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信じるを知る2

 



「まあまあ。遠いところ大変だったでしょう。よくいらっしゃってくれたわ。さあ、こちらにどうぞ」


 イェシカはウルリクと二人、山を越え、緑が茂る大地の中にある屋敷を訪れると、笑顔の素敵な女性がそんな風に歓迎して出迎えてくれた。


「お招きありがとうございます、お義母様。お元気そうで何よりです」


 その女性にイェシカはお義母様と呼び微笑んだ。

 その女性はイェシカの義母、ウルリクの実母であるエレオノーラ・オークランスだ。

 二人はウルリクの実家であるオークランス家の領地、アウセリアに訪れていた。




 先日、エレオノーラからイェシカとウルリク宛てに手紙が届いた。

 その手紙に領地に遊びに来ないかというお誘いが書かれていた。

 季節は夏から秋に変わり、自然の多いアウセリアでは実りも多いためぜひ、とのことだった。

 オークランス家の領地であるアウセリアは王都から少し離れたところにあるため、なかなか訪れる機会がなかった。

 結婚の際の挨拶に一度訪問したことはあったが、その時は何かとバタバタしていたため、ゆっくりと見てみたいとイェシカは思っていた。

 そんな時の誘いであったため、イェシカはすぐに行きたいと思い、一緒に手紙を読んでいたウルリクに楽しそうですねと同意を求めた。

 ウルリクもイェシカにその地のことを知って欲しいと思っていたようであったから。

 ウルリクもそれを聞いて心の中では喜んでいたが、言葉に出来ず悩んでしまっていたのだが。

 何はともあれ、領地には行くことにした。

 そして、ウルリクが2日ほど休みを取り、馬車で半日ほどのこの地にやって来たのだった。




「でも、今日はお天気も良くてよかったわ。この辺りの道はまだ舗装されていないところも多くて雨が降るとぬかるんで馬車が通れなくなってしまうもの。ウルリクが帰ってくる時は雨の日ばかりなのよね。きっと今日はイェシカさんが一緒だから、晴れたんだわ」


 イェシカさんは晴れ女なのね、と少し子供っぽい純粋そうな笑顔でエレオノーラは言った。

 そんな顔もとても魅力的だ。

 エレオノーラはさすがウルリクの母であり、とても美しい人だ。

 顔はウルリクによく似ていて、ウルリクよりもっと目元を柔らかく優しくした印象で、輝く様な銀色の髪もウルリクと同じだ。

 瞳の色だけは、ウルリクの青みがかった灰色とは違い、新緑の若葉のようなライトグリーンをしていた。

 今まで何かと時間がなく、イェシカは少ししか話したことはなかったが、エレオノーラは明るくて優しそうな人といった印象だった。


「晴れ女……そうなんでしょうか?でも、そうだったら嬉しいです。ウルリク様とお出かけする時、いつも晴れていたらとても楽しいでしょうから」

「ふふ、そうね。ああ、引き留めてしまってごめんなさいね。お腹が空いたでしょう。少しお休みになって準備が出来たら、食堂にいらしてね」


 早速こっちも準備しなくちゃ、とエレオノーラは使用人にイェシカ達を任せると足早に去って行った。

 何というか賑やかな人だ。

 いつものことなのか、ウルリクはそんな様子のエレオノーラにこれといって気を止めることなく、久しぶりの実家での昼食に思いを馳せていた。


 少ししてから食堂に向かうと、そこにはすでにエレオノーラとこの家の家主である、ウルリクの父、ヨルゲン・オークランスがいた。

 無表情に席に着くヨルゲンは寡黙な人でまるでウルリクのようだった。

 だが、ウルリクとは違って心の中は騒がしくなく、見た目の通り厳格そうな考えをしていて、それでいて優しそうな人だ。

 昔は騎士団に勤めていたという。先代が亡くなった今は騎士を引退し、領主としてアウセリアの領地管理をしているのだと、イェシカは聞いていた。


「二人ともよく来てくれたな。イェシカ殿はあまりアウセリアには詳しくないようだから、ウルリク、お前が案内してやりなさい。ぜひ、楽しんでいってくれ」


 ヨルゲンは、席に着いたイェシカにそう言って、少し目尻を下げたのだった。


 昼食に出された料理はどれも絶品だった。調理もさることながら、使用されている食材がなおのこと良い。イェシカがあまり食べたことのない野菜や山菜などもあって、珍しさと美味しさでいっぱいだった。

 そんな感想をイェシカが述べると、ウルリクもヨルゲンもエレオノーラも皆、嬉しそうだった。


「そう。気に入って貰えて良かったわ。今の時期だとコンドラ鳥のソテーなんかも美味しいんだけど、今回は手に入らなくてね」


 そんなことを話ながら家族4人で食事を進めていった。

 といっても、実際に話しているのは2人なのだが。

 ウルリクは言わずもがなヨルゲンも基本的には無口な人で、自分から積極的に会話に加わろうとはしない。

 イェシカとエレオノーラの2人がしている会話を聞くのを楽しんでいるようであった。


「そうだわ!ウルリク、あなた狩猟が得意だったわよね。イェシカさんのために狩ってきてあげなさい」


 エレオノーラが突然、そう提案した。

 有無を言わせないような、そんな押しの強さでどんどんと話を進めていく。

 ヨルゲンにも、ウルリクと一緒に行ったらどう?と勧め、結局2人とも今日の午後はコンドラ鳥を狩りに行くことになった。

 多少強引なようにもみられたが2人とも大概乗り気で、エレオノーラは人をその気にさせるのが上手いようであった。

 玄関先で森へと向かう2人の背中を見ながら、イェシカはそんなことを思った。


「さて。やっと二人きりになれたわね、イェシカさん」


 一緒に玄関先で2人の見送りをしていたエレオノーラが、ウルリクにそっくりな顔でにっこりと笑った。




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