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お久しぶりドラゴン


 あらかじめアグニャが手を回しておいたのか、いい感じに警備隊の目に触れず街中から抜け出せた。このよく気がつく性格のおかげであらゆる犯罪者をガンガン取り締まったんだろうな。実際俺も亡命するとき、いかにアグニャの意表を突くかに一番労力を割いたもんなぁ。


「ねえゴロ、ドラゴンってどんなの?」

「そうだな~あの家くらいデカくて、羽はえてるトカゲ? あ、あとしゃべる」

「でか~い。ふかふかもそんくらい大きくならないかな」

「ふかふかは今のままでも良いと思う」


 おしゃべりしながら街道を進んでいく。遠くにあるように見える山も、意外とすぐにたどり着いた。山のふもとでカーミラに少し注意しておく。


「いいか、いくら吸血鬼が強いといってもカーミラは本調子じゃないんだ。もし危なくなったら逃げるんだぞ」

「わかってるよ~」

「で、もし俺とはぐれたらとにかくアグニャのとこへ行くんだ。道は覚えてるだろ」

「はいはーい、おせっかいなんだから」

「頼むぜまったく……」


 こんな事を言ってはいるが別に俺は死ぬかもしれんとは微塵も思っていない。いざという時の俺の逃げ足は尋常じゃないので、万が一にも俺が死ぬことはないだろう。

 俺は別に主役でも最強でもないが、生き長らえることに対する執着だけは誰にも負けない。どんな大罪や汚名を負い、壮絶な劣等感に襲われても、いつだって生きることにしがみついてきたんだ。


「しかし、昔登った時のままだな。まあドラゴンの棲む山だから人なんて来ないだろうし」

「ゴロ~、木に変な模様があるよ」

「それは昔俺がつけた遭難しないための目印だな。まだあったのか」

「人間は大変だねぇ、飛べないから」

「そうなんだよなぁ。って、カーミラ飛べるのか?」

「そりゃ飛べるよ」


 自慢の翼を大きく広げ、ぱたぱたと動かすと普通に浮かび始めた。まあそりゃ飛ぶよな、羽はえてたら。


「歩くの疲れたし、飛ぼうよ~」

「うむー、俺を抱えて飛べるか?」

「よゆーよゆー」

「じゃ頼むぜ!」


 グワッシと俺の左腕を雑に掴むと、ぐんぐん上空へと飛んでくれた。あれ、もしかして俺、人類で初めて飛んでね? なんか楽しくなってき……


「うおおおおおお、こええ!!!」

「ゴロ、めちゃうるさい」

「し、しぬ! しぬぅ!」

「あ、あのトカゲみたいなのがドラゴンじゃない。行くよ~!」

「あぎゃぎゃぎゃぎゃァァァ!!」


 前言撤回、怖すぎるわ。人類になぜ翼が無いのかわかったぞ。めっちゃ怖いからだ! 高いところが苦手というわけじゃないが、この開放感とか自由感とも言えるゾクゾクする感覚は、地に足着いた人類にはとても慣れないものだ。


 なのにおっそろしい勢いで急降下するカーミラ。ダメだ、だんだん意識が遠のく……


「よっと。なにボケッとしてるの」

「はっ……い、生きてる!」


 と、安心したのも束の間で俺たちの前にはドラゴンが立ちはだかっていた。威嚇をして襲ってくる気満々である。


「グオオオオオオ!」

「あれ、おしゃべりできるんじゃないの?」

「うおおお、逃げるぞカーミラ!」

「まだ会ったばかりだよ」


 カーミラは不用心にトコトコと近づいていった。俺はというと、一体どうなるのか見守ることしかできなかった。


「ね、おっきいねぇ」

「グオオオオオオ!」

「おしゃべりしよ~」

「グ、グオオオオオ」

「ぷふ、叫び疲れた?」

「ゼェ、ゼェ……グオオ」


 吸血鬼すげえ。あんなデカいドラゴン相手に物怖じせず、話し合いしてみようと試みている。ちなみに以前俺がドラゴンと会話したのは、部隊が全滅したあとに愚かな人間よ、消え失せろと言われただけだ。このドラゴンはその時のドラゴンと同じやつだろう。エリート兵士が切りつけた傷とかがある。


「グ、これだから吸血鬼はキライだ」

「お、ようやく話してくれた~」

「おい、ソコのニンゲン、お前は見覚えがあるぞ」

「げぇ、俺ですかい」


 何もない山の頂きで必死に這いつくばって気配を殺していたのに! しかしドラゴンめ、昔ちょっとだけ顔を合わせただけの俺を覚えてるとは見かけによらず物覚えがいいな。


「そうお前だ。大勢のニンゲンを連れて来たあげく、一人逃げ出した弱虫」

「ゴロ、弱虫じゃない」

「ボロを抱いたおちびちゃんよ、ニンゲンの手先へと堕ちたか」

「ボロじゃない。ふかふかだよ、でぶ」

「ちょっとお二人さん……」


 ピリピリとお互いにプレッシャーを出し始めたぞ。おーこわいこわい。悪しき巨竜と本調子じゃない吸血鬼……これはちょっとまずいな。


「カーミラ、やっぱ帰るぞ。な!」

「ドラゴンをコケにして帰れるとでも?」

「そうこなくっちゃね、ゴロはふかふかと一緒に待ってて」


 そう言った次の瞬間、ドラゴンとカーミラは同時に翼を広げ空中へと飛んでいってしまった。あーあ、もうどうしようもねえ! 諦めて見物するしかねえな。


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