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温もりの絆

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読んでくださる方に感謝を

 情報という物は新しいほど価値があり、秘匿する事で金を産む。これはゲーム(この世界)でも同じで、ある者は真っ先に強敵に挑み討伐情報を開示する事で名誉を得る

 またある者は新しいアイテムのレシピを発見し独占的に販売する事で莫大な利益を得る。したがって情報の管理は慎重に行うものである


 ところがだ

 

 プレイヤーの中には無自覚に強敵を倒したり、新しいアイテムを作り出し価値が分からず安値で販売したりする。絆オンラインの世界では、この無自覚者を開拓者(困ったちゃん)と呼び価値を知る者は先駆者(苦労人)などと呼んだりする

 さて彼女は、どちらかと言うと開拓者に近いのだが市場価値を無視したりはしない。暴利を貪る事はしないが、ちゃんと素材の価値を考慮した値段を付ける

 完成品を提示し対価を払う者にはレシピの情報を公開するようにしているので、情報をばら蒔く様な事もしていない。健全な経済を形成するうえで、比較的まともな人物である事は間違いない


 ただ、そんな彼女にも常軌を逸っしている事がある

 スキルの取得である


「師匠~、まだ次に進めませんかねえ?」

 エンチェンが武術の型を繰り返しながら尋ねる相手は、粗末なイスに腰掛ける少女だ。同じく粗末なテーブルに広げられた大量の唐揚げを手掴みで口内に放り込んでいる

「ハフハフ、うん? では、基本の復習なのじゃ」

 エンチェンが師匠と呼ぶ、この少女。お察しかと思うが彼女に加護を与え竜人(ドラコヒューマン)へと導いた火竜の人間形態である

 とある火山地帯で採掘を行っていたエンチェンは腹ペコ少女と出会いを果たす。料理を即興で作り出し振る舞ったところ気に入られてしまったようで以来、こうして修行をつけてもらっている

 火竜ドリヒレオグと名乗る少女は剣舞の達人であり、炎を纏って舞う姿は魅了の効果をもたらすほどだ。また鍛冶も得意であり、エンチェンの持つ片手剣フランベルジュも彼女の作品だ

