たとえば、こんな未来はいかが? ~番外編、パラレるんたった物語~後編
冬眠から目覚めたら、まだ冬でした
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『私の名前はファラ。おかえり正宗』
その言葉に、ああやっぱりと正宗は得心した。こうしてまた出会えたのは過去の約束どおりだ
──数年前、ゲーム世界 ヒューガルデン
「この世界は、もうじき消える。だけど必ず……また会おう!」
涙で濡れた顔のファラは笑いながらそう言った
「うん、必ず会いに行くよ」
正宗は真剣な顔で答えた。後ろでは姉の奈義が顔を泣き腫らしていた
埋没型VRMMO『絆ONLINE』というゲーム。そのサービス終了と共に消えるはずだったAI、個体名ファラ
そして、ミカというプレイヤーとしてゲーム世界にいた正宗。現実では決して出会う事が不可能なふたりが再び共に居る
あの時は何も出来なかった。しかし必ずまた会えると分かっていた
どの様な形になるか色々と想像してみたが、お互いに体温を感じられる再会だった。今は約束を守れたことを喜ぼう
──過去を思い出していた正宗は現実を直視する。今はあの敵機を退けることが先決だ
『警告__…_……敵にロックオンされました』
「回避して!」
AIスクルドから警告が飛ぶ。敵機のライフルから、一斉に弾が飛んできた
『演算__…_……終了、回避成功』
「……やっぱり、分からないや。どうやって動いてるのこれ?」
ミカエルと名付けられているこの機体は、直立したまま移動を行うようだ。明確な飛行装置も無く、ただそこに在るという感じで浮かんでいる
『説明しよう!』
「うわ!」
ファラとは反対側から通信画面が浮かび上がる。映っていたのは、老齢の男性であった
「ええと、どちら様で?」
『吾が輩のことは、周佐博士と呼びたまえ。よろしいかな? そもそも物質というものは──』
周佐博士の説明は宇宙創世である、ビッグバンから始まった。その爆発により外へと拡がっていく粒子たちは、それを押し留める粒子と出会い停滞して物質へと成り変わっていったという
『つまり、押し留める粒子の枷を除去して方向性を与えてやれば動くってことだな』
普通ならば、その様な事をすると物質は崩壊し粒子として散らばるのだろう。それを物質として保ちつつ、移動のみを可能とする
どれほどの技術が必要なのか想像もつかない。そもそも枷を除去する方法からして、研究者のあいだでは新説と呼べるだろう
一般高校生である正宗には「わー、すごいね」くらいにしか感想が浮かばない。それほど世の常識からは、かけ離れているのだ
『しかしながら、その機体を作り上げ2体のAIたちを買い取ったら資金が底をついたというわけだ。吾が輩の財布はスッカラカンなのよ』
そう、スクルドならびにファラはもともとゲーム世界のキャラクターであり、それを形成する人工知能であった。かのゲームの運営スタッフたちは、プレイヤーと接することで成長したAIたちを消すのは惜しいと思い、それを販売することにした
今では介護や経理、はたまた軍事産業などで仮の身体を得て仕事をしている。そのほとんどは機械や情報端末機の姿であり、人間にとって無くてはならないパートナーとしての地位を確立させていた
この様にAIたちの再就職が行われることをゲーム終了時に知っていたため、いつか再会できると信じていた。だが、まさか人間の身体を持ち体温を感じることができるとは思いもしなかったのだ
その疑問にも周佐博士は答えてくれた
『一般的に言えば人造人間とでも呼ぶのかな。人間を形成する物質を集めて彼女の姿に留まっているのが、今のそれさ』
この機体、ミカエルの移動手段をそのまま身体を維持することに利用したらしい。人造人間というのを正宗は、どこかで聞いた覚えがある
『タンパク質を集めるときなんか、焼肉屋を始めるのかと言われたよ。人ひとりを造るのに、あれほどの物質が必要とは……特に魂の材料には苦労したのだよっと! これは企業秘密だった』
魂については、くわしく教えてもらえなかったが其処に身体を物質として保つモノが存在しているらしい
『吾が輩の説明はここまでにして、そいつら倒して回収してもらえないかね? 資金の足しにするから』
そう言えば戦闘中だったと正宗は思い出す。周佐博士の説明が、あまりにも突拍子もないものなので思考が追い付いていない
あちらさんはどうかと思い、状況を見るとライフルを撃ちつくしたらしく接近戦用のサーベルを振りかざして向かって来ていた
「何か武器はないの?」
『了解__…_……断光牙戦輪刀、装着』
「何? そのゴツそうな名前の武器」
それは、ミカエルの背部に装着されている巨大な円環状の剣である。だが、その質量で圧し切る武器ではない
ミカエルの移動原理を利用した凶悪な武器だ。つまり、刃が触れた物質を粒子へと還す変換器なのである
『ミカエル__…_……やったらんかい!』
突然、口調が変わったスクルドが叫ぶ。それを合図に踊るように敵に襲いかかるミカエル
『だーっ!! 演算が間に合わない! スクルド、落ちついて!』
