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箱の秘密、明らかに


 そういえば初めてカーミラに会った時に俺の弁当を食わせたが、その際におにぎりを初めて見たって言ってたよな。あの時は記憶喪失だったからそう言ったのかもしれないけど。


「ふ~かふか~」

「ちょっといい、カーミラ」

「ふかっ?」

「最初会ったときにおにぎりを見たことないって言ってたじゃん?」

「そういえばそうだったね」

「あれは記憶喪失だったから? それとも元から知らない?」

「あ~、ほんとに初めて見たかな~」


 ということは、あの国特産の米も初めて見たかそれに等しいはず。ではなぜカーミラはあの国の遺跡にいたのだろうか。自分で来たのなら1度くらいは米を目にするはずだが、俺のおにぎりが初めての米だったら話は別だ。


「あの国じゃ米は特産で嫌でも見かけるのに、なんで初めて見たのかな~って思ってさ」

「私、あの遺跡には封印されてただけだから、あんまあの国のこと知らない」

「そうなの!?」

「ん~、ちょい昔やんちゃしすぎた。てへ」


 小竜公とか呼ばれて祭り上げられてた割には封印されたんだな。ヴァンパイアハンターにでも退治されて、あの箱に詰められて封印されたんだろうか。


「そうそうあの箱だけどさ、なにあの土」

「あれは私の故郷の土だよ~」

「なんでそんなの詰めてるの」

「吸血鬼は故郷の土が詰まった箱の中じゃないと眠れないの! 人間はいいよね、どこでも寝れて」

「へぇ~! 結構苦労してんだな~」


 故郷の土が詰まった箱に入ると、吸血鬼は完全にリラックスできて心地よいらしい。しかし箱に入ってると何故か超常的な力の数々が無力化してしまい、ただの人間と変わらないほど弱体化するらしい。


「悪い人間ども、私が寝てる間に毒殺してきた。もう数百年くらい前のことだけど」

「一回毒殺されたのか。しかし死んでも生気を吸収すれば生き返るんだな」

「ま、いくら吸血鬼がすごくても死から復活したのは私くらいだろうね」


 俺が生存確認で瞳を開けなかったらカーミラは死んだままだったのか。人生なにがあるか分からないな。もし大きなチャンスに遭遇したとしても、活かせないこともあるだろう。あの時だって俺がカーミラの亡骸を気味悪がってどこかへ捨てたりしてたら、チャンスを逃してしまうとこだった。


「ゴロ、昔のことを思い出したら悲しくなった。ギュッてして!!」

「はいはい、これでいいですかご主人さま」

「うぅ~、やさしぃ~。かぷー!!」

「おわ! 血を吸うなら一言くれよ!」

「ちゅーちゅー」

「う、うふふふぅ!」

「ふぅ、ごち。もうあっちいって」

「好き放題するな、まったく……」


x x x x x x x x x x x x x x x


「というわけで、この遺跡は元々カーミラの封印に使われてたらしい」

「結構大きな遺跡よね、ここ。カーミラがどれくらい強力だったか推測できちゃうわ」

「まああの幼女みたいなナリでも吸血鬼だしねぇ」

「あ、もしかするとカーミラが昔使ってた物とかありそうね」


 確かに探せば少しくらいはありそうだ。もしそれっぽいのが無くとも、カーミラはこの遺跡の調度品を材料に作ったふかふかをすごく気に入ってるし、何かお土産に持って帰れば喜ぶかもしれない。


「そうだね、んじゃ新米たちに混じって探索でもしようか」

「いいわ~探索って言葉! それにゴロと一緒にギルド員らしい活動するの久しぶりだね」

「基本俺は一人でするような仕事を任されるからねぇ」

「あたしも自分で仕事を選ぶんじゃなくて、ギルさまから仕事を頼まれたいなぁ」


 他愛のない会話をしながら、俺たちは遺跡を歩きまわった。たまに魔物に苦戦する新米たちを助太刀したりしながら、カーミラが喜びそうな物を探しまわる。


「このおなべのフタ……人工的に開けられた穴の中に入ってて不自然ね。きっと昔カーミラが使ってたものよ!!」

「あ、それは俺が雰囲気出ると思って置いたやつ……誰にも拾われず放置されてたんだ」

「なーんだ。あ、無造作にイスとか燭台が置かれまくってるわ! あれはもう間違いないんじゃない!?」

「あれも俺が使えそうなものを集めといただけで、結局使わず放置しただけだな」

「ええ~、つまんないの。あ、10円みっけ!」


 それっぽく置かれている棚から10円玉を見つけ、大喜びするエシャーティ。どうやら俺の整備したダンジョンは冒険者の人からしたらとても良い感じに仕上がってるみたいで安心した。

