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カーミラ、怒る


 たまにはカーミラに強気に出てみようと思う。突然なにを言ってるんだと思われるかもしれないが、実はさっきカーミラと小競り合いをしてしまったのだ。どんな状況だったかと言うと……


「ゴロ、ふかふかどこ?」

「今さっき洗って、外に干してる」

「ええー!! せっかくたまには日中起きてのんびりしようと思ったのに!」

「間が悪くてすまんな、夜までふかふかは我慢してくれよ」

「あほ! ばか! ぼけ!」

「そんな怒るなよ」

「めし袋! めし係! めし担当! めしめしめし!!!」

「うるせえー! 俺だって怒るからなカーミラ!」

「ふんだ!」


 という事があったのだ。しょうもない悪口にカッとなってしまいお恥ずかしい限りだが、ここらで一度くらいは俺だって怒ると分からせとかないとカーミラが図に乗ってしまう。

 ふてくされてカーミラはまた寝なおしたようだし、どうするかゆっくり考えることにした。さて、どんな手段で分からせてやろうか……


 と、そこへドアをノックする音が響く。ゴロ~カーミラに会いに来たよ~、というかわいらしい声も飛んできた。エシャーティだ!!


「よく来たね、まあ入りなよ」

「ふふ、この家もすっかり同棲してますって雰囲気になってるね! いいわ~がんばってるがんばってる!」

「せっかく来てくれて悪いけど、カーミラはふてくされて寝てんだ。困ったもんだよ」

「なにケンカ? いいわ~!! あたしもギルさまと仲良くケンカしたいもんよ」


 ほんとエシャーティはなんでもかんでもあの胸くそ悪いギルド長に繋げるな。まあそれはいいとして、一応エシャーティが来たぞとカーミラの眠る箱に声をかけるが、反応がなかった。


「あんな懐いてたカーミラがこんな態度になるって、一体どうしたのよ」

「ふかふかを洗って干してたら、たまたまカーミラが早く起きてきて。で、ふかふかが無いから不機嫌になって俺と言い合いに」

「あ、あんたたちの着火点は謎ね。あのふかふかでこんな険悪になるの」

「ふかふかだけはダメなんだ、ふかふかだけは」


 カーミラにとっても俺にとっても非常に大切な物っていうのもあるが、あれがないとカーミラをふいに見るだけでうっかり生気を吸われたり、逆にカーミラもあれのおかげで気が逸れてるから、誰かと会話する時とかうっかり危害を加えないで済む実用的なアイテムなのだ。


「でも俺も一度くらいはわがまま放題のカーミラを叱ったりしないと、なめられるし……」

「なんだか悩んでるようね。そういう時はだいたいスレ違いが原因なのよ!!」

「は? 全然違うと思うけど」

「そ、そうね、あはは……」


 トンチンカンな事を言いだすなぁ。まあそういう抜けたとこも魅力的に映るんだけどな。マジエシャーティはかわいい。


「冗談はともかく、ケンカしてるならきちんと締めくくりの仲直りは忘れちゃダメよ。ケンカ自体はとても健全な現象だしね~」

「ケンカをほめる人間、初めて見た」

「それで、あたしになにか出来ることないの?」

「エシャーティに頼めそうなことか」


 頼もしい申し出だ。正直俺ごときが怒ったくらいじゃカーミラは全く堪えないだろうし。いや待てよ、怒るという事にこだわるから良い考えが浮かばないのでは?


「ふふふ、なんかいい考えが思い浮かんできた」

「へぇ~、なによなによ~」

「これこれこうこうで……だからあれあれして」

「ええ~、ちょっとそれは酷くない?」

「何を言う! 相手は吸血鬼、俺はめし袋とかめし係とか酷いこと言われたんだ。お灸をすえるよ」

「どうなっても知らないわよ」


 エシャーティは最高の助っ人だぜ。やはり最高の助っ人がいると名案もすぐ思いつくし、それを実行に移せるという頼もしさも素晴らしい。俺たちは早速、打ち合わせをし始めるのであった。


x x x x x x x x x x x x x x x


「くぁ~、よく寝た! あ、優しいおねえさんだ~」

「こんばんはカーミラ。ゴロとどんな暮らしをしてるのか見に来たよ」

「ゴロとは今ケンカ中。シモベのくせに生意気」

「それはよかったわ! じゃあもらってくわね」

「じゃあな~カーミラ! もう愛想尽きたからエシャーティと前の国へ帰ることにしたぜ!」

「……え?」


 ぽかーんと口を開き、驚きに見開かれた瞳はどこか上の空を見つめ始める。そこへエシャーティは追い打ちのごとく俺に腕を絡めてきた。打ち合わせ通りだが俺はその行動に思わずふへへ、と顔をゆるめてしまう。


 そう、もうお察しだろうがこれはエシャーティが俺をカーミラの元から奪っていく強奪作戦だ!

 便利なシモベである俺がいなくなったら、身の回りの世話をしてくれる人間をまた探さなきゃいけなくて面倒だろう。怠け吸血鬼のカーミラはそれを嫌がるだろうから、これを機に少しは心を改めてもらうのが目的である。


「ね、ね、冗談よして。ほらゴロ、めし」

「ありませーん!」

「も、も~。おねえさんもいる前でみっともないよ~」

「ごめんねカーミラ、あたしたち本気なの……」

「ま、またまた~……ね、そろそろ離れなよ」

「やだもーん、じゃ行こうエシャーティ」

「い、いいのかしら」

「あっ、ふ、ふかふか! なんでおねえさんが……」


 まだ分からないのか、カーミラ。このままじゃ俺はいなくなるぜ。ごめんなさいして、これからはちょっぴりでいいから素直になるんだ。


 おいどうしたんだよ、なんでうつむいてんだ。もしや腹が減ってフラフラしてきたか? そんなに体を震わせて我慢してよう。はやく仲直りして3人でめし食おうぜ!


「ゆるさない、エシャーティ……!」

「ほ、ほらゴロ! やっぱダメだわこの作戦! カーミラを傷つけるだけなのよ、こんなの!」

「私から大切な人たちを奪うなァー!」

「うわぁ! そんな怒んなよ!」

「きゃ、きゃあ! やむを得ないわ、応戦するわよ!」


 室内だと言うのに容赦なく獰猛な色をした翼を振るい、姿勢を崩す。巻き起こる暴風やガシャガシャと宙を舞う家具により、俺はうずくまるしかできなかった。そう、俺はな。

 エシャーティはそんなの関係ねえとばかりに、カーミラに突進して翼を押さえつけた。カーミラの予想以上にエシャーティの実力は高く、まさか反撃されるとはといった表情だ。


「ごめん、カーミラ!」

「ふん、後ろをとったくらいじゃ勝てないよ」

「そうね、でもこうするとどうかな」

「……え、俺!?」

「!! ぶ、ぶっ飛ばすよ!」


 エシャーティはシュバっとカーミラから離れ、なんと俺に抱きついてきた。こうすれば攻撃はできまい、と言っているがたぶん普通に殴ってきますよ、エシャーティさん。


「ぐ、ぐ、ぐ、ふかふかまで抱いて……!!」

「ねえカーミラ、誤解なの。少し落ち着いて」

「そうだぜカーミラ、悪かったよ。ちょっと二人で仕組んだだけで、まさか俺がいなくなるのをそんなに嫌がると思わなかったんだ」

「だ、騙した……ううう、あほ、ばか、うそつき!!」

「あ、あいだァァァァァ!!!!」


 横綱のようなビンタをぶちかまされ、俺は脳しんとうを起こしぶっ倒れてしまう。ぼんやりした意識の中、エシャーティとカーミラがお互いにごめんねと謝り合う姿を見た。うんうん、二人の誤解は解けたようでよかった……って、肝心な本来の目的が果たされてないじゃないか!


 しかし俺の意思とは反対に、どんどん意識は遠退いていきやがて気を失ってしなった。


x x x x x x x x x x x x x x x


「う、うむー、あいててて」

「やっと起きた。はい、めし」

「おっ……おはよう?」

「うん、おはよ。ほら食べて!」

「おお、これカーミラが作ったのか?」

「そうだよ! えへ、どうかな」


 かなりガチガチに固められたおにぎりがいっぱい用意されていた。でも海苔を巻いてたり、ふりかけが混ぜ込んであったりと手が込んでいる。お言葉に甘えて一つ食べてみると……


「おっ!? め、めちゃうまい!?」

「えへん、私なんでもできるし」

「うん、どれも固いけどすんごくおいしい」

「人間はなんじゃくだよ~。これがちょうどいい固さなの!」


 カーミラが作ったおにぎりは固いという欠点を除けば、おそらくおにぎりの究極体とも言える出来だった。形も食欲をそそる丸みのある三角で、ベースの塩加減一つとってもまんべんなく全体に振られていて手間がかかってるのがすぐ分かった。海苔も全体に小さな点線を穿ち、かじった時に切れやすくする恐ろしい手間も惜しんでいない……


「うめえ、うめえよ、ありがとうカーミラ!」

「ん。私も、その、いつもありがとね」

「そうだ、さっきは酷いことしてほんとにごめんな。エシャーティまで巻き込んで……」

「エシャーティにゴロがどう思ってたか聞いた。こっちこそごめん」


 気を失ってる間に俺が何を企んでたのかエシャーティが話してくれたらしい。なんだか少し恥ずかしい。でもそのおかげで俺たちはすんなりと仲直りすることができた。やっぱエシャーティは最高の助太刀をしてくれるぜ、頼りになるよまったく。


 俺とカーミラはなんだか照れくさくなり、黙々と固いおにぎりを食いまくった。ちょっとした騒ぎを経て、俺たちの仲も少し固くなった気がしたのであった。



カーミラ「あほ、ばか、ぼけ~♪」

ゴロ「うるせえー分からせられたいのか♪」

エシャーティ「あなたたちのノリが分からないわ……」


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