遺跡が抱える唯一の欠点
「そういえばカーミラ、そろそろドラゴン倒してから1ヶ月くらい経ったな」
「そだね~」
「ぼちぼちギルドに顔出してこようかな」
「え、まだギルドに所属してたの」
「そりゃまあ。というか以前から月に1回顔を出す程度だったしね」
「あそこのギルド長、めちゃきらい」
「わかる、わかるよカーミラ。でもギルド員じゃなくなったら俺、無職だから……」
というわけでエシャーティの元にとりあえず来た。うだつの上がらない部下を持ってエシャーティも大変である。もはや現地に住んでないし。
ちなみにカーミラはこの国に来れないので留守番している。
「久しぶり、エシャーティ」
「あらゴロじゃない、1ヶ月ぶり? カーミラはどうしたの、一緒に住んでるんでしょ」
「エシャーティに会いたがってるけど、ギルド長が嫌いみたいでさ。それにこの国じゃ退治されたことになってるし」
「あ~そうだったわね。それじゃまた今度あなたたちのお家に遊びにいくね。で、今日はギルドに顔出し?」
「そんなとこ。はぁ、めんどくさいな」
「ギル様に会うならあたしも着いてくわ!!!」
エシャーティはいつ会っても、何があっても変わらないなぁ。でもなんだかギル様すきすきな彼女を見ても、以前よりは心に余裕が出来てる。なんでだろう、命の恩人であるエシャーティから興味が失せることはないし、実際今もニコニコとあどけなく笑う彼女に思わずクラっとした。でも、以前のように嫉妬が芽生えない……うーむ。
「まーたボケッとして! ほら、ギル様がいらっしゃるわよ」
「おっと。あ、お久しぶりです」
「おお、エシャーティと……誰だっけ?」
「ゴロですよ、ギル様ったらもー!」
そうだったな、はははは! とバカ面で笑ってやがる。こいつはいつ会っても実にうぜえな! でも仕事の割り振りとかでは差別しないから逆らえねえんだよな。そういうとこがまた憎たらしい。
「ははは……ふぅ。ああそうだゴロよ、お前の整備した遺跡だが、新米たちにすこぶる好評でな」
「ああ、そんなのもありましたね」
「あんなに丁寧に仕上げた仕事を忘れかけてたのか……」
「あの遺跡ね、ゴロのまとめてくれた見取り図とかアイテム置き場のメモとかのおかげで整備もしやすいってみんな言ってたよ!」
カーミラと出会った思い入れのある遺跡が好評なのは嬉しいな。ちゃんと新米冒険者たちの役に立ってるようで安心した。
「しかしあの遺跡には一つだけ改善すべき点があるのだ」
「改善すべき点……あの遺跡には最善を尽くしましたが」
「いや、ダンジョンに必ずなければならないもの……そう、ボスの存在だッ!」
「そういえば新人たちがボスいなくて物足りないって言ってたわね」
「言われてみれば確かに」
盲点だった。確かに初心者用のダンジョンとはいえ、雑魚しかいないのは物足りないだろう。しかしボスが要ると言われても、強い魔物を1匹だけ持ってきても1回倒されたらまた補充しないとダメだし、かといってつがいで持ってくると今度は強い魔物の群れがあの遺跡に元々いた魔物の住み処を奪って、弱い魔物がいなくなって初心者用にならなくなるし。
「というわけでゴロよ、ボスに相応しい魔物を探し出してこい」
「一応引き受けますが、解決できるとは断言しませんよ」
「何を言ってるのだ、解決できなければお前がボスを倒される度に補充するんだよ」
「はぁ……がんばります」
「がんばってゴロ! ギル様もあなたに期待してるから難題を与えるのよ」
絶対違うと思うんですけど。ただ単に嫌がらせしたいだけだと思うんですけど。まあ盲目的にギルド長を信じてるエシャーティにそう言っても無駄だがな。
しかし困ったぞ、そんな都合のいい魔物なんてなかなかいない。適度に強いけど、他の魔物の縄張りを荒らさず、しかもあまり増えすぎない……
ま、これも期限とかないし一度帰ってから考えるか。そうだ、せっかくこの国に来たんだし前の自宅にも寄ってみるか。
カーミラとともに向こうへ引っ越したので、こちらの国の自宅は売り払い今は空き家となっている。もともとあの家はギルドでむさ苦しく雑魚寝をするのが嫌で買ったくらいの思い入れしかなかったので、すぐ手放したのだ。
