踏み込む勇気
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『1つ、消えたか……』
いくつものモニターが空中に浮かぶ薄暗い部屋で、メビウスは呟く。その顔は残念そうに見えるが、満足そうにも見える
『まあ、良い。さて、他の者はどうかな?』
覆い被さるような姿でモニターを凝視するメビウス。まるで、そこから溢れる光を否定するかのように──
VS. FIELD NO.2
◆サオトメ VS. ◆???
何とも見慣れた光景じゃのう。一体、どれだけ決闘フィールドの世話になったじゃろうか
まさかレイドバトルで、ここに訪れる事になろうとはな。じゃが勝ち負けがハッキリする、このフィールドは嫌いではない
さて、何が出てくるかのう。こっちは、さっさと始めたいんじゃが
「アウッ! イッツダンシン、ンーンー、ポウッ!」
「なんじゃあ!?」
また派手なのが現れおった。どういうスキルか知らんが、頭上にスポットライトとミラーボールを煌めかせ、ダンスを踊っておる
闘牛士のような衣装のギラギラするスパンコールが光を反射させ、見るのも眩しい。およそ、一般人とはかけ離れた様相じゃ
しかし……このダンス、どうも魅入ってしまう
何がどう良いのか、説明は出来ん。じゃが、見る者の心を沸き立たせる何かが有るのだ
ほんの少し芸能に携わった身として、僅かながら羨む気持ちが起こる。あのキレのある動きの半分でも出来れば、また人生は変わっておったのかもしれん
音楽が止まるとダンスが終了した。これから戦う敵ではあろうが、思わず拍手をしてしまった
「あらぁ、ご観覧ありがとぉねえ。サオトメちゃぁん」
「……ワシのことを、ご存知で?」
「もぉちろん。あの大きなぁ太刀を振るう姿わぁ、目立つからねぇ」
……オネェ言葉で言われると、少し卑猥な感じがするのは考えすぎじゃろうか。まあ、それよりもだ
「……サイボーグ、サオトメ。参ります」
ゆっくりと大太刀『末青江』を抜く
「ん、フフ、舞台俳優のマスタードッポよ。よろしくねぇ」
舞台俳優……聞いた事の無い職業じゃ。それならば、見た目で判断するしかあるまい
リーゼントヘアーにサングラス……は関係ないか。構える武器は刺突剣と呼ばれるものじゃろう
ただし通常とはあきらかに形が違う。刃は見当たらず、先が尖った円筒形の細い棒のような形じゃ
貫き専門の剣……なのか? それに、なんじゃあのゴッツイ鍔は。横に大きく伸びたそれはハンマーにも見えるわい
明らかに重そうな武器じゃが、それを片手で持ちフェンシングのように構えておる。腕力は相当なものじゃろう
パン!
いきなり破裂音が聞こえたと思ったら、頭の上に紙吹雪が舞落ちてきたではないか。これもスキルか? 舞台俳優というよりは、まるで手品師のようじゃの
「チャぁージ、タックルぅ」
「ぐは!」
しまった! 刺突剣ばかり警戒しておった。まさか体当たりとはの
紙吹雪に気を取られた僅かな隙を突かれてしもうた。ノックバックしたので、間合いが空いて助かったわい
「ジェノサイドォミサイル!」
とりあえず牽制じゃ。両の籠手に仕込まれた、計8発のミサイルを放つ
「中途半端、まったく駄目ねぇ。刺突技、百花繚乱」
刺突剣の刀身がスッと伸びると、目にも止まらぬ速さで突きが放たれた。おそらくはミサイルの数だけ放たれたであろうそれは、爆風も届かず迎撃される
「サオトメちゃぁん。あなたの持ち味はぁ、それじゃないでしょぉ」
「何を言って……」
「ハア。少ぉしだけ、お仕置きが必要かしらぁ」
そう言うと、まるで生き物のように鎖がマスタードッポに巻き付いていく。これは、一体何じゃ?
「ん、フフ。行くわよぉ」
刀身の根元近くと柄を持ち、まるで槍のように振り回してくる。そうかと思えば片手で突いてくるので、間合いの調整が難しい
ええい、まどろっこしい!
