大罪人は英雄へ
「ようアグニャ。ひまか?」
「今から寝るんだよ、今から。はぁ~、お前はあの時もさ、私が一瞬気を抜いた隙に国境越えたよな! いつもタイミングの良いことで! ええ!?」
「お、怒るなよ。そうそう、カーミラがドラゴン倒したぞ」
「アグニャ~、ほめて~」
「そうかそうか! じゃ寝る……ん?」
「いや寝るなよ、ドラゴン始末したって。ほらここに証拠のウロコも」
「ふかふか、取らないで~」
いまいち信用してないアグニャにウロコ付きのふかふかを渡す。するとみるみるうちに顔から眠そうな気配が消え、恐る恐るふかふかを観察しはじめた。
「こ、このダイヤモンドのように美しいウロコは確かにあの迷惑なドラゴンのものだ……」
「ウロコだけじゃ証拠にならないなら、例の山の山頂に行くといいさ。死んだドラゴンもいるし、そっから左の翼から5枚、右の翼から6枚ウロコを剥がしてあるから」
「あ~ゴロだから5、6枚……」
「お前たち、これはとんでもない偉業だぞ! ゴロは有言実行の英雄となり、カーミラも英雄の連れとして友好的な吸血鬼だと王様は認めるよ!」
「ともかく善は急げだな。王様に報告して今すぐ山へ確認しに行くぜ。もちろん俺たちも同行させてもらう」
「ああ、この仕事だけは大罪人も吸血鬼も関係無しだ。私に着いてこい」
時刻は深夜でまだ日が昇るには時間もある。何度も山登りをするのは正直きついが、万が一でもドラゴンの亡骸が消えたり持ち去られる可能性を考えると今行くしかない。カーミラも安静を取り戻しているし、善は急げだ。
大急ぎで王様の私室へ向かい、アグニャは王様に事情を話した。王様は大罪人の俺がいることや、存在自体が大問題な吸血鬼を引き連れてきたこと、そしてその問題源2人がもっとデカい問題を始末してきたという報告に飛び起きた。
アグニャが王様にいつでも会うことのできる騎士団長になっていて本当に助かった。もしただの部隊長とかだったら上司を経由しないといけないから時間がかかるとこだったぜ。
「王様、俺のしでかした大罪にしばし目をつむって、どうかあの忌まわしい山へ向かってください」
「よかろう。アグニャの誠意に免じ、そなたの成した偉業にまず目を向けさせてもらう」
「おっさん、やさし~」
「ほっほ、そなたが吸血鬼か。やはりドラゴンには吸血鬼だな」
「へ~、よく知ってるね」
どういう意味か俺とアグニャは分からなかったが、カーミラと王様が割りと普通に接しているのでなんでもいい。そうさ、悪い状況でないならなんでもいい。
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大勢の衛兵とともに俺たちはドラゴンの亡骸の元へやってきた。俺の悪い予感は杞憂に終わり、そこにはちゃんと首を咬みつかれた痕と左右の翼からウロコをちぎられた、あのドラゴンが倒れこんでいた。
「皆のもの! この亡骸を目に焼き付けい! そしてこの偉業を成し得た大罪人と、人に幸をもたらす吸血鬼に敬礼!」
「ははァー!!」
「ゴロ、そろそろふかふか返してよ」
「あ、ごめんごめん。ほら」
「お、お前たちな、王様と近衛兵たちが敬礼してるのになんて態度だ……」
「よいアグニャよ。我が王家を長年苦しめてきた問題を始末した英雄ぞ。さあこれから好きに生きるがよい、偉大なる前科者よ」
「ま、マジかよ……本当にいいのですか?」
「王に二言はない」
やった、やった、やったぁぁぁぁ!! 今までの失敗が、すべてカーミラのおかげで消え去った! それどころか、もう一度この国で遊んで暮らせる……!!
絶対に来ないと思っていたいつかはきっとがやって来たのだ! 俺だってきっと上手くいくが現実になってしまったのだ!!
「やったね~ゴロ。これで私と気兼ねなく生活できるね」
「……待てよ、そういうば最初はカーミラの協力者を探すはずだったぞ」
「ねぇ、好きだよ~ゴロ、好き好き~」
「ぐっ……チャームでごまかすな!」
「何いってるんだお前、カーミラがこんなに懐いてるのに見捨てる気か?」
「そうじゃぞゴロよ、そんなことしたらそなたは恩知らずもいいところじゃな」
「うむー、まあいっか」
カーミラめ、なんか以前より広範囲にチャームしてね? 王様たちまでカーミラの言いなりな気が………それとも吸血鬼の絶対的な潜在的覇気が、無意識に人間を屈服させて言いなりにさせてるのか……ともかく誰もカーミラに逆らわないなぁ。
「それでは帰るぞ皆の衆。はぁ~ねむ」
「王様、騎士団長たる私の背をお使いください」
「ほっほ、すまんなアグニャ」
「ね、ゴロ。私にもあれやって!」
「はいはい、わがままなご主人様」
「わーい、ふかふっか~」
満月の夜、多くの人たちに敬意を示されながら、俺とカーミラは自由に生きる権利を手に入れた。
明日からほんきだす、のカーミラのめんどくさそうな一言からちょうど1日。まさかとは思うが、吸血鬼が本気を出せば人間一人の運命なんて簡単に変えられるのだろうか。そう思わざるをえないほど、一気に俺の運命は変わった。
背中におぶったちびっこい吸血鬼は、大事そうにふかふかを抱え眠っている。たまらなくかわいらしいその姿に、俺は小さな声でありがとう、これからもよろしくと呟いたのであった。