 舞踏を応用した剣技は炎を体現しており、美しくも苛烈である


「ほれ、第一の舞。苛烈なる炎撃にて敵を焼き尽くす……のじゃ!」

 フランベルジュに炎を纏わせ斬り倒した敵を、そのまま焼き尽くす。火竜の加護を受けた者ならば容易く出来る技である

 エンチェンも得意としており世界樹迷宮では猛威を振るった。もちろん完璧に舞う


「次、第二の舞。収束する熱線にて敵を穿つ……のじゃ!」

 ポイポイと皿を空中に投げるドリヒレオグ。その中央を剣から出す収束した火線で穴を空けていくエンチェン

 皿を砕くのではなく、穴を空けるのがポイントである。ともすれば強大な破壊力を示す炎の剣舞

 それを使いこなす集中力を必要とする技だ。これを応用し、魔王戦では球状にした熱線を湖に沈める炎の閃光(フレイムノヴァ)という大技を放ってみせた

 10ほど投げられた皿を全て撃ち抜く


「よしよし、第三の舞。浄化の炎は全てを癒し、蘇る不死鳥と化す……のじゃ!」

 エンチェンの背中から炎の翼が燃え上がる。やがて翼は全身を包み込む様にして萎んでしまう

 パッと火の粉と共に消え去ると、ステータスは全回復している。実戦では使った事のない回復スキルである

 バフもデバフも消してしまうため使い所を誤ればピンチになりかねない。使用回数も少ない奥の手と言える技だ


「さて、第四の舞。妖艶なる灯火は全てを魅了する輝きを放つ……のじゃ!」

 焚き火は人の心を落ち着かせると言う。古代、人間は火を焚く事により獣を遠ざけ安心を得たのかも知れない

 ある意味、この剣舞の真髄と言える技だがエンチェンは、これを苦手としていた。照れがあるのか上手く舞えないのである

 ゲームなのだから型通り舞えば発動はする。だが、このゲームは変な所で凝っている

 期待どおりの効果を得るには型だけでは足りない。必要なのは……


「ハア、ダメじゃダメじゃ。いつも言っておろう()()()が足りんのじゃ」


 好きな事に没頭するタイプのエンチェンは、そちら方面には疎い。服を選ぶ時は機能性重視、化粧もあまりしない

 頼もしい姉御ではあるが、綺麗なお姉さんタイプではないのだ。したがって異性を魅了する様な艶やかさとは無縁の人生である

 急に身に付けろと言われても苦心するのは仕方がない

「やれやれ、困った弟子であるのじゃ」

 そう言って足を高く上げ組み直す少女竜。見た目が幼いため説得力はあまり無い


「とりあえず形から入ってみるのじゃ。ほれ、コスプレ衣装」

 ドリヒレオグのインベントリからバサバサと落ちてくる大量の服。どれもが魅力アップというレア効果付きであるのだが、布面積が少なかったり際どい所が開いていたりする

「どうしても?」

「どうしてもなのじゃ!」

 師匠の命令に衣装を持って同じ敷地に立っている小屋へと向かう。悩んだ末に選んだ服を着てみた

 プレビュー画面で確認してみたが顔が朱く染まった。昔の格闘ゲームのキャラクターが着ている、チャイナドレスの様な衣装だ

 それは裾丈が短く、両方のスリットは全開である。両手で前と後ろを押さえてしまう


「どうじゃ? うほお! エロ!!」

「ぎゃあああぁぁ!!!!」

 扉を思いきり良く開けられ、思わず叫ぶエンチェン。ドリヒレオグは構わず、ジロジロと凝視してくる

「ふむむむ。良いのじゃが、肌色に合わせるなら……こっちじゃな!」

「ヒィッ!……絶対に着ません!」

 引き攣った顔になったエンチェンの視線の先には某有名RPGの踊り子さんの衣装がある。布面積が極端に少ない、それは褐色の肌をしているエンチェンにイメージが合ったのだろう


