」
「しかしカーミラよ、我が国の死刑囚を片っ端から提供していってもすぐ尽きてしまうぞい」
「何も人間じゃなくてもいいよ。豚とか牛でも」
「ほぉ~、それなら農家に手を回させて、解体した肉牛や鶏などから出る血を毎日ゴロの家へ寄越すとしよう」
「バスタブがあふれるくらいあると、最高」
「余裕で提供できるぞい、我が国は畜産大国じゃからな~」
なんか俺とアグニャを置いてきぼりにして、すげえ血生臭い取引が進められてるぞ。しかし王様もカーミラの吸血鬼っぽい行動にウキウキで協力してるし、拒否できない。王様ってなんか吸血鬼フェチなとこあるよな。
「というわけじゃからアグニャよ、明日は農家さんの元へ行脚しよう。護衛を頼むぞい」
「ははっ、我が騎士団の精鋭でお供します」
「それじゃカーミラとゴロよ、今日の風呂はうちで入っていくとよい」
「ありがとうございます」
「ありがと、一緒入る?」
「むほほ~!! はいるはいる!!」
「王様じゃなくてアグニャに言った」
「あ、そうじゃよな……じゃあゴロよ、ワシとお風呂に入るか!?」
「えっ……!? あ、はい!?」
断るのも失礼だし、第一王様はしょげそうなので一緒に入ってあげた。ちなみにカーミラが家でどんな風に過ごしてるか、とか話しながら背中を流したらすごい喜んでたよ。
城の大浴場で入ったから兵士たちも王様来てびっくりしてたけど、みんなでどんくらい長く湯に浸かれるか大会とか、行方不明になった王様の入れ歯を捜索したらなぜか掛け湯の湯船に入ってたりして楽しかった。きっと女湯のほうでもアグニャとカーミラは楽しい入浴をしてたことだろう。
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翌日、早速ボイラーの修理業者が来てくれて無事にお湯が出るようになった。そして夕方になると、王様とアグニャが直々に家畜の生き血を持ってきてくれた。
「ふぅ、馬車の運転ご苦労、アグニャよ」
「ありがたきお言葉です。さあカーミラ、好きなだけ使え。この馬車に満載した樽全部、血だ!」
「うふふ、新鮮で強烈な香りが私の体をくすぐる……ありがと~、王様」
「ふひょぉ~、か、快感」
「おい、チャームしてないよな、シャレにならんぞ」
「王様には今まで一度もしてないんだけどなぁ」
大量の血を前に本能が悦んでいるのか、カーミラは妖しい笑顔でお礼を言った。すると王様はヘナヘナと力が抜けてしまったみたいだ。
「よし、早速おふろにしよ~っと」
「しかしこの樽全部を運ぶのは骨が折れるぞ」
「めちゃかるだよ、ほら」
「……ぐ、アグニャ、よくこれ持てたな。100kgくらいあるんじゃないか!?」
「いや、持てないから転がして運んだが」
「だよな!?」
カーミラはそんな樽を小脇に抱えつつ、グワシと両手で2本ずつ持って運んでいる。なんと計6本をいとも簡単に持つどころか、ズダダダダと猛然とダッシュしている……
「付き合ってらんないぜ、カーミラが使うものだし任せとけばいいか」
「そうだな、私も運転で疲れたし」
「さすが吸血鬼じゃな~、ド迫力じゃわい!」
「おいしょ~、えいしょ~、どっこいしょ~!!」
あっという間に運び終わってしまった。10本の樽をたった2往復で運びきりやがった。化け物かこいつ、と思ったが化け物だったしなんならその頂点だったわ。
「それじゃ王様は一日中行脚してお疲れなので、そろそろ帰らせてもらう。ではな」
「これから毎日、城の者が夕方頃に生き血を届けるからのぅ!」
「ほんとにありがと! じゃあね~」
「お気をつけてください」
馬車に乗り込み、アグニャはヒヒィーンと馬をいななかせ去っていった。さ、俺も夕飯でも作るとするか。
「ゴロ~、おふろはいる」
「おう、じっくり入ってこい」
「動物の血だとバスタブに注ぐだけじゃダメ!」
「え、そうなの?」
「最高の湯浴みには、ゴロの協力が不可欠」
あれだけ人間に贅沢放題を尽くさせといて、まだ注文あるのかよ。まあいい、ここでやめるとアグニャと王様の苦労が水の泡になるから、何をするのかは知らんがやってやろうじゃないか。
「まずこの浴槽に血をいれます。だばー!」
「ふむふむ」
「次、人間の血を少々混ぜます。かぷー!」
「ぐっふん」
「これで完成。あん、もう我慢できない……!」
「うわ、いきなり脱ぐな! 見えちゃうだろ!」
風呂場でいきなり脱ぎ散らかし、ザブンと血の風呂に入るカーミラ。その表情は非常に恍惚としてトロけきっている。そんでまたほのかにぷるぷる身震いしているのが、なんというかまた、俺の理性を侵略してくる。
「んっ……」
「はっ……もしやおしっこ!?!?」
「なわけないじゃん! 私がお風呂でするわけないじゃん!!」
「だ、だよな、ごめんなさい」
思わず口が滑ってしまった。あんまり女の子の入浴する姿をまじまじ見るのもアレなので、俺はカーミラの脱ぎ捨てた洗濯物を回収して、立ち去ることにした。
「あ、ぱんつ~」
「なんだよ」
「えっち~」
「なんもしてねえだろ!?」
誤解されるようなことを言うんじゃねえよ。俺は人畜無害をモットーに生きるって誓ったから、女の子に、ましてや自分のご主人様に手は出さないぞ!!
まったく災難だ。まだきゃあきゃあとカーミラははしゃいでるが、もう構ってやんない。あれ、そういえば俺まだ風呂入ってないけど、まさかあの血の臭いが充満した浴槽にお湯をいれなきゃいけないのか? というか、これから毎日?
……まったく、災難だッ!!
カーミラ「ふふ、アグニャ、触るね」
アグニャ「あ、あの、汚くないだろうか……?」
カーミラ「そんなことないよ。でももう随分、満足にできてなかったんじゃないの~」
アグニャ「んっ……あぁっ、き、気持ちいい」
カーミラ「はい、背中洗い終わったよ~」
アグニャ「おっ、かたじけない。一人じゃ中々洗えなくてな」