輝きの絆(前編)
今回はゲーム描写がありません
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「なんじゃとう! 冗談も大概にせい喜平!」
『うるさいぞ極聖! 冗談でこんな事を言えるか!』
悪友である宇喜多喜平が早朝に電話をかけてきた。嫌な予感がする
深夜早朝の電話は緊急の用件がほとんどだ。杞憂であれば良かったのだが、事態は深刻である事を告げられる
「……伊七と千寿は知っとるのか?」
『ああ、教えた。慌てて駆け付けるなよ、今は迷惑なだけじゃ』
そんな事は言われなくても分かっている。だが抑えきれない焦燥感が不安を煽り立てた
恩師が倒れたのである
昨日まで元気にゲームで話していたにも関わらずだ。もっとも90を過ぎた年齢だ、覚悟はしていたが余りにも突然であった
百々極聖ことサオトメは若い頃、家を飛び出していた。どうしても、自分の力だけで何かを為し遂げるという思いが在ったからだ
僅かばかりの貯金と着替えだけを持ち都会へと旅立つ。家業を継げば代わり映えしない日々を送る事となるだろう
不満があったわけではない。ただ、このまま流されて生きる事を窮屈に感じていた
住み込みの仕事を探してみたが時勢が悪いのか見つからない。ふと見上げると『劇団員募集』の文字を見つけ、その看板を掲げる雑居ビルに入っていった
薄暗い階段を上がり目的の場所を探す。粗末な木で出来た表札には『劇団 宙狐』と書かれている
何の躊躇いもなくドアを開けた極聖は、中から放出される熱気に圧倒された。ちょうど稽古中らしく役者から気迫がひしひしと伝わってくる
しばらく呆然として立ちすくんでいると、座って指導していた人物が極聖に気付いた
「あらぁ、入団希望の子かしらぁ? それとも見学ぅ? ちょ~っと待っててもらえるかしらぁ」
言葉を発したのはサングラスの男だ。細身ではあるが、しっかりと鍛えられた筋肉が胸の辺りから見える
「あらあら、緊張しなくてもイイのよぉ。ほら、そこのイスに座ってぇ」
自分の側にあるパイプイスを引き寄せる。極聖はオネェ言葉をしゃべる男の隣に座る事を躊躇したが、先に進むために覚悟を決めて腰を下ろした
中断されていた稽古が再開されると、またもや熱気に包まれる。人が放つ力はこんなに凄いのか……自分は今まで何をしていたのだ!
「凄い……」
思わず出た独り言を横目で見る男性。口もとは満足気だ
やがて稽古は終了し、みな集まってくる。なんとなく極聖も一緒に並ぶ
「なかなか、良かったわよぉ。ビンビン来ちゃうくらい!」
誉め言葉に嬉しそうにする団員たち
「さて、明日からも忙しいから早く寝なさいなぁ。あとこの子もヨロシクねぇ」
注目される極聖は戸惑い、左右を見渡すと自身の事情を話し始めた
「あ、あの俺……いや私は百々極聖といいます。仕事を探していたら偶々、ここの看板を見つけて……その、住む所も決まってない根なし草でして……」
こういうのは慣れてないので、しどろもどろになってしまう。オネェ言葉の男性はニコニコしながら聞いていたが、ある程度、事情が分かると話しを止める
「いいんじゃない、うちの寮へいらっしゃいなぁ。昼は仕事を探して夜は稽古に出てらっしゃい」
「え? ええと……はい」
何故か入団する事が決定であるらしい。住む場所を提供してくれるので、そこは嬉しい
「よろしくな!」
「今夜は入団祝いだ!」
早く寝ろと言われたが、どうやら宴会になるらしい
木造の安アパートの一室、広くはない部屋で酒を酌み交わす。劇団が寮として借り受けている物件で、似たような境遇の若者たちが住んでいるのだ
突然、押しかけたにも関わらずこのフレンドリー具合である。さすがの極聖も先輩たちにタジタジであった
「で、新入りは仕事を探してるんだっけ?」
先輩たちの中でも少し歳が上に見える人物が話を振ってきた
「はいその、とにかく都会で何かをしたかったので。何と言うか焦燥感でしょうか?」
ウンウンと頷く先輩たち。若者にありがちな感情に、みな同意してくれる