もう、考えるのは止めじゃ。小手先の技術など、まとめて粉砕してやるわい
横払いの動きに合わせて、全力で大太刀を縦から叩き込む。そのまま鍔迫り合いになったが、仕切り直しとばかりに間合いを空ける
「ウオオオ! ジェノサイドォビイイィィム!!」
「甘い、甘いわぁ。ふんぬうううう!!」
バカな、ワシのビーム攻撃を布1枚で反らすじゃと! あれは確かムレータというやつだったか。マタドールが牛を惹き付ける、あの赤い布じゃ
「……ナンセンス、ナンセンスよぉ! あなた、そんな魂が込もってない攻撃で誤魔化すんじゃないわよぉ!!」
ゲームの技にナンセンスも何も無かろう、まったく。挑発するようにムレータを振っておるわ
「わしゃ、牛か!」
大太刀を目一杯、打ち込むが簡単に受け止められる
「ぬるい、ぬるいわぁ。デッカイ武器を振り回して、自己満足してるだけねぇ」
「ぐぬぅ」
ならば備前刀はどうじゃ! 大太刀よりは取り回しが良いので連続で斬りかかる
「ハア~、だ・か・らぁ。そんな軽いのは意味がないのよぉ」
「チィ!」
なんと片手で受け止めておるわ。思わず舌打ちしてしまう
こうなったら、久し振りにアレを使うか
「ダブルウゥ、アックスウゥ!!」
重量がある斧ならば軽いとは言えまい。両手で2丁あるから、隙も少なくなるじゃろう
慣れ親しんだ武器ゆえに、思わず叫んでしまうわい
「ふ~ん、まあまあかしらぁ。じゃ、チョッとだけよぅ」
そう言うと刺突剣の先を持ち、柄の方をこちらに向ける。あれでは剣として意味をなさないが、一体なんじゃ?
「ふんぬぅ!」
「ぐはあ!」
何じゃと!? あのハンマーのような鍔で殴打してきおった。斧でガードするが、それごと押し込まれるほど強烈じゃ
「ん、フフ。ホントは両手剣の技なんだけどねぇ、なかなか痛いでしょぉ」
刃の部分を持つことになるが、頑丈な籠手を嵌めているので可能だったらしい。話しによると刃身で殴るよりも殺傷率が高かったので、実戦では禁止されたのだとか
「どぉう? 剣、ひとつとってもこれだけ多彩な攻撃方法があるのよぉ。まあ、これはそのための特注品なんだけどねぇ」
なるほど、最初に形の違和感がしたのも当然か。この手数の多さを見せつけたかったのか?
「否! 断じて否よおおぉ!!」
そう叫ぶ、マスタードッポの気迫に気圧されそうになる
「言わなきゃ分からないぃ? これは1つの武器を使い込んだからこそ、出来たことよぉ。あなた大して器用でもないのにぃ、チャラチャラ武器を振り回してるんじゃないわよぉ!」
それは、的確な指摘じゃった。ワシは手先が器用な方ではない
じゃから大型な武器で無理矢理、ごり押す。そんな戦いかたが身についてしまっておる
斧や大太刀ならば、その重量を活かして振り回せば良いだけだ。もちろん、それだけでは限界が来ると思い備前刀を用意した
じゃが結局、変わらんかった。せっかくの刀も、力押しで振り回す始末
とてもではないが、使いこなせているとは言えん
「あなた、昔から気が散りすぎなのよぉ。一本気に見える性格もぉ、実は臆病を隠した裏返しよぉ」
ワシが臆病?
