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騎士団長、登場


 この国では有名な大罪人である俺と、その連れであるカーミラが捕まったとなれば、ただ牢屋にぶちこまれるだけではすまないだろう。末端の兵士から警備隊のトップである騎士団長へと身柄を引き渡された。今は尋問の真っ只中である。


「お、おまえな、あんな事しといてこの国へノコノコ戻ってくるとは思わなかったぞ」

「おひさ、アグニャ」

「ゴロ、いろんなのと知り合い」

「ほほ~う、この子もお得意の口車で仲間に引き込んだのか?」

「それなんだけどさぁ、この子、吸血鬼なんだ」

「……ふん、またその手のホラ話か」


 騎士団長のアグニャが疑うのも無理はない。そう、俺が犯した大罪というのは、とある嘘で国中を相手に騙しこんだことだから。この国では俺の発言なんて信じてもらえないだろう。だから俺は、カーミラに少しばかり助太刀を願った。


「カーミラ、見せてあげて」

「いいの?」

「ここにはアグニャしかいないし、この人間は信用してもいい」

「大嘘吐きに信用してもいいとか言われると、かなり嫌な気分になるな」

「デカいお姉さん、奇遇だね。私もシモベがけなされて嫌な気分だよ」


 ブァサ! と例の翼を広げ、なんだかアグニャに威嚇するカーミラ。対するアグニャは、初めて見る吸血鬼の意外に幼い姿と、放たれている莫大なプレッシャーのギャップに驚いているようだ。


「なんと。嘘八百も度を過ぎれば、万に一つの真実となると言うのか……」

「そうかもしれんな。それでカーミラなんだけど、俺とつるんでるのを見れば分かる通り人間に友好的な子なんだ」

「われ、にんげん、しゅき。にんげん、うまうま」

「おいおい、こいつ人喰いではあるまいな」

「うむー、かわいい冗談だろう……冗談だよな?」


 そんなカーミラを恐る恐る観察するアグニャに、突然バサァ! と翼を広げビックリさせて遊ぶカーミラ。騎士団長らしからぬビビリように少し哀れみを感じた。


「おいおまえ、カーミラと言うのか。わ、私はアグニャだ、よ、よろしくな……」

「ふかふか!」

「は?」

「ふかふ~か」

「どうも。と言っているよ」

「そ、そうか!」


 カーミラがそう言ってるのかは定かではないが、まあ仕草とかそれっぽいし何でもいいだろ。ひとまず襲っては来ないと安心したアグニャはようやく尋問に取りかかった。


「それでなゴロよ、本当は過去にドラゴンを倒せると虚言を吐き、我が国に多大なる被害を招いたおまえは今すぐ追い出さねばならんのだ」

「知ってる。今日はカーミラの住むところを探しに来たんだ。どうやら記憶喪失みたいで困ってるんだよ」

「あい、どんと、のー!」

「嫌だよ吸血鬼とかこわい。責任持っておまえが世話しろ。もちろんうち以外のよそでな」

「いいのかな、そんなこと言って……」

「む?」

「カーミラはなんか人の夢に入れる。もし俺たちを見捨てるなら、顔を合わせたアグニャの夢をほじくることなんて造作も……」

「ほぇ~、私にそんな力が……」


 いや口から出任せだよ。しかし俺の夢に入り込んでいたし力が戻ればそのくらい出来てもおかしくないよな。というわけでどう出るアグニャ、断ればキミの赤裸々な内面がバレるかもしれないぞ!


「クソ、おまえはいつも面倒なことばかり……わかったよ、国王に掛け合ってはみるさ。だが何もせず恩赦というのは無理だぞ」

「分かってるさ、そこをどうにかしてくれるんだろ?」

「なんてふてぇヤツだ、おまえは……まあ、どうしたことかちょうどおまえにピッタリな仕事があるものでな」


 ガサゴソと机や資料棚からなにかを探し出すアグニャ。それを眺めてたら、話の輪から外れてたカーミラがいよいよ限界なのか暴れだした。


「むぅ~、あきた。ふかふかふかふかふか!!」

「ぬおぉ、か、カーミラが暴れてるぞゴロ! なんとかしろ、飼い主だろ!!」

「違うよ……ほらカーミラ、あそこにある鍛練器具で遊んでな」

「わ~い、ぶちころ、ぶちころ」

「ああ、私のサンドバッグくんが……」


 小さな体躯からは想像もできないヘヴィなブローを夢中になって叩き込んでいる。サンドバッグに拳の跡がハッキリと残るくらいの恐ろしいバスターナックルを、間髪入れずドスドスと放つ様は圧巻だ。


「さて、あれは放っておいて……んで俺に何をさせるんだ?」

「そうだった、ドラゴンだよドラゴン。ほうら、嫌な思い出が甦るだろう?」

「そのイジりはやめてくれよ……」


 この国のとある山にはドラゴンが居着いている。人に害を与える危険なドラゴンだ。この国の王様は悪しきドラゴンをどんな手を使ってでも討伐したかったが、ドラゴンに立ち向かえる勇敢で強力な者はいなかった。

 この国で兵隊に入った俺は、俺のような何の才能もないヤツがどうすれば成り上がれるか必死に考えた。そしてある時、ふと一つの方法が思い浮かんだ。そう、ドラゴンを退治すると言えば多くの資金や物資、そして名声が舞い込んでくるのでは、と。


 そして俺は王様に大見栄を張ってしまったのだ。王様は俺をもてはやし、俺の思惑通り多大な援助をしてくれた。金は支度金が要ると言えばいくらでも湧いてきたし、未来の英雄ということで国民からの名声も自然と得ていた。日夜豪勢に遊び呆ける、最高の日々が始まった。


 俺をみっちりしごいた訓練生時代の教官に会った。教官は俺にヘコヘコ頭を下げてゴキゲンを伺った。才能のない俺を見下していた連中は、手のひらを返し俺を崇め始めた。


 生まれて初めて感じる優越感に、俺は抜け出せなくなっていた。


 しかしそんな日も長くは続かず。なかなか退治に向かわない俺に痺れを切らした王様は、ドラゴン討伐のための大部隊を用意してきて、今すぐに行ってこいと命令を出したのだ。


 大勢の忠誠心あるベテラン兵士やエリート兵士に囲まれた俺は、もう後に引くことなどできなかった。ドラゴンのいる所へ向かうとき、兵士になってから初めて魔物と戦闘になった。もたつく俺を邪魔そうにしながら、他の兵士たちが一撃で倒していったのは今でもすごく印象に残っている。


 結局俺は一度も実戦らしい戦いもできないまま、悪しきドラゴンの元へとたどり着いてしまったのだ。


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