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実は太陽、平気です


 よく晴れたある日のこと。珍しく昼前に起きてきたカーミラの放った一言は、俺にとてつもない衝撃を与えた。


「くふぅ、いい天気だね~。さんぽでもしよ」

「おお、行ってら……おお!?」

「ふかふかも行こ~ね~」

「え、カーミラって日に当たれないんじゃ」

「そんなことないけど」

「いやいや、初めて遺跡で会った時さ。外に出ようとした時お日さまダメって言ってたじゃん」


 読者の皆さんも一度このページの上らへんから"目次"というボタンを押して、第2話の終盤を見てほしい。ハッキリ証拠があるよ!!


「いや、苦手って言っただけでダメとは言ってない」

「な、なんだって……む、そういえばそうだな」

「じゃそういうわけで行ってくる」

「待って、俺もついてく」


 この国ではカーミラはすっかり吸血鬼であることを受け入れられて、みんな友好的に接してくれる。とはいえ天気のいい日中に一人で出歩かせるのはなんだか心配だ。色々聞きたいことが出てきたし。


「ふぅ、たまにはお日さま浴びないとねぇ」

「おお、本当に太陽の下を歩いている……」

「ねえゴロ、あのお店ってなあに?」

「あれは薬局だ」

「オレンジの変なゾウ置いて、変なの~」

「や、やめなさいそういうこと言うの!」


 色々と危ないからやめなさい。まったく、人の少ない夜中ならともかく、こんな人の多い日中に好き勝手しゃべられると災いを呼ぶぜ。どうにか気を引くことはできないだろうか。


「あつい~。ゴロ、おんぶ」

「はいはい。お、喫茶店があるぞ」

「よし、我がシモベよ突撃じゃ~」

「ははぁー!」


 どうやらご主人様は慣れない日なたを出歩き、お疲れのようだ。まだ外に出て5分くらいだけど。まあ喫茶店ならおしゃべりも出来て都合もいいし、カーミラの気が済むまで休憩もできるからちょうどいい。


「とりあえずトマトジュースとコーヒーで」

「かしこまりました。ごゆっくり」

「みてゴロ、オムライスあるって~」

「食いたいのか? 好きなの頼みなよ」

「ほほ~、英雄様は太っ腹ですな~」

「へい、幸福を運ぶ吸血鬼サマのおかげで」

「くるしゅうない」

「ははぁー!」


 実は日頃からカーミラとこうして外食してみたいとは思っていた。こうして、なんでもない会話をして、冗談言い合ったり、おいしそうなもの食ったり飲んだり。欲を言えばエシャーティも居たら言うこと無しなんだけど、さすがに欲張りすぎか。

 でも今までは深夜、よくて夜中しかカーミラは外に出れないと思ってたのでこういう事はできなかった。カーミラの活動時間に開いてるお店は居酒屋とかくらいなので、なかなか実現できなかったのだ。


「お飲み物をお持ちしました」

「あ、オムライスとホットドッグください」

「かしこまりました」

「わ~、スライストマトが刺さってるよ、ゴロ」

「おしゃれだな。映え~」

「なにいってんの」


 自分でも何言ってるのかわかんないや。でも大きなコップのフチに飾られたトマトを見たら、そう言わずにはいられなかったんだ。映えってなんだろうね。映えって。


「ちゅーちゅー……濃厚~」

「そうだ忘れるとこだった。吸血鬼ってその、お日さま浴びても大丈夫なんだな」

「まあね。動きにくかったり、本来の力が出なかったりするけど死にはしないよ」

「日なたと日かげってどんくらい違うもんなの?」

「人間で言うなら……水中と地上くらいの感じ」

「ああ~、なんか分かった気がする」


 確かに俺たち人間は水中で動くことはできるが、地上よりは動きにくいし水中メガネが無いと視力も発揮できない。きっとカーミラはあのもどかしい感じと似ていると伝えたいのだろう。

 意外にわかりやすい例えがパッと出るところをみると、同じような質問をされたことが何度かあるのだろう。なんせカーミラは人間と親しくしてくれる唯一の吸血鬼らしいからな。人類の吸血鬼に対する知識の大部分は、カーミラから提供された物かもしれない。


