第一話 目覚め
「ここはどこだ?」
体が暑い。
いや、冷たい。
感覚がない?
ひどく気だるい、自分の体じゃないみたいだ。
ナギはゆっくりと目を開けた。
まるで何年も眠っていたかのように、頭がぼうっとしている。そのせいか、目の焦点も定まらない。うつらうつらとしながら、ナギは必死に頭を動かそうとした。
「あ・・・」
ナギの声は、音になる前に喉の中で潰れた。
喋れない。
「あ・・・、ああ・・・」
パニックになりそうな頭を、必死に落ち着かせるために、周囲を観察することにした。
まず、ナギはカプセルのようなものに閉じ込められている。顔の部分だけがガラスになっていて、そこから周囲を伺うことはできる。
次に、これはかなり重要なことだが、服は着ている。しかも、結構お気に入りのやつだ。下ろしたてのスニーカーの中で、足の指を動かしてみる。よし、動く。もし、服を着ていなくて全裸だとしたら、カプセルから出た途端に女子に遭遇して、一生心に残る傷を背負う可能性も十分考えられる。童貞のナギには耐えられない苦痛だ。
いや、逆に女子に裸を見られることで何か目覚めるものがあるかも?
ふう。
今はそんなくだらないことを考えるのはよそう。
なぜなら、俺はかなりの常識人だからです。
・・・はい。神様ごめんなさい。こんな時にくだらないこと考えて。でも、俺、結構限界なんです。怖いです。はい。
だんだん頭がはっきりしてきて、ナギは否応にも自分の置かれている状況を理解してきた。
これって閉じ込められてない? 俺。
何だってカプセルなんかに入れられてるんだ俺。
俺はただの一般的な高校生だ。
昨日も学校に行って、友達と昨日のアニメの話なんかをして、隣のクラスで水着に着替えている女子たちを覗きに行こうかと計画して、でも実行なんてできるはずなく、話だけで満足しているただの高校生。
身動きが取れない。
息はできる、から、カプセルに空気は送られているようだ。とはいえ心地良い環境ではない。できればすぐに出たい。今すぐ出たい。
「ふうっ〜」
深呼吸して、緊張により早くなっていく脈拍を落ち着ける。
焦るな、焦るな俺。
助けを呼ぶか?
いや駄目だ。ここがどこかも分からない。敵のアジトの真っ只中かもしれない。
敵?
敵ってなんだ?
ふと頭に浮かんだ単語を不思議に思う。なんでそんなこと思ったんだろ。
普通の高校生が、普通に生きてて、敵なんているはずがない。それはあくまで、アニメやゲームの世界の話だ。いや、いるな、現実世界にも敵。
リア充爆発しろ。
いやいや、じゃなくて。
「なんだんだよ一体・・・」
良かった。今度は声が出た。
久しぶりに発した声は、うまく発音できずに、少し掠れていた。
カプセルの外に目を凝らしてみた。なんだろう、もう一枚ガラス? カプセルの向こうにもガラスがあった。その向こうには、部屋か・・・? 無機質な灰色の壁が見えるだけだ。
顔の前にはめ込まれた十五センチ四方のガラスでは、周りの状況を観察しようにもうまくいかない。やはり出るしかないな。脱出大作戦。
手でそっとカプセルを押してみた。駄目だ、びくともしない。想像はしてたけどさ・・・。
どうしよう。思いっきりこの扉を蹴ってみようか。一か八か。だけど。
足に力を入れ用としたその時、何か声が聞こえることにナギは気づいた。複数人いる。男と、女もいるのか? 若い女だ。逃げようか、いや、どうやって。
瞬時にいろんな考えが浮かんで、ナギはそっと目を閉じた。まだ目覚めていないフリをすることにしたのだ。奴らが誰かわからないが、自分が目覚めていることを知らせないほうがいい、そう思った。
半目で息を殺して待っていると、すぐに彼らは姿を現した。
最初に現れたのは小柄なおっさん。おっさん。。。
「え。。。。」
思わず叫びそうになって、ナギは唾を飲み込んだ。