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王様と夕食


 今朝急にアグニャが訪ねてきて、王様がカーミラと交流したがってると伝えてきた。断ることなど当然できないので、今日の夕方に謁見しにいく事にした。

 王様は吸血鬼に興味があるのだろうか。そういえば以前カーミラと会った時も、憎きギルド長みたいに敵対心を出すわけではなく、割りと友好的に接してくれたし。そしてなにより、吸血鬼について常人よりも色々知っている事も多そうだったしな。


「さ、行こうカーミラ」

「ふかふか、いつの間にか綺麗」

「寝てる間に洗ったんだよ、大急ぎでな」

「ごくろ~さん」


 俺から血を吸ったときにうっかりこぼしたシミが少し付いてたので、大急ぎで洗ったのだ。あまり汚れてはいなかったが、王様の目にも留まる物だし少しでも綺麗な方がいいだろうと思ったのだ。


 ちなみに布についた血のシミは大根おろしを薄い布で包んで、血の部分を何度か軽く叩くと大根おろしが血を吸収してくれるぞ!

 血と何百年も関わってきたカーミラが直々に教えてくれたが、昔の人々もカーミラがこぼした血のシミに悪戦苦闘してたのだろうか?


 と、そんな事をいってたらもうお城だ。アグニャが出迎えてくれて、王様のところまで案内してくれる。夕方ということもあり、日勤と遅番の兵士たちが持ち場を交代している姿もちらほら見える。


「よくぞ来た、ゴロとカーミラよ。老いぼれとおしゃべりしに来てくれて嬉しいぞ。そうじゃ、夕食をご馳走しようぞ、ほほほ~」

「ごちそう、うれしい」

「ありがとうございます、王様。しかし王様と吸血鬼の食事に平民同様の俺が居合わせるのは場違い感が……」

「そんな気を張らんでもいいが、それならばアグニャも同席させよう。そなたらは友人だから気楽じゃろう」

「わ、私なぞが王のご夕食に同席するなど大それたこと……」

「めんどいね~、人間ってのは」

「こやつらがクソ真面目なだけじゃろ」


 そりゃあんたら二人は生まれついての強者であり、いついかなる時でも上の立場だから何でもいいんだろうけどな!

 俺たちゃな、平凡な地位から必死こいて成り上がっただけの凡人だから、いくら立場があんたらに近づいたって決して対等にはならないんだよ。そこら辺の身の程を弁えたから俺とアグニャはここまでこれたんだろうし。


 そんな事も露知らずな二人の夕食に結局付き合う事になるのだが。ま、俺も一応英雄だしここまで来たら素直にご馳走を堪能して帰るぞ!


「これは……なんの肉?」

「鳥刺しじゃよ」

「と、トリですか。生の。俺の知らない料理ですね……」

「ゴロよ、私たち平民はやはり場違いだったようだな。まさか料理一つで貴賤が別たれるとは」


 カーミラは王様のすすめでバクバクと白い肉や赤い肉、さらには炙られた肉を喰らっている。そもそも何の鳥だ? なんで白い鳥刺しと赤い鳥刺しの2種類があるんだ……?


「下に敷いておるのは玉ねぎじゃよ~」

「ふむ、アクセントにいいね」

「カーミラはどの鳥刺しが好きかの?」

「白いのが柔らかくてぷりぷりしてていいね」

「ワシは赤いのの肉感、旨味が好きじゃな~」

「あ~、わかる」

「さすが吸血鬼じゃなぁ~」


 王様は焼酎を持ってこさせ、鳥刺しを食いながらドストレートでちびちび飲んでいる。カーミラはカーミラで血のように真っ赤なワインを飲みながら好き放題鳥刺しを食っている。ああ、またふかふかにワインこぼして……


 ちなみに俺とアグニャはおまけのように置かれていたステーキを仕方なく食べている。いや待て、このステーキのほうが絶対あっちの鳥刺しより高級だって。手下2名がなんで主人2名より良いもんを食ってんだよ!


「ねえ王様、私に何の用だったの」

「大した理由はないのぅ、ただドラゴンを退治してくれた伝説の小竜公と話したいだけじゃ」

「ふかっ、よくぞ見破ったね~」


 ドラキュラの語源である小竜公と言う単語だけでなく、なんとそれがカーミラだということまで王様は見抜いていたのか。カーミラは俺以外の人間にはまったくその話をしていないのに、どこまで物知りなんだこの人。


