泣き虫と従姉妹様
まだゲームしません
体験版から目覚めた後、わたしは球イスちゃん(勝手に命名)の購入を決意した。本来買うはずだったドライヤーをオマケしてもらったり、取り寄せなので1週間かかると言われたりサービス開始は6月末だと説明されたり。あれやこれやを済まして帰宅完了、もらってきたゲームのパンフレットを見ながら興奮状態でした……今までは
「テスト前やんけ……」
こりは、あかん! 下手な成績ならゲームどころやなくなるで。と、とにかくテスト範囲はキッチリカッチリ勉強しておかねば
でもまあ今は浮かれてもいいよね。そうだ兄に自慢してやろう、もう仕事も終わってるはず
就職して家を出てる兄に電話するのも久しぶりだなあ、スマホスマホっと
「もしもし兄~?」
『おう、兄だぞ妹よ』
「わたしねえ球イスちゃん買っちゃった」
『は? なんじゃそりゃ』
「えとねえVRMMOの新作だよ。フルダイブの」
『……マジか、ひょっとして絆オンラインってタイトルのやつか?』
「うん、それそれ~」
『球イス……お値段高めの椅子タイプのやつか、よく買えたな』
「人生を賭けたよ」
『そんな大袈裟……でもないか。人気なのはヘルメットタイプのちょい安めなやつなんだが思い切ったもんだ』
なんですと?
「情報ありがと、でも遅かったよ」
『あ……え~と、まあ人気なのは在庫ないだろうし結果オーライ?』
「ふ、ふふふふふ……うあぁんー!」
『わー! まてまて泣くな、よし兄に任せろ全て任せろ。妹様よ、楽しみにしておけ』
プツ
ううう。まあもう注文しちゃったし座り心地よかったし、気持ちを切り替えよう
それにしても兄め、任せろだなんて何だろう。今までの兄の所業から、ロクな事では無い気がする
──数日後
「お兄様、疑った妹めを御許しください」
兄から届いたのは【課金ガチャ10回チケット】なるものであった
勝つる、これで勝つるよ。サービス開始日には間に合わないけどガチャの結果次第では初日勢に追いつけるかも
ガチ勢とまでは言わんけど良いスタート切れると思う。公式ページによると、この課金ガチャはレア技能とかレベルアップ券などが出るらしい
超レアなシークレットもあるんだって。楽しみやわ~
まあハズレもあるらしいが10回も回せば1つくらい良いのが当たるよね、当たってよね!
とりあえず祈っとこ。正座して机の上に置いたガチャチケット様に手を合わすナムナム
「あね、なにしてるの?」
「うわっ! ビックリした」
扉の向こうから顔を半分だけ出して、こっちをじ~っと覗いている女の子が我が奇行に疑問を呈しやがりましたよ。とりあえず、おいでおいで
ぽふんとわたしの前に女の子座りする、この子。お隣に住む四御神日羽ちゃん 13歳
お父さんの妹の子供、つまり従姉妹ちゃん。お隣同士で親族ともなれば実の姉妹のように育てられた為、わたしのことを姉と呼ぶ
ちなみに兄のことは、おじ兄……ふっ。かわいそうに(笑)
はー。それにしてもサラッサラの黒髪ロングに、ちょいツリ上がった目をして白いお肌の日羽ちゃんは今日も美人さんである
はいカワイイ
「あねの愛が重い」
ハッ! 無意識に抱きしめてナデナデしてたよ
「あね、晩ごはんは餃子。包むの手伝えって」
ああ、そういえば今晩は両家の父親たち飲み会なんだった。んだから一緒に晩ごはん食べようって、お母さん言ってたっけ
こりゃ早く下に降りて手伝わんと食いっぱぐれる。働かざる者うんにゃららは母の口癖
うんにゃららの内容は恐くて言えん!
部屋を出るとき日羽ちゃんがガチャチケット様をじっ~と眺めてたけど、あの子ゲームするとこ見たことないし単に何だろうと思ったのかもしれない。まあ今は餃子君だ
ドタドタと階段を降りて行く従姉妹を見送った日羽はガチャチケットを手にとって嬉しそうにニヤける
「おじ兄……任務了解」
おじ兄は28歳