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アグニャさんは力持ち


 もちろん結果は悲惨なものだった。実力の高い者ばかりだった王直属の部隊ですら、ドラゴンの前では歯が立たず全滅した。ドラゴンはまるで当てつけかのように、俺だけは生かしておいた。


 圧倒的な恐怖に襲われた俺は、とにかく逃げだした。その後は言うまでもない。大勢の兵を無駄に死なせ、ドラゴンを退治できると偽り大金を騙し取っていたとバレてしまい命からがら亡命したのだ。


「あの時おまえを捕らえ損ねた私だが、おまえほど逃げるのが上手いヤツはいなかった。どんな犯罪者も必ず捕まえ、今じゃ騎士団長さ」

「うるさいな。で、ドラゴンがなんなんだよ」

「ああ、未だに悪さをしているから、もし討伐できるなら汚名の返上どころか、一躍英雄だ。そうなれば、吸血鬼の連れも大手を振って表を歩けるぞ」

「はぁ、つまり出ていけってことか。わかったよ、もう二度と来ない」


 帰るぞ、とカーミラに声をかける。サンドバッグで遊び疲れたカーミラは、アグニャの執務室にあった資料を勝手に読んでいた。どうやらドラゴンについての報告書のようだ。


「ゴロ……私、ドラゴンに会う」

「さっきの話を聞いていたのか。いくらカーミラでも、ちょっと無謀だぞ」

「ドラゴン、きっとうまうま……」

「ほほぅ。ゴロよ、カーミラは乗り気みたいだぞ」

「冗談じゃねえよ」


 しかしカーミラはどうしても会ってみたいらしく、ずっとドラゴンの資料を見ている。そういう事なら仕方ない、いざとなれば全力で逃げればなんとかなるだろうさ。ああ、なんとかな! ちくしょう!


「ドラゴン会おうよ~」

「仕方ないな。でも会うだけだし、襲ってきたらすぐ逃げるから」

「おっけ~」

「ふふふ、うっかり倒しても構わないぞ、カーミラよ。不甲斐ないゴロよりよほど頼もしいな」

「おまえは人の苦労も知らずに……」

「だが、楽しそうだぞ。今のおまえは」


 言われて初めて気づく。そういえばそうかもしれない。数日前の俺ならどんなことがあろうと、絶対ドラゴンに再び会おうなんて考えなかっただろう。しかし今は、カーミラがやりたいならやってみるか、と気楽に考えられている。

 吸血鬼と関わっているから危機意識が薄れたのか。それとも、絶対的な強者たる吸血鬼のカリスマが人を言いなりにさせるのか。


「ま、なんでもいいか。行こうカーミラ」

「えいえいお~。デカいお姉さん、またね~」

「良い知らせを待っとくからな~」


x x x x x x x x x x x x x x x


 しかし気合いを入れた俺たちの出鼻を挫くように、空を見ると朝日が顔を覗かせはじめていた。俺はともかくカーミラは長距離を歩き続けた疲労や、本来の活動時間を過ぎたことにより一気にやる気を失くしてしまったのだ。


「う~、明日からほんきだす」

「そんなニートみたいなこと言って。しかし日なたを出歩くのはよくないしなぁ」

「宿にいこうよ~」

「俺はあんまここの人と関わるのはよくないし」

「じゃここでいい。おやすみ」

「ああっ箱に入るな!」


 そりゃカーミラは持ってきた箱に入れば野宿できるけどさ。ここ騎士団の詰所だけど。

 しかし困ったな、一応帽子で顔は隠してはいるけど人の多い日中に町中を闊歩するのは危険だ。なるべくならまだ人のいない今のうちに街を出てドラゴンのいる山へ向かいたいところだ。


 となると、解決策はただ一つだな。


「ご主人サマ、ちょっと揺らしまぁ~す」

「zzz」

「おわ!? 土が詰まってるからムチャクチャ重ってえなこれ!!」

「むにゃ、ゴロうるさいよ」

「すいやせんね」


 カーミラは軽々と持ち上げたり背負ってたけど一体どんな怪力してんだ? 俺は生きていくのに不自由はしないくらいには力があるけど、ちょっとこれを運びながらうろちょろはできねえぞ。どうしよ。マジで。


「おいおい、まだこんなとこにいたのか。早く行かないとまた衛兵に見つかるぞ。それにカーミラはどうした」

「いやそれがさ。日が出てきたからカーミラは箱に籠るし、この箱重いから動かせないしで困ってんだよ」

「追放されたとはいえ我が国の兵隊に所属してたお前が、ただの箱も持てないのか! なんとなさけない、貸してみろ」

「ぐぅぐぅ……安眠妨害……」

「ふんっ……!? ふんぬ、ふんぬゥゥゥゥゥ!」

「む、むりすんなよ」


 持ち上げることはできたものの、やはり運ぶことなどできなさそうだ。よかった、俺が運動不足なわけじゃなかった。しかしこの箱、キャスターでも付けなければカーミラ以外に動かせる者がいなくて不便極まりないな。


「尋常じゃなく重いな。仕方がない、カーミラが動ける時間帯までなんとか匿ってやるよ」

「ありがとなアグニャ、お前を頼りにしてよかった」

「ふん、昔からそう素直で正直だったら、お前は……」

「なんだってぇ?」

「なんでもないよ、前科者」

「あちょっと~、傷つくぜ俺だって」

「ほら、そっちを持て。私の部屋に運ぶぞ」


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