「よし、アルバイトでよければ紹介くらいは出来る。明日ついてくるか?」
「はい! お願いします」
それから極聖は昼に様々な仕事をし、夜は劇団で稽古に打ち込むという生活を送る。器用さは無い演技で、オネェ演出家に苦笑されながらも大声とオーバーアクションの俳優として地力を上げていった
そんなある日、とあるオーディションを受けてみないかと話しを振られた
「アニメですか?」
「そう、あなた声が良いから受けてみない? これも経験よぉ」
今や恩人とも言える、オネェ演出家からの薦めである。まあこれも役者として何かの糧にはなるだろうと、言われるがままオーディションに挑んだ
そこで衝撃を受ける事となる。声だけで演技をするという、困難な事をいとも簡単に行っているように見えたのである
実際はかなりの練習を積んでのことだろうが、自分にはそのような技量は無い。これは落ちるなと確信し、この際だから思い切り暴れる事にした
「わあっはっはっはあ!」
声量の大きさと相手を呑み込む気迫、どれも劇団で身に付けた教えである。器用さが無いなら力業で行けというのが、オネェ演出家の指導だった
審査員たちはポカンと口を開けて極聖の演技を見ていたが、やがて退出を告げられた。俺なりにやりきったというドヤ顔で堂々と部屋をあとにする
「今のは……」
「勢いは良いけどね」
「……劇団出身者かあ、声優として学んでないのね」
とまあ否定意見が多数を占める中、瞳をキラキラさせながら極聖の履歴書を見る者が居た
「イイ」
「え?」
「彼、イイ! 非常にイイ! 少し鍛えればイケるでしょ、あの圧倒される気迫は魂に響く。イメージにドンピシャ!」
アニメの原作者、その人であった
その様な事が起きているとは知らず、日常に戻る極聖。オネェさん(みなからそう呼ばれている)に呼ばれて行くとガッシリと抱きつかれた
「おめでとぉ極聖ちゃん! 合格よ、凄いわぁ。初めてなのにぃ」
「え? え?」
何の事か分からず混乱していると、アニメ声優のオーディションに合格した事を告げられた
「ええ? あれ受かったんですか。俺なんかで良かったのかなあ?」
信じられないと言葉にする極聖をオネェさんは窘める
「あなた、何人蹴落としたと思ってるのぉ! 他の人が真剣に努力して受けたのに選ばれなかったのよぉ、信じられないなんて落ちた人に失礼じゃない」
正々堂々と戦って勝った。ならば後悔せず思いきり演じよう
後に、叫びの声優と呼ばれる神庭有城の誕生である
熱血系のキャラクターが居ると必ず呼ばれ、その声を充てる。求められる限り演技を続ける有城であったが、次第に翳が射してきた
時代と共に若い声優たちが育ち、クール系主人公と呼ばれるキャラクターが多数を占める。舞台俳優としては、演じる器用さが無い
なんとか踏みとどまってはいたが限界が見えて来たのである
そんなある日、アパート寮の戸を叩く音がした。最近は暇になっていた有城は対応に出る
「やっと見つけた。この悪童め」
その声に極聖は驚きの表情をする。訪ねて来たのは小学生時代の恩師だったのだ
「いつまでも口を開けてないで、中に入れたらどうなんだい」
加茂みどりは小学校の教師である。面倒見の良さから卒業後も生徒や父兄からの相談を受け慕われていた
極聖も何度か拳骨を受けた記憶がある。悪さをした時の恐ろしさは骨身に染みている生徒も多い
体罰などと言うものは居なかった。悪事を働いても差別なく他の生徒と同じ扱いをし、拳骨ひとつで咎めはしなかったからである
立入禁止の工事現場で遊びケガをした生徒が居たのだが、無事を確認しに親よりも早く病院に駆け付けて来た
「痛かったでしょう。ごめんね、ごめんね」
そう繰り返す先生に当時の生徒は何も言えなかったと同窓会で語る。怒るのではなく自らの指導不足を詫びる先生に、申し訳ない気持ちで一杯になったそうだ
そんな人情派な教師である加茂は、とある卒業生から相談を受けた。宇喜多喜平である
極聖、喜平、そして尼子伊七は担当した生徒の中でも、とびきり手を焼かされた悪い意味での三羽ガラスである
