泣き虫の仲良き事は
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コンコンコン ガチャ
「い、いらっしゃいませ。どうぞ」
「お邪魔しまーす」
「します」
ミカ君のチームハウス部屋が完成したと言うのでポーちゃんと、お邪魔させてもらう事にした。えーと、これは……
「……武士かな?」
ゲームでは天使族の回復役、ミカ。そしてリアルでは臘数正宗という名前の小学3年生
まだ小学生ながら、彼の人格は大人びている。二つ上の姉、奈義が執拗に振り回すため弟は防衛手段として精神を成長させた
姉の子供らしい突飛な行動に冷静な対応をしたり、無邪気に危険な事に突撃する姉を止めたりするなど保護者的な感覚を持つに至ってしまった
そんな弟優位な日々が過ぎて行ったのだが、とある事件が起きてしまう
「フッフッフッ~、もう逃げられないよ~」
「弟くん、かくご~」
「ゴ、ゴメンね。もうガマン出来なくて……」
姉とその同級生二人に囲まれ、じりじりと後ずさる。三人とも小学生の女の子とはいえ、二つ下である男の子より腕力は強い
この年頃の女性は男性より早く大人に近づく。成長ピークが中学生頃から訪れる男の子に勝ち目は無かったのである
「わ、わが弟ながら……」
「何これ! ヤバ」
「思った通り……ふふふ」
床に押さえつけられ、服を脱がされた正宗は──女装させられていた
ロングヘアーの金髪カツラを被り、姉のお古であるワンピースを着せられた可愛らしい女の子が鏡に映る姿を呆けた様に見つめていた正宗だが……
「うわ~ん!」
大声で泣き出してしまった。羞恥心というよりは、姉たちの力に屈してしまった自分自身の非力さが悔しかったのだ
慌てたのは姉たちの方である
「わ、わ! 泣かなくても。あああ」
「ゴメンて。ほら、よしよし」
「あわわ、ゴメンなさい。でもカワイイ」
男の子の心を若干、傷付けつつ事件は終わったかの様に見えた。だが確実に姉弟の会話は減り、距離が遠ざかってしまう
奈義は、すっかり大人しくなってしまい弟に構わなくなってしまった。やってしまった感を漂わせて溜め息を何度も吐く始末である
正宗は姉が嫌いではない。その行動に呆れはするが、元気に自分を振り回す姉の姿は見ていて楽しくもあった
弟に対して申し訳ない気持ちで、どうしていいか戸惑っているのが正解なのだが正宗はコレを自分が不甲斐ないせいだと思ってしまう
「ボクがちゃんとイヤって言ってれば、こんな風にはならなかったはずなんだ」
元通り、元気な姉になって欲しい正宗はどうしたらいいか考え込んだ
「そうだ、ボクが強くなればいいんだ」
事が事だけに異性である母には相談できず、父親に頼る事にした。普通ならば空手や剣道などを薦めて、身体と心を鍛えるなどだが、彼の父親は生粋のゲーマーにしてインドア派である
「要はNOと言えれば良いのだろう? ならば個人武力など意味がない。そうだなNOと言える環境を作る賢さを学ぶべきだな」
何となく言いたい事は分かるが、まだ小学生である正宗には深く理解が及ばない。そこで父親が古いパッケージに入ったゲーム盤を取り出した
「取り敢えず、昔の偉人に学んでみるか?」
父が出したのは戦国時代のシミュレーションゲームである。なぜに、これなのか
「ま、やってみなって。解決させるのは、それからそれから」
言われた通り押入れからハードを引っ張り出しゲームを起動する。音源もグラフィックも今と比べて雲泥だが不思議とやり込んでしまう
SLGの魔力というものだ。たとえ古くとも脳を働かせるので考えるのが好きな人は楽しめる
時代が変わろうとも囲碁や将棋が廃れないのと似ているかもしれない
「もうクリアしたのか? じゃあ次だ」
三国志を舞台にしたゲームを持ち出してきた。このゲームは武将が存在するので人材管理が重要となる
「次はコレだ!」
また戦国時代のSLGだが先のとは違い、武将の設定が細かいので難度は上がってくる
いくつかの歴史SLGを遊ぶうちに、その時代の人物や歴史背景を知りたくなってくる。これは知識を求める人間のサガなのだろうか
歴史の漫画を読むようになり、歴史ドラマを視るようになり武将たちを知るために歴史の本を読む様になる。そのなかで正宗が惹かれたのは軍師と呼ばれる人たちである
頭脳で戦う強者たち──これが求めた答えなのか?