「無理無理無リムりむ理って、えええええ!?」

 首をブンブン振って否定したが、いつの間にか着せられていた。一瞬の出来事である

「なんで!?」

 何が起こったか分からず頭は混乱しているが、さらに顔を朱くしながら胸と下半身を手で押さえる事は忘れない

「うん? 盗賊(シーフ)スキルの【剥ぎ取り】の応用じゃよ。あと人形遣い(パペットメーカー)の【着せ替え】を合わせれば─」 

「何それ! くわしく!」

 さあ言え、即言えとばかりにズイと迫るエンチェンに、さすがのドリヒレオグもたじろぐ

「……おぬし、スキルの事となると本当に見境ないの。ああ分かったから、その豊かな物質を押し付けるでないのじゃ!」

「あわわわわ」

 我に返ったエンチェンが抱擁を解き衣装の山に埋もれる。しばらくゴソゴソしていたが理想の服が見つかったのか、着替えて山から出てきた

「まあ、それも舞う時の装束じゃの。そういうのが好きな者もおるしの」

 ドリヒレオグの前には白衣(びゃくえ)緋袴(ひばかま)それに千早(ちはや)の羽織を纏ったエンチェンが立っていた。分かりやすく言えば巫女さんである

「どうせなら髪型も整えるのじゃ、ほれほれ」

 こちらも一瞬で、一本縛りの垂髪に変わった

「くわしく! くわしく!」

「だから落ち着かんか! これは【糸繰り】のスキルの応用でって……後で教えてやるから、さっさと舞うのじゃ!」

 再び豊かな質量に挟まれながら指示を出す少女竜であった



「ほう……なのじゃ」

 感心したように呟いてしまうドリヒレオグ。明らかに違いが見てとれるのだ

「肌の露出を抑えた事で、恥ずかしさが消えたか。妖艶というよりは神秘的と言うべきかの」

 巫女の舞いは神事である。エンチェンが舞っているのは神楽舞いではないが、炎を纏う幻想的な動きは正しく神へ捧げるに相応しい神秘性を感じる

「よし、合格じゃ。では最後の舞い、雷火の……うん?」

「よお、お嬢さん方。おこんちわ」

 荒くれという名が相応しい男たちが3人、こちらにやって来る。ただし人種ではない

 火の精霊であるサラマンダーだ。見た目は二足歩行のトカゲで鱗が赤く燃えている

「火竜様よお、出ていく決心は着いたかよ」

「ヒヒ、竜族は落ち目だしな」

「さっさと明け渡せYO!」

 竜は己に近い精霊の力を好む。火竜であるドリヒレオグは、もちろん火属性だ

 火山に近い、この地は落ち着いて住める絶好の環境なのだ。だが、それはサラマンダーたちも同じで縄張り争いの原因になっている

 落ち目というのは、二頭の竜がプレイヤーに撃破されているからだ。それを果たしたのは同じ人物で、精霊の指導者と呼ばれている

 サラマンダーたちは精霊であり本能(プログラム)に従うNPCなのだ。当然、人工知能(AI)が搭載されており、勝ち馬に乗って勢力拡大を狙うという行動を取ったのである 


「あ、アホどもが来たのじゃ」

 一方、ドリヒレオグは真面(まとも)に相手にしない。再び唐揚げを食べ始めた

「むう、冷めてしまったのじゃ」

 ゲームで作り上げた料理は冷める事はない。だがそれに不満を持つ者たちが居た

 

 猫舌のプレイヤーたちである


 彼らはいつまでも冷めない料理が食べれない不満を運営に訴え、改善を求めた。結果としてインベントリ内にあるときは冷めず、取り出すと徐々に冷めていくというアップデートが行われたのである

 ただ冷めるだけでは済まさないのが、このゲームの運営陣である。現実では味というものは冷めていく段階で染み込んでいく

 それを見事に再現し、冷めた方が美味しいという料理が生まれた。料理職人たちにとって新たな課題となり、掲示板を賑わせたのは言うまでもない


「ホイっとじゃ」

 ドリヒレオグが唐揚げに何やら施すと湯気を上げ始めた。どうやら再加熱したらしい

「あむ、アチチチ!……のじゃ~」

 温め過ぎたのかアフアフと言いながら口の中を冷ましだす


「何、呑気に飯を食ってんだよ!」

 無視されて頭に来たのか、一匹のサラマンダーが机ごと皿をひっくり返した

「あ~あ。知らんのじゃ、わらわじゃないからの~」

 ドリヒレオグが焦って否定をした。これから起こる事に巻き込まれない様に急いで後退する

「あんたら、何してんだい」

 冷たく、重く響く声がサラマンダーたちの後ろから聞こえた。唐揚げ製作者の怒りの声である

「あ?」

「やろうってのか?」

「3対1で勝てるのかYO!」


 それは一方的であった。戦いの舞台に上がらされた憐れな演者たちは主演者の炎に身を焼かれる

 いくら火属性に強いサラマンダーとはいえ、炎を収束させた超高熱の前では無力である。程よく焼かれたところで、ほうほうの体で逃げ出した

「おぼえてろよー!」

 と、やられ役のセリフを残して

「怖いのじゃ~、料理を粗末にすると弟子が怖いのじゃ~」

 怯える少女竜は地面に落ちた唐揚げを拾い始めた。現実とは違い汚れたりはしない

「師匠、拾い食いなんか止めて下さい。作り直しますから……ところで最後の舞いってどんなのです?」

「さっき見せたじゃろ?」

「え?」

「終の舞い……レンジでチン! じゃ」

 どうやら唐揚げを再加熱した技がそうらしい。驚いて目を丸くするエンチェン

「え、でも雷火がどうとか……」 

「あー、気にするでないのじゃ。ああいう文言を付けるとカッコ良く聞こえるじゃろ? それに料理職人に相応しい技なのじゃ」

「確かに……」


 その後、使いこなせる様にするためエンチェンは冷ました料理を次々に【レンジでチン!】していく。適温になるにはコツが要りそうだ

 その姿を見ながらドリヒレオグは内心でホッとしていた。レンジでチン! 正式名称は【終の舞 雷火の災い】と言う

 所謂(いわゆる)マイクロ波で分子を加速させ加熱する、電子レンジと同じ原理である。指定した空間内の物を加熱するだけなのだが、その対象がプレイヤーやモンスターになった時、どんな恐ろしい事になるか想像だに難くない

 エンチェンの様に平和利用されていた方が、よっぽどマシである


 温められた料理を一口食べてみる。ちょうど良い温度に加熱された料理に何故か心が落ち着く

 最初は伝えてよいか迷ったが、この分なら大丈夫だろう


 口の中の料理は、彼女の心の温かさが伝わるものなのだから



 称号【温もりの絆】獲得



 



 

 

 



 

 

 

修行風景は酔拳のイメージです

流行りの○○の型とかではないです、はい

科学とか物理はムズカシイです

電子レンジの説明が分かり難かったらゴメンナサイ

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