 エシャーティは冒険者ではないが、ギルドで受ける仕事は冒険者向けのものばかりやってるので、彼女の反応は冒険者の反応と同じであると見ていいだろう。


「ふっふ~ん、やっぱ探索って楽しいね、ゴロ!」

「うん、たのしいたのしい」

「おっと、ちゃんとカーミラのお土産も探してるからね。ほら、この手鏡とか!」

「そういえばうち、鏡置いてないな。俺も使うだろうしそれ持って帰ろ」


 カーミラだって女の子なんだし、鏡が無くて不便してるに違いない。こういうところはやはり同じ女の子であるエシャーティの方がよく気がつくようだ。もし俺だけで探し物していたら、この手鏡にあまり注意せずスルーしたかもしれない。


 それから色々と探索したが、めぼしい物は新米たちが持っていったようで大した物は見つからなかった。まあ収穫0というわけじゃないだけマシ。俺とエシャーティは綺麗な手鏡を眺めながら、カーミラの待つ家へと帰ったのであった。


「ただいま、カーミラ」

「おかえり。ふか~ん」

「そうそうエシャーティもいるよ」

「こんばんはカーミラ。お土産があるよ~」

「わ~い、なになに」

「ほら、手鏡! はいどうぞ」

「こ、これは……吸血鬼用の鏡!? 高かったでしょ、というかよく手に入れたね」

「カーミラの封印されてた遺跡で見つけたけど」


 見たところ普通の鏡と変わらないが、カーミラが言うには普通は鏡面部分をスズで作るところを、これは銀で作っている高級品だと言う。言われてみると普通の鏡より綺麗に映ってる気がする。


「どれどれ。お、私のお顔は綺麗なままだね~」

「しかし吸血鬼用と言ったって、素材以外に何が違うんだ?」

「銀以外の鏡じゃ私の姿はきちんと映らないよ。ためしに普通の鏡で私を映してみる?」

「ちょうどあたし、お化粧用のコンパクト持ってるわ!」

「さすが~。ちょっと貸して」


 エシャーティから小さな鏡を受け取り、それを覗きこむカーミラ。俺たちも横から覗きこんでみると、なんとカーミラにだけぼんやりとモヤがかかっていた。俺とエシャーティは普通に映っているから鏡が変なわけではなさそうだ。


「こっちの手鏡だとほら、かわいいお顔がばっちり」

「ほ、ほんとだ」

「見た目はただの鏡だから、冒険者たちもまさか高級品だと思わず拾わなかったのね」


 俺も吸血鬼と関わって色々とその生態を教えてもらったが、吸血鬼用の武器というイメージがある銀が、まさか吸血鬼の使う日用品にも使われるなんて不思議である。ということはあれか、世の吸血鬼はだいたいみんな、自分の家に自分の苦手な金属を常備してるのか。変なの。


「とにかく二人ともありがと~。そうそう、めし作ったの、食って食って!」

「ひゃ~、あなたたちすっかり夫婦みたいね! 夕飯を作って仕事を終えた夫の帰りを待つ奥さん……きゃあ~!! あたしもギルさまと! ギルさまとッ!!」

「お、おう、落ち着きなよエシャーティ。しかし嬉しいよカーミラ、ありがとう」

「ふふ~ん、今日はトマトいっぱい使ったパスタだよ~」


 む、パスタ……? パスタはゆで時間が肝要だし、ゆで終えた後に長いこと置いとくと麺が引っ付くんじゃないか?

 まあそんな小さい事を気にしても仕方ない。カーミラが俺のために作ってくれたパスタなら絶対おいしいに決まって、い……る……?


「なあ、これ、パスタ?」

「そだよ~! 麺が短くて食べやすいでしょ」

「へ、へぇ~。ねえゴロ、スプーンある?」

「ふふふ、パスタにスプーン使うなんて、二人とも子供みたいだね~」


 いやこれをどうやってフォークだけで食えって言うんだよ。さてはカーミラ、パスタバキバキに折ったな。まあとにかく食ってみよう。パクり!


「むむッ!?!?」

「う、う、う……!」

「ちょっと二人とも、どうしたの~」

「こ、これ、バチクソうめぇ!!」

「そうね、ドチャクソおいしい!!」

「も~そんなほめないでよね~」


 短すぎるパスタはトマトスープの具みたいになっているが、そのトマトスープがいったい何をしでかしたのか聞きたいくらいおいしい。いや、本当はトマトソースなんだろうけど、めっちゃスープ。


「カーミラってこんなにお料理うまかったのねぇ」

「そうなんだよ、見た目とかはあれだけど、味はマジで人間の常識を超越してる」

「おかわりもいっぱいあるよ」

「やった! ちょうだい!」

「俺にももっとくれぇ!」

「はいはーい、入れてくるね~」


 キッチンへ向かうカーミラを二人で眺めると、なんと寸胴の巨大な鍋からスープを注いでいるではないか!!

 俺とエシャーティは歓喜した。無言で目を合わせ、おいしいものをいくらでも食えるありがたみに静かに打ちひしがれた。ああ、食への感謝って、これなんだなぁ。



カーミラ「他にお土産はないの?」

ゴロ「うーん、後はおなべのフタくらいしかなかったしなぁ」

カーミラ「おなべのフタ……今なら少し欲しいかも」

ゴロ「最近料理してるもんな。しかしおなべのフタを欲しがる吸血鬼って一体……」


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