「へえ、難しい歴史小説も読んでるのか。じゃあ、これ読んでみな」
父親が渡してきたのは所謂、ライトノベルと呼ばれるジャンルの小説だ。どうも現代人が戦国時代とかに転生するものらしい
そこには現代人ならではの視点で世界が書かれていた。理不尽に奪われていく命、生きていく為に簡単に悪事に走る人たち
人間の負の部分を突き付けられ、正宗は息苦しくなる。まだ子供なのだ、無理もない
小説の主人公は理不尽と戦いながら、現代の知識と倫理で人々を豊かにしていく。歴史の流れに主軸を置かず、その時代に生きる人間として書かれている
今までカッコいいと思っていた軍師という人たちが命を奪っていく様も書かれていて、なんだか胸の辺りが重くなる感覚に襲われた
「時代だからな、仕方ない部分もある。だが主人公たちは知識で豊かになり人々を笑顔にする」
ここ重要! と父は人差し指を立てる
「つまり人間を優しくするためには知識が必要なんだ。知識の最上級が優しさであり、それを知らずして人を笑顔には出来ない」
「……」
「いいか息子よ、人には優しくするという事を知っていなければならない。最低限の礼儀としてではなく、知識で己を高めた上での優しさだ」
「……」
「結論を言うと優しい人は知識という武器を持った、他人より強い人たちだ。心に余裕を持っているから、優しさを与える事が出来るんだ」
「……でも、人は裏切るよ。強くなきゃ死んじゃうよ」
「だから知識だろう。武器は持つ人しだいだ。最悪の事態を想定できるなら回避も出来る、軍師とはそういうものだ」
「殺すためではなく、優しくするための軍師が強いってこと?」
「強さの定義は人、各々だ。ええと、俺の話し矛盾したりしてない? 大丈夫? まあ、父さんは正宗に力を誇るのではなく優しい人になって欲しいという願望をぶちまけてみたんだけど……納得出来た? 正直、自信無いんだが……」
「うん、回りくどい」
「ぐは!」
「うーん、分かったのは最後だけ?」
「あらあ。まあゲームで言う経験値が足らないってやつかな、これから先の未来で学んでくれ」
後に成長した正宗は『知識を得た最上の結果が優しさ。だが最低でも優しさを知っていなければならない』という結論に至り
「僕も父さんと一緒で言葉にするのが下手だなあ」
としみじみするのだが、それはまた未来の話し
「まあ、それぐらいにしてコレを見てくれ。父さん奮発しました!」
父親が取り出したのはバイザーが付いたヘルメットだ
「最新のVRMMOだぞ、家族みんなの分を揃えた! お前たちにはガチャチケット付きだぞ!」
ワッフー! と叫びながら踊っている父親からヘルメットを受け取り自分の部屋で起動させた。母と姉にも同じ物を渡した様なので家族で遊びたかったんだろうなあと子供心に思う
「ようこそ絆オンラインの世界、ヒューガルデンへ」
案内のAIに従ってアバターを制作していく。課金ガチャで引いた【人種以外を選べるよチケット】を使うか迷ったが、ある事を思いつき天使を選択した
姉はデフォルメされた天使のキャラクターが描かれているグッズが大好きなのだ。ペンケースや巾着袋は、そのキャラクターの製品である
そしてアバター制作を終えて、父親に指定された場所に向かう。そこには家族がすでに待っていた
「あ、あんた……その恰好」
奈義の前には以前、鏡に写し出された金髪の可愛らしい弟が立っていた
「も、ももももしかして女装がクセになっちゃったのー!」
ズルッとこける父と弟。母親は娘の言葉にオロオロしている
「違うよ! せっかくレアチケット引いたから天使にしてみたんだ。イメージに合ってるでしょ」
姉の好みに合わせたとは照れ臭くて言えないので誤魔化す
「いいのよ、お姉ちゃんが相談にのってあげる。いつでも言ってきて!」
「違うんだけどなあ、まあいいや赦してあげるよ」
「ん?」
弟の言葉は届かなかったのか疑問符を浮かべる奈義。母親の誤解を解くのは大変そうだが、姉とまた気軽に話せるようになったので良しとする正宗だった
「ええ、話や~」
うるうると泣きながらミカ君の話を聞いてた。なるほど彼の大人びた性格の原点はココであったか
「あね、普通はこの年齢でここまで気を使えない。ミカ君、優しいのは良いけど人生で損をする時がある」
気を付けてとポーちゃんが言葉を続ける。それに対して
「その時も赦してあげます」
と答えるミカ君。ポーちゃんは湯呑みで口もとを隠してたけど、薄く微笑んでた
「ところで、このハウジングはやっぱり?」
「はい、ゲームの影響ですね。囲炉裏の部屋、憧れてました」
だろうね、床の間に鎧兜まであるよ。見事に和のハウジングですわ
バンッ! ドタタタタ ガラッ
「ここに居た~!」
障子戸を開けてルキちゃんが飛び込んできた、ふくれっ面で……
「お姉ちゃん、落ち着きなよ。はしたないよ」
「もう、ミカはホントにもう! たまには私と遊びなさい!」
どうやら弟を誘いに来たらしい。命令形なのが微笑ましいね
「まあまあ、そうだ! 皆で行く?」
「え~、たまにはミカを独占させてよ~」
わたしの提案は即座に却下された。あらら
「そう? だったら仕方ないかな」
「ちょ、ちょっと待って。仕方ないなあ、一緒に遊ぶの許してあげる」
パッとミカ君と目が合う。お互いニヤッと笑ってから、ミカ君が立ち上がった
「はあ~、ちょっと準備してくるよ。少し待ってて」
と部屋を出ていった。その様子を目で追っていたルキちゃんだが、小さな声で
「ありがとう、ミカ」
と言っていたのを聞き逃さなかった
ポーちゃんの方を見れば緑茶を飲む手を止め、今度は確かに微笑んでた。わたしもルキちゃんの想いを聞いて嬉しくなった
よかったねミカ君。あなたの想いは通じてるよ
何だか皆に感謝をしたくなる、そんな気にさせられる出来事だった
父親の台詞を考えている時に、わしゃあ何を言っとるんじゃー! とダイコンランでした
う、うまくまとまったかな?
ミカ君は、これが原因で戦術の面白さに目覚めました
そりゃもうスポンジが水を吸い込むが如く知識を蓄えています
さて、そろそろ次章の準備にかかりましょう




