第六話 未来の世界
ここが未来だとして、一体、何年経っているのだろうか。少し考えて、やめた。
とめどない消失感が、全身を襲ったからだ。
「そっか、じゃあ、俺はもう、親にも、友達にも、知ってる奴には会えないってことか。」
無理に笑ってみようとしたが、無理だった。
「そう、ね。。。御免なさい。」
「いや、いいよ。」
君が謝ることじゃないさ。
ないんだけど。
「なんなんだよ。。。」
目覚めてからまだ数時間しか経ってないのに、俺の体はまだ十七歳の高校生のままなのに。ここは、俺が全く知らない未来の世界。しかも、地球ですらない。
そんなの、どこに逃げればいいって言うんだよ。
「俺、これからどうしたらいいんだろう。」
いや、いやいや、待てよ俺。
「俺が正真正銘の地球人なら。この国で貴族の仲間入りとかってできるのかな?」
少し希望が見えてきたぞ。
未来の世界で、第二の王侯貴族ライフ。うん。悪くないかもしれない。
控えおろう、苦しゅうないぞ! 貴族ってこんな感じ?
ナギはわざと、明るく考えるように務めた。じゃないと、不安で胸が張り裂けそうだ。今にも泣き出しそうだ。今まで出会った中で一番の超絶美少女の前で、泣くわけになんかいかない。それはもう、絶対にいかない。
「できる、かもしれない。」
スオウの返事は、思っていたような明るいものではなかった。
「でも、難しいと思うわ。」
そりゃなんでも、そう上手く問屋はおろしてくれないよね。わかってるさ。
「どうして?」
聞いてみた。聞いてみたい。この世界の仕組みを。
「ヒュームの体は高値で売れるから。それが本物の人間なのだとしたら、その価値は計り知れない。世界中の王侯貴族が狙ってくるかもしれない。」
「きゃっ」
思わず乙女のような声を出してしまった。
売る。
売るって、そう言うことか。俺の体を弄り、弄ぶ気だな。
やはりあのおっさんは、俺のことを狙っているのか。
くそう、いくら貴族だからって、好きにはさせねぇ!
やってみたら意外と、新しい世界が見えてきたり、、いや、ない!
俺は目の前の美少女か、じゃないとしても、せめて美男子がいい。
やっぱり、初め手の相手は選びたい!
「何考えてるの」
じとっと、冷たい目でスオウに睨まれた。
あれ? 違った? 取り越し苦労だった?
なら、良かった。
「体を乗っ取られるのよ?」
「体を乗っ取られる?」
思わず言葉を繰り返してしまった。
え、何、その恐ろしげな言葉。
「それって、どう言う、、」
「貴族がなぜ、ヒュームに近い見た目をしていると思う?」
「なぜってそりゃ・・・」
なぜ? ふむ、なぜだろう。
「貴族が、人間の容姿に近いヒュームを捕まえて、その体を奪っているからよ」
「体を奪う?」
それは面妖な。
「つまり、脳を入れ替えて体を乗っ取るの。王侯貴族たちは、そうやって何代も生きているの。化け物よ。」
「それって君も?」
答えは聞きたくないけど、聞かずにはいられなかった。
「私は違うわ。私は、、、」
スオウは言葉を続けることができなかった。その腕につけた時計が震えたからだ。
「そろそろ見回りの時間ね。急ぐわ。」
スオウはナギが入ってるカプセルから少し離れた。
何事ですか? 聞こうとしたら、スオウに黙らされた。
「静かに。目をつぶって。なるべく眠っているように。」
「こう?」
ナギは目をとじて眠っているふりをした。
何が何かよくわからないが、大人なしく言うことを聞いた方が良さそうだ。
なんだか時間もないみただし。
カシャ。
聞き慣れた乾いた音が響いた。
カシャ? カメラかな。
「おっけい。これでいい。もう目を開けていいわよ。」
「うん。。。」
おずおずと目を開ける。
「もう見回りが来る。急いで!」
急ぐったって。
「俺、ここから出れないんだけど。」
ナギは硬いカプセルをそっと触った。