「王様はカーミラの逸話をご存じなんですね」

「カーミラがワシの知る吸血鬼伝説全ての主役だとは、にわかには信じられんがのぅ。しかし人間に友好的な吸血鬼は他におらんし」

「あんなに仲良くしてあげたのに、少しいない間にすっかり私のこと忘れ去ってた。人間って薄情」

「すまんのうカーミラ。そなたの長い不在は多くの人間から恩を忘れさせたようで」

「べつにいいけどね~」


 王様は酒が入り、どんどん饒舌になっていく。ところで王様なのに焼酎好きって意外だよな。なんか焼酎って経済的な酒のイメージがあるから、王様はもっと高級そうな……それこそ泡盛とか愛飲してそうなのに。いや偏見か。


「ワシの先祖たちは長いことあのドラゴンに苦しめられたもんよ。じゃからのカーミラ、そなたが来てくれて本当に助かった。もちろんゴロも、過去はどうあれ結果オーライで感謝しとるよ?」

「俺の大罪を許してくれた事だけで十分なのに、優雅な暮らしまでさせてくれて本当にありがとうございます」

「ありがとね~。お礼にふかふかする?」

「ほっほ、するする……意外にくたびれておるなこれ」


 ふかふかを間近で見たり触った人間はもれなくみんなボロとかくたびれてるとか言うなぁ。一回きちんと大がかりな治療を施してあげようかな、ふかふか。


「しかしゴロよ、初めて見た時からこのクッションが気になっていたが、なんなのだこれは?」

「アグニャ、これはイスなんだよ」

「は?」

「あと私とゴロの愛の結晶……かな~。ぽっ」

「ゴロはカーミラにえらい懐かれとるのぅ。羨ましいわい」

「そうなの~私ゴロしゅきぃ~」


 うーむ、ワインめっちゃ飲んでたし酔ってんのかな。しかしいつも通りといえばいつも通りだしなぁ。吸血鬼だからなのか、まったく酔いが顔とか動きに出ないし。カーミラと一緒に飲んでる王様はもうだいぶベロベロだぜ。


「ほっほ、ほっほ、ほっほっほ……」

「王様! 少し水を飲んで深呼吸しましょう。キツければ私がお部屋までお連れします」

「すーはすーは……楽になった気がするぞい!!」

「さすが王様~! まだまだいけるね~」

「ワシャ王じゃからな!」

「あんま王様に無理をさせるなよ」


 その後もワイワイと夕食会は続いた。酒盛りを楽しむ主人たちを眺めながら、俺たちシモベ組はシモベ組で楽しんでいた。俺もアグニャも自分の主人が楽しんでると嬉しい気分になる、根っからの手下根性を持っているからなぁ。今は主人組の二人の手により食い散らかされた鳥刺しの、なんか下に敷かれてた玉ねぎを一緒に食べている。


「そういえばさ、カーミラってニンニク嫌いなのよ」

「まあ吸血鬼だしな」

「でもさ、この生スライスの玉ねぎは食うんだよな」

「確かに生の玉ねぎは中々ニンニクに比肩する味わいだ。私の息は大丈夫だろうか」

「ん? いいにおいだよ」

「ぶっふぅー!!!!!」

「おわぁ! 玉ねぎ吹き出すなよ!!」


 玉ねぎの辛み成分でむせたのだろうか。まあとにかくアグニャの背中をさすってあげる。うつむいたアグニャの顔を覗き込んでみると、なぜか顔は真っ赤だった。え、酒飲んでないのに酔った!?


「く、なんてはずかしめだ、まさか息を嗅がれるとは……」

「いいにおいだったから別いいじゃん」

「ううぅ~、お前は、お前は~!!」

「へ~いゴロ、私を放ってアグニャとイチャイチャしてるの?」

「カーミラ……うわ、酒くさっ!!」

「むか~!! がぶがぶがぶがぶ~!!」

「ふ、ふぉぉぉぉん!!」


 全身のありとあらゆる部分を咬まれまくり、俺は凄まじい吸血の独特の快感に圧倒されてパタリと倒れた。ぴくぴくと情けなく快感の余波を堪能していたら、女子二人は冷めた目付きで俺を見下していた。


「王様も酔いつぶれてしまったな。部屋に運んであげよう」

「アグニャ~、手伝うよ」

「ありがとう。そうだ、二人で飲み直さないか?」

「お、アグニャもいける口?」

「もちろんさ」

「そうこなくちゃね~」


 俺の頭にふかふかを敷いてくれた二人は、楽しそうにそう話しあっていた。ふふ、アグニャとカーミラが二人で楽しむなら俺は邪魔しないぜ。このまま寝ることにするとしようか。ふかふか、今日はお前と一夜を共にするぜ。おやすみな。



ゴロ「王様、おやめください!」

王様「ええやないか、ええやないか」

ゴロ「シャレになりませんよ!」

王様「ほっほ、かわいいやつめ……うぷ!?」

ゴロ「あっ……知ーらね、ふかふかが大惨事」


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