動きの複雑さは、そのまま移動方法の演算処理を困難にする。豹変したスクルドの思考そのままに、敵に襲いかかるミカエルの動きを制御するためにファラが悲鳴をあげる
直立したままの移動ならば、それほど複雑な演算は必要ないが舞いながら攻撃するなど優秀なAIである2人でも大変な作業なのだ
『くはははは! 接近戦こそ戦の花よ__…_……やべ、演算が大変なことに』
『だから、落ち着けっちゅうの!』
まるで違うAIのように、しゃべり続けるスクルドにファラがツッコミを入れる。正宗はあわあわとするだけで、なにが起こったか把握できないでいる
『ごめん、正宗。スクルドは接近戦になると、舞いあがちゃうのよ』
「そ、そうなんだ」
ファラの謝罪に、なるほどと得心する。スクルドは落ち着いたのか、沈黙してしまった
「じゃあ、遠距離武器はないの?」
『あるぞ』
正宗の問いに、すっかり口調が変わったスクルドが答えた。戦輪刀により粒子化された物質は吸引装置により、回収されている
それを、違う形にして射ち出すというのだ
『再利用戦輪__…_……発射!』
ミカエルの肩にあるスリット部から、小さなリング状の武器が次々と発射される。威力は然程でもないらしく装甲により弾かれているが、関節の隙間などには突き刺さっているようだ
「これ、ロボットアニメでいうバルカン砲みたいなものか。って、あれ? うわ! ねえ、戦輪刀が小さくなっていってるよ!」
『ありゃ、資材が尽きたか__…_……止め止め、ストップ!』
正宗の指摘に、ハッとしたスクルドは射出を止めた。どうやら吸引した素材が尽き、代わりに戦輪刀を材料にしていたようだ
頼もしい大きさだったものは、今や半分くらいに縮んでいる
『さて、そうなると接近戦しかないんだけど……』
ファラが悩まし気に唸る。戦輪刀を除けば手持ちの武器は無く、内蔵型の物もリサイクルチャクラムだけである
「え、もしかして詰んだ?」
『__…_……だな』
『……ごめん、正宗』
これはもう逃げの一手しかないなと思った時だった
『そこの所属不明機! 動くと当たるよ!』
敵機に次々と砲弾が襲いかかる。回避をしようにもリサイクルチャクラムが機動部に刺さっており、思うようには動けない
砲撃手からすれば良い的であった
「ねえ、今の声って」
『あ、懐かしい。騒がしいのは変わらないね』
景気良く撃ち落としていくのは防衛軍所属の機体、ルキフェルを駆る奈義である。動きの鈍くなった相手など、もはや敵ではなかった
「片付いたわね。デュラハン、あの浮いてるのにコンタクトして」
『さっき、一方的に警告したじゃないですかい……って、ええええ!!』
「どうしたの!?」
『姉御……ご舎弟です』
「は?」
──防衛軍、日本原駐屯地
「四御神参謀! 臘数曹長、ただいま帰還しました!」
タイトスカートに軍服の女性へ奈義はピシッと敬礼をする。彼女は四御神日羽中尉
基地付の参謀であり奈義の上司である
「奈義ちゃん」
「は、はい!」
日羽は素早く奈義の横へ移動すると、その頭を両腕でロックして締め上げた。こめかみへのグリグリ攻撃が追加で襲ってくる
「私のことは、お姉ちゃんと呼べと言ったでしょおおぉ!」
「ぎにゃああぁ! ごめんなさい、日羽お姉ちゃんんん!」
「よろしい」
近くを歩いていた者が、いつもの光景にホンワカと和む。知らない人から見ればパワハラだが、彼女たちにとっては友好的なコミュニケーションなのである
「あら、来たみたい」
日羽はヘッドロックを外し、廊下を歩いてくる男女を懐かしく見つめた
「ホントに正宗くんとファラちゃんだ。あー、ついに人間まで造っちゃったか周佐博士」
農業プラントビルでの戦闘の後、周佐博士はミカエルと共に防衛軍に帰属することにした。理由は資金不足である
防衛軍としても、科学者でありながら現代の錬金術士とまで言われている彼を歓迎した。パイロットとして登録されている正宗も学生でありながら、これに所属することになった
と言うより、この基地の誰もがミカエルのシステムは突拍子もなさすぎて整備することが不可能だったのである。ファラにしても人造人間の扱いなど経験がない
博士が居なければ、何事もままならない厄介な新入りたちなのである
「ねえ、ファラは遺伝子とかどうなってるの? 博士の話しだと牛肉を身体に使ってるらしいけど」
「ああ、それは人工DNAを組み込んでいるよ。だから身体は、ちゃんと人間と同じに変換されてるって……正宗?」
正宗からの質問に答えていると、ふと胸の辺りに視線を感じた。彼女の胸部は、かなり豊かなのだ
ファラは顔を赤くして両腕で胸を隠す
「正宗! あなた私の胸が牛みたいって言いたいの!? 信じられない、スケベ! 最低!」
「え? あ! いや、そのごめんなさい! ギャアアァ!!」
一撃、拳を入れて正宗を追いかけ回すファラを見ながら日羽と奈義は溜め息をもらす
「やれやれ、賑やかになりそうね」
「日羽お姉ちゃん、嬉しそうだね?」
「ふふ、まあね」
賑やかな声が響く廊下で2人は笑顔を浮かべ、これからの喧騒に思いを馳せるのであった
これにて番外編、終了です
次回からは本編へと戻ります




