第二話 トカゲ?
おっさん、人じゃない。
トカゲ?
半魚人??
子供くらいの大きさの両生類が、二足歩行で歩いていた。顔はそのままトカゲだ。尻尾らしきものがある。しかも、服を着ている。スーツだ。黒いスーツを華麗に着こなしている。
そのトカゲ男は、大男を見上げている。かなりイカツイおっさんだ。だが、こっちは普通の人間みたいだ。そしてそのすぐ後ろに、若い女の子。これも人間。。。
おっと。
ナギは驚きで少し半開きになってためを急いでつむり直した。
女の子がナギのカプセルに近づいて着て、すっとナギの顔を見据えたからだ。
ナギと女の子の間には、カプセルだけではなく、もう一枚ガラスがある。さながらショーケースのようだ。
ショーケース。。。そうか、これはショーケース、あるいは、牢獄のようなものかもしれない。そうでなければ、ガラス張りにする必要がない。
女の子はすっとナギの顔を見つめる。
か、可愛い。。
ナギは顔が赤くなるのを感じた。
赤くなってなければいいけど。。。
女の子は、ナギがこれまで見たどんな子よりも可愛かった。いや、女の子というのは語弊があるな。年はナギと同じくらい。クラスにいたら、絶対クラス男子全員の注目の的になり、ナギが気軽に話しかけられるような子ではないだろう。
ナギは、クラスでは目立つ方ではない。調子のいい人気者の男子軍団と、ほどほどに距離を取っているが、おとなしいグループに所属している。
彼女はそんなナギが決して話しかけられないほどの高値の花だ。
テレビで見るアイドル。そんなものよりずっと可愛い。
綺麗な金髪だ。ロングのストレートヘアーは、さながら絹糸のようだ。クリクリとした青い目。外国人だろうか。人形・・・ではないちゃんと動いている。
これが運命って言うんだろうか。
きっと性格まで可愛いに決まっている。
金髪の天使は、振り返って、さっきのいかつい男を呼んだ。
「お父様」
おとうさま?
マジか、あんなにいかついおっさんから、あんな可愛い子がとか、お父様ってどこのお嬢様だよとか、あ、良かった日本語通じるんだ。とか、いろいろ考えていたナギの目の前に、ぬっと、いかつい男が顔を覗かせた。
怖いよおっさん。
口ひげを蓄えた彼の見た目は、さながら悪徳政治家か、悪代官を彷彿とさせた。いや、なんで悪徳なんだ。俺、何考えてんだ。あんな可愛い子のお父さんなんだぞ。きっと性格もいいはず、、いや、性格は悪そうだな。
そのおっさんの、虎も射殺しそうな鋭い眼光が、ナギを見てみるみる見開かれた。
驚いているのか。
驚きたいのはこっちです。おっさん、あんたもしかしてそう言う趣味の持ち主?
ショタ好きなの?
いや、俺はもうショタって年齢ではないけど、いやいやいや、でも、実の娘の前でそれはないでしょ。あんな可愛い子の前で。確かに俺は可愛い、、、、いや、可愛いなんて言われたことないな。いつも眠そうな目をしているね、くらいだ。
クラスでの俺の評価なんて。中の下ですね。ええ、嬢でもなく、下でもなく、中でもなく、中の下。見た目も、学業成績も、クラスでの人気も。中の下、ええ、わかってます。でも、いいじゃないですが、中の下。そんな中の下の俺は、こんなに人に注目されたことがない。ましてやこんなにまじまじと見つめられることなんて、ましてや、、、こんなおっさんに。
襲われるの? 俺。変な意味で。
やばい、変な汗出てきた。。目覚めた方がいいかな、俺。
おっさんはトカゲ男と何やら話している。
「本物のヒュームか!?」
おっさんの口から、野太い声が出た。
女の子も驚いている。可愛い。驚き顔も可愛い。
いやでもちょっと待て、ヒュームってなんだ?
ヒューム、ヒューマン、、人間のこと?
いや、そうですけど俺、人間ですけど。でも、あんたたちもでしょ?
てゆうか、そっちのトカゲおっさんの方がおかしいだけで、俺たちみんな人間でしょ。
おっさんたちは何かしら少し話している。ガラスを二枚も隔ているのでよく聞こえない。
少し話して、おっさんたちはどこかに歩き去った。最後に残った女の子も、君だけはずっといてくれていいんだけどと思った途端、おっさんたちが消えた方向に消えてしまった。
「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
おっさんたちの気配が消えると、思わず大きなため息が出た。