後に1つ下の毛利千寿が手綱を引いて少しはマシになるのだが、悪童としての印象は他を圧倒する記憶がある
そんな印象を受ける子供時代とは違い、熱心に家業に打ち込む青年となっていた喜平は、とある家の事情を語った。百々家とは付き合いがあり、極聖の親と会う事も多い
その親御さんは、結構な歳にも関わらず現役で肉体労働をし家業を守っていた。ところが無理を利かせ過ぎたのか身体を痛めてしまったのである
まったく実家と連絡を取らず行方をくらましている極聖だ。もちろん、地元の友人たちにも便りは無い
喜平は先生の持つ元生徒たちのネットワークを使って、極聖を捜して欲しいと頼みに来たのだ。ところで一部では有名な極聖である
あっけなく所在は知れたが説得に行ったところで頑固な性格が首を縦に振りはしないだろう。そこで恩師である加茂が出向く事にしたのだ
「……」
事情を聞いた有城は黙って考え込んでいた。このまま留まるか故郷に帰るか
「先生、一週間だけ時間を下さい。結論を出します」
「ま、悩みなさいな。ところでここまで出向いた私に何も無いのかい?」
ハッとした有城は都会の名所を案内し、土産を持たせて送り出した。わざわざ出向いてくれた礼も忘れない
そして一番に、こちらでの恩人に相談に行った。オネェさんは黙って聞いていたが、おもむろに立ち上がると
「ま、お寿司でもぉ食べに行きましょ」
と有城を連れて繁華街へと足を向ける。とある寿司屋に入ると、ちらし寿司を2人前注文した
二人でビールを飲み、寿司を頬張っているとオネェさんは語り始めた
「ねぇ、極聖ちゃん。ちらし寿司ってぇ、どんな具も美味しいと思わない?」
何が言いたいのか分からず、適当に頷いた
「でもねぇ、その中でも順位を着けられるのぉ。美味しい具から人気が出てねぇ」
そこで箸を止める。何が言いたいのか分かってきた
「なかには寿司になれない子もいるわぁ。極聖ちゃんはねぇ、例えるとショウガの甘酢漬けよねぇ」
え? 俺、このショウガなの? と思い箸で摘まむ
「脇役の実力しかないのに、鮮烈な印象で記憶に残るぅ。まさに、その物よねぇ」
それは分かっていた。たまたま声優で当たったので名が売れたのだ
「ヒドい、言い方だと思うわぁ。でも誰かが引導を渡さなければ決心、着かないんじゃないのぅ?」
図星だった、これ以上は留まったところで先が見えていたのは分かっていた。帰郷する事に天秤を傾けていた事を見抜かれたのだ
だがヒドいとは思わない。この人は再び道を示してくれたのだ
だから頭を下げて、こう言った
「ありがとうございました」
神庭有城は百々極聖に戻った
静かに寮を出ようとした極聖だが劇団の仲間たちは、それを許さなかった。苦楽を共にし支えあったのだ、黙って行かせるわけがない
駅のホームまで見送りに来てくれた
「俺たちの事を忘れるなよ!」
忘れるものか!
「神庭先輩……いえ百々さん、あなたの事は憧れでした」
泣きながら言う後輩の肩をバシバシと叩く。ありがとうよ
「百々極聖、その名は私の中で永遠に輝き続けるわぁ」
オネェさんの言葉に遂には涙腺が崩壊した。これ以上はガマン出来なかった
逃げる様に電車に乗り込むと、皆に深く一礼し渾身の力で叫ぶ
「百々極聖! これにて、おさらばでございます。皆々様、ありがとうございましたあああぁぁ!!」
神庭有城という人生は、終わってしまった。だが歩く事さえ止めなければ違う道も見えてくるだろう
先頭車両で前方に続く線路を見つめながら思い悩む
「あー。帰ったら謝り通しだろうなあ」
オッサンと呼ばれる年齢になりながら、皆から小突かれるのはバツが悪いなと思いながらも懐かしく感じる帰郷の旅が始まる
VRモノ名物(なのか?)オネェさんが現れた
しかしメインキャラでは無かった!
長くなったので2部構成になりそうです
ところで欲が出てきました
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