精霊は精霊ってだけでファンタジー
勢いと半端な知識で書いた、山は(ほぼ)無し 落ち(ほぼ)無し 意味無しな娯楽?作品。
しかし腐った方向の物では有りませんので、その辺は警戒せずとも大丈夫な作品となっております。
とある世界。
その世界に住む功名心だけは世界一だが、常識や良心など欠片も持ち合わせていない、とても危険な魔法研究者がいました。
しかもこの研究者、研究所に籠るタイプではなく、外をふらついて実地で試してみたがる、本気で迷惑にしかならない研究者でした。
身なりはいかにも人を拒絶するみたいに、全身をフード付きマントでスッポリ覆って、詳しい体型も人相も分からない。
その彼が今、森の中で見付けてしまった魔力溜まりを前にして、なにやら考え事をしています。
「自然発生しては霧散するこの魔力溜まり、何か有効に使えんものか……」
ろくでもない考えでした。
魔力溜まりと言えば、放っておけばそこから魔物が生まれる危険箇所であるのが、この世界の常識。
まあ、ある程度生んだら溜まった魔力が無くなって、魔力溜まりは解消されるのだが、それを有効活用するなどとんでもない事です。
「そうだ、人間の魂をこの魔力溜まりと混ぜ合わせれば、何か出来るかも知れん」
……人間の尊厳すら踏みにじりそうな、危険発言です。
「早速この魔力溜まりの中心に、人間の魂を呼び寄せる魔法陣を……っと」
余計なことかもしれませんが、この研究者はボッチです。
人格からして問題児ですので、大体の人は避けて通ります。
避けずに利用しようとする悪人でさえ、最後にはその開けっ広げな危険思想で、治安当局からの監視を呼びまくって厄介者となり、放り出されます。
つまり実地で試してみたがる研究者の実態は、どんな人からも煙たがられて、腰を据えて研究できる場所が得られないだけでした。
なので大体いつもボッチです。
独り言が、そこらの人に聞こえちゃう位大きな声を、独り言で出しちゃうのです。
「うむ、完成だ」
描き上げた魔法陣には魔力が通り、既に効果が出始めている。
「どんな魂が来て、この魔力溜まりとどんな反応を見せるのだろうか?」
ヤベー研究者のヤベー実験。 研究者本人はとても嬉しそうな声で、成果が出るのを今か今かと待ちわびています。
「……来た」
魂の気配を感じたのでしょう。 彼の興奮度合いが高まってきています。
陣の上に、ポンっとなにか光の塊が急に現れ、そこへ周囲の魔力が一気に集まる。
「良いぞ良いぞ」
研究者大興奮。 不摂生な生活だし、このまま脳の血管がブチッと行きそうと心配になるほどに、楽しそうです。
魔力を吸いきった光の塊は、輝きを増して形も変えようとしています。
「むほぉぉぉぉっ!!」
小躍りなんかも始めちゃうアレな人。
ぴかっ!
ひときわ大きな光を塊が放つと、崩れて用をなさなくなった魔法陣の上に、とても小さい人型の何かが現れたのです。
見た目全裸の人間。
髪の毛は海の色で、開けばまん丸な緑の目。
無性別らしく、どちらの性別の特徴が有るような無いような、判別がつけにくい体格。
「ふむ……」
それに近寄って、観察する研究者。
今回の実験成果だし、気合い入れて調べるのかと思っていたのですが、早々に興味をなくした模様。
「放出される魔力は極微量、手の平サイズの無性別型、羽も無し。 極めて低級の精霊か。 【分析】して調べるまでもない、つまらん」
研究者にとって、興味の対象となる物ではなかった様です。
「もっと面白そうな物は無いものか」
マッドな研究者は人型を元魔法陣の上に寝かせて、少し怪しい足取りながらも、そそくさとここから離れて行きました。
その実験で創ってしまった、ヤベー精霊の価値に気付かないまま。
~~~~~
俺だよ、俺俺! 分からない? 俺だよ精霊だよ!
…………え~、異世界へいつの間にか転生させられ、なぜか精霊となってのんびりした生活する事はや20年。
地球での最後の記憶は、トラックと共にってね。 ベタすぎて特筆すべき事も無い。
現在は精霊の領域に住み着き、守り手とか尖兵とかやってます。
最初の頃はそりゃあもう大変でした。
自分が異世界へ無自覚で来ていた混乱から始まって、地球では人間だったのがいつの間にか種族チェンジして精霊となっていた混乱。
それからなぜか裸族かつ突然起きた息子との別れに、混乱、困惑、羞恥心がごちゃ混ぜになって、大パニックを誘発。
ついでに精霊=ファンタジー世界だから、魔法とか使えるよね!? とワクワクしたのに、全然魔法には適性が無かったとか。
あはは。 普通驚くよね。 精霊なのに魔法使えないとか。 お前何を司ってる精霊なんだよ!って。 俺の体に性別が無かった驚きより大きい衝撃