 出てきたオムライスをほおばるカーミラを見てると、とてもそんな大層な存在には見えないけどなぁ。ああほら、ケチャップがほっぺについちゃった。


「カーミラ、ほっぺほっぺ」

「ん? あ、キスしたいの? も~好きね~」

「ち、違うぜ!! お、おい、チャームしてるだろ、やめろ~」

「ゴロ、ちゅー!」

「ぐぎぎ……」

「お、おまえたち、仲が良いのは勝手だが場をわきまえてくれよ……」


 げっ、アグニャだ!! めっちゃ見られたくない時に来やがって!! なんてタイミングの悪いやつだ、とにかく誤解を解かないと。


「きゃー、アグニャに見られた~」

「ち、ちがうんだこれは」

「ふむ、知り合いがいたから一緒に昼食でも、と思ったがお邪魔したかな」

「いえぜひご一緒しましょ、騎士団長閣下!!」

「それじゃお言葉に甘えて。しかしカーミラよ、珍しい時間に会うな」

「おさんぽ、おさんぽ~」


 案の定アグニャも吸血鬼が日中に出歩くのを不思議に思ったようだ。俺はさっき得た知識を存分にひけらかすと、なるほどとアグニャも納得した。


 アグニャもカーミラと同じオムライスを頼み、パクパクと食べながらおしゃべりしてくれる。たぶんアグニャはカーミラと少しでも仲良くなりたいのだろう。おそろいのオムライスなんか頼んじゃって、アグニャはこういう部分で距離を縮める節があるんだよね。そういうちょっとした可愛いとこが、むさ苦しい騎士団とか警備隊の男連中をトリコにするんだろう。


「そうそう、今のはチャームされてて俺の意思じゃないんだ!」

「そんなつれないこと言わないでよ~」

「そうだぞゴロ。こんな美少女に懐かれて、お前は非常に贅沢だ!」

「……お、アグニャ。おまえも口にケチャップつけてるぜ」

「わ~、取ってあげる~」

「なっ……!?」


 な、なんということでしょう!! カーミラは何のためらいもなくアグニャのお顔にチッスをしました! ええ、俺は見ましたよ、銀髪で深紅の瞳をした美少女吸血鬼が、スタイリッシュだけどどこか可愛げのある騎士団長にチッスするのを!!


「ぎ、ギリギリほっぺだった! 文句あるか、ゴロ!? ああ!?」

「はいはい、そうしとくぜ」

「ぬおおお! 本当だっつうの!」

「ケチャップ、うまうま」


 アグニャさん、そんな顔真っ赤にして照れんなよ。恥ずかしいのもわかるさ、だってカーミラは女から見ても文句なしの美少女だもんな。ふいにチュウされたら誰でもドキドキするし、もしかしたら気まぐれでチャーム使ってるかもしんないしさ。だからそう気を落とすなよな!


「く、ゴロよ、お互いに今日の醜態は忘れようじゃないか」

「そうだな。今日のカーミラは太陽の下を歩いててどこか変だった。そういう事にしよう」

「ああ、そうしよう。では仕事に戻るよ」

「じゃあね~、すべすべほっぺのアグニャ~」

「くっ、恥ずかしい……」

「なんかその、仕事がんばれよ……」


 災難な昼食を終えたアグニャはイソイソと店を出ていった。俺たちもぼちぼち出るとするか。今日はなんだかすごく疲れたぜ。


「会計、お願いします」

「あ、それなら騎士団長さまが先に払っていきましたので結構ですよ。ありがとうございましたー」

「アグニャ、めちゃやさしい」

「だな、今度お礼しに行こうな」

「さんせ~い」


 なんだかんだあっても、最後まで気を使うのを忘れないやつだ。アグニャはこういう気を回すのが本当に上手い。あまりにもスッと店を出たから、会計をいつ済ませたのかすら俺たちに気づかせない。


 この性格をまるまる犯罪者を捕らえる方向に使わせると、アグニャはマジで強い。実際にアグニャの包囲網から逃げた経験を持つ俺が言うから間違いないぜ。まあ俺は命からがら逃げ切っちゃったけどな。



ゴロ「ところでカーミラ、泳いだことあるのか?」

カーミラ「え、なんで」

ゴロ「例え話で水中って言ってたけど、なんか吸血鬼が泳ぐイメージ湧かないんだよな」

カーミラ「まあ実際泳いだことないし」

ゴロ「ないんかい!」


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