少し懐かしい気分になりながら我が家だった住宅を見ると、なんとすでに人が住んでいた。なんだろう、この込み上げてくる違和感らしきもの。いくら寝床扱いしてた家でも、他人が住んでるところを見ると不自然さを感じてしまうな。
「ん? 門番、警備、旅のおともにどうぞ。ゴーレムの館?」
なんということでしょう、俺の家は変な店になっていました。しかし待てよ、ゴーレムか。もしかしたらいい感じにボスとして使えるんじゃないだろうか。
「あ、お客様ですか? どうぞ中へ入って見ていってください」
「じゃあせっかくなので……」
「どうぞ! どんな要望にもぴったり合うゴーレムを取り揃えております」
「おお~、いっぱいあるなぁ」
中に入ると人間くらいの大きさのゴーレムや、見上げるほど大きいサイズのものまで色々置いてあった。魔術師のような格好の店主はキラキラした瞳で俺がどのゴーレムに興味を示すのか見ている。
「お客様はどのようなゴーレムが気になりますか?」
「実はこの街の遺跡、というかダンジョンを整備している者なんだけど、そこにボスを置きたいんだよね」
「あ~なるほど! でしたらこの、週に1度の手入れが必要ですが元々ダンジョンに置かれていたゴーレムなどいかがでしょう」
説明書を見ると、倒された時にアイテムをたまに排出する機能とか、修復用の素材をタンクに詰めとけば倒された後も自己再生するとか、特定の人間にはメンテナンスモードで接するとか至れり尽くせりだ。なにこれめちゃピッタリ。
「めちゃくちゃほしい。サイズもボスの威圧感あるし機能も十分だ。でもメンテできる人間がうちのギルドにいるかどうか……」
「それなら当店が整備を請け負います! 定期契約という形でゴーレム本体と整備費込みでこのくらいです!」
「中々いいね、じゃ請求先を戦闘集団ギルドっと。よし、早速置きに行こう」
「ありがとうございます!! さ、ボスゴレイムくん行くよ~」
「ヴーン!!」
とんとん拍子でめんどくさそうな問題が解決して俺はとても満足だ。この魔術師っぽい人もギルドという団体客と定期収入が手に入り、上機嫌を隠しきれていない。お互いに良い取引ができてよかったよかった。
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遺跡のカーミラが眠っていた部屋のさらに奥にゴーレムを設置し、試運転を済ませてギルド長へ報告しに向かった。ゴーレムの館の店主もギルド長へあいさつしたいと言うので同行することに。
「というわけでして、遺跡のボスはこちらのお店に一任しました」
「先週から街でゴーレムの館という店を開いております、これから何とぞよろしくお願いします!」
「ほう、ゴーレムか。あの遺跡は初心者向けであるが、そのゴーレムに下級魔法は効くのか?」
「当然です! 今回設置したゴーレムは自己再生時に使用する素材を変えることで特性を変更できます。今回はゴロ様の要望により、コストが安い粘土を使いましたのでどんな攻撃も通用します!」
「ほほう、ではこのなんたらかんたらは……」
「それはこうこうあれあれでして……」
「なんと素晴らしい!!……ん、ゴロよ、お前まだいたのか。もう用はないから帰っていいぞ」
「あっじゃ失礼しまーす」
ポイッと報酬の金を投げて俺を邪険に扱う。ゴーレムの館の店主はニコニコとまたお越しくださいねと見送ってくれたのがまたわびしい。まあいい、せいぜい二人でゴーレム談義でもしてりゃいいさ。
まあでもギルド長も当たりがキツいだけで、仕事に関しては真面目に接してくれるんだよな。報酬も1日で済ませたから、かなり色つけてくれてるし……
思わぬ大金を手にした俺は少しだけ上機嫌になりながらカーミラの待つ我が家へと帰るのであった。
エシャーティ「ふーん、これが遺跡のボスねぇ」
館の店主「何か気になることがありましたか?」
エシャーティ「いや、動力はなんだろうって」
館の店主「それはまあ……気合いですよ!」
ゴロ「絶対違うでしょ」