「言い方を変えればぁ、地に足が着いてないかしらぁ。だからぁ地元では成功したけどぉ、余所では通用しなかったのよぉ」
確かにそうじゃ。地元では親から受け継いだ基盤があった
ゆえに事業は成功したのじゃろう。じゃが1歩、外に出れば頼れるのは自分だけじゃった
むろん相談できる仲間は居ったが、決断し行動するのは自分じゃ。ワシは、それが怖かった
世間では我が道を行く、豪放磊落な人間に見えるようにしておった。じゃがその正体は、自分のことも決められぬ臆病者
いつも、他人の視線を気にして肝心なところで集中できぬ半端者。小さな失敗は多々あったが、それは事業に影響を与えるほどではなかった
もし大失敗をしていたなら、おそらく他人のせいにして逃げておったかもしれん
ワシは運が良かっただけなのじゃ
「めぐりあいに感謝しなさいなぁ。あなたを支えてくれた人たちは、たくさん居たでしょぉ?」
「…………」
「でもぉ、あなた言ってたわよねぇ。自分で何か成したいってぇ」
「…………」
「いい年齢して大雑把なことしてんじゃないわよぉ。このままじゃ、私ぃには勝てないわよぉ」
「……しかし、どうすれば?」
思わず聞き返してしまった。対戦相手に聞くことではないな、まったく情けない
「ん、フフ。そう素直に聞いてくるところは、あなたのバーチューよねぇ。でも、そうねぇ……」
刺突剣の切っ先が、こちらに向く
「あなたの経験、能力。そして何よりもぉ、この状況が答えを導いてくれるんじゃなあぃ? それに言葉だけじゃ、説得力ないでしょぉ」
確かに。ふと手を見れば、何も握っておらなんだ
無手で構えてはみるが、武器を使うか迷っている。攻撃が来る以上、迎え撃たねばならんのじゃが、さてワシはどう動くかのう
「行くわよぉ!」
マスタードッポの攻撃が迫り来るが、なぜか冷静で居られた。諦めか? いや、違う
どちらかと言うと開き直った気分じゃ。こちらの手が通じぬならば、とことんまで見極めるまでよ
何度か回避を続けるうちに、ふと前へ踏み出す時があった。そして何となく振り下ろした手には、今まで使ったことのない武器が握られておった
直刀の片手剣
古代の刀を模して作られたそれは、持ちうる武器のなかでも短く威力も小さい。だが気付いたら、その片手剣で相手を切り裂いておった
何も考えてなかった、ただ素直に出た攻撃。力を込めるでもなく、ただその場所を切っただけ
その時、初めて知った。これが身体が勝手に動くというやつか
「ん、フフ。おみごと」
敗北を悟ったマスタードッポじゃが、どことなく満足そうな顔をしておる。もっとも、サングラスで分かりにくいがの
「さっきまでの動きはぁ、良かったわよぉ。何というか、自然に動けてたってところかしらぁ」
ワシ自身も理屈では説明出来ん。しかし、どう動けば良いのかは理解しておった
「ん、フフ。それが見るではなく、観るということよぉ。状況を観察できる冷静さ経験による対応力、それらが合わさった時に、あなたはより強くなったわぁ」
ワシは強くなったのか?
「そして間合いに、一歩踏み込む勇気。長い武器を使っていたら私ぃを倒せなかったわねぇ」
相手に向かって踏み込む……か。確かにワシは臆病者だったのかもしれん
そう言えば、それを得意とするのは……
「何だかんだ言って観てるものよぉ。だからこそ、その強さを持った子を、あなたはリーダーとして認めてるのかもねぇ」
そうじゃろうか? いや、そうなのじゃろう
ポシェットちゃんの戦闘動画は、どうしても惹き付けられる何かが有った。若さゆえの無鉄砲でないのは、今まで行動を共にしてきたことから分かっている
「しかし、回りくどいですな。もうちょっとシンプルに教えていただいても良いでしょうに」
「あなた昔から他人の言うことを、素直に聞かなかったでしょぉ。まったく出来の悪い弟子を持つと苦労するわぁ」
「は、あはは……」
まあ、そうじゃな。こんなやり方がワシには性に合っとる
「さあ、勝者は前に進みなさいなぁ。……私ぃも、だいぶ歳を取ったからねぇ。居なくなる前に1度は会いに来なさいなぁ」
「……はい、近いうちに必ず」
「ん、フフ。その時はまた、お寿司でも食べましょぉ」
「はい、ショウガの甘酢漬けは多めで」
「ん、あーはっは! ジョークまで出来が悪いわぁ。ホントにもう……」
やがて敗者であるマスタードッポは徐々に消えてゆく
「ありがとうございましたあ!!」
深々と頭を下げ、礼を述べる。かなりの高齢であろうに、わざわざ出向いてくれたのだ
このゲームをプレイしていたのは偶然か、それとも加茂先生と同じ理由か。何れにせよ、ワシは人に恵まれておる
「まぁったく、声の大きさだけは昔から変わら──」
中途半端に言葉を残して人生の師は消えて行った。このイベントが終わったら、必ず会いに行こう
その時は歩んで来た人生を肴に酒を飲むとするか。きっと愉快な酒となるに違いない
◆サオトメ VS. ◆マスタードッポ
勝者 サオトメ
マスタードッポが、ホントに言いたいことが書けているでしょうか?
久々に頭が大混乱でした
実名を名乗らなくても、2人には誰なのか分かっているようです
ところで……感想くれてもいいのよ?
怖くもありますが、ご意見を聞いてみたい今日この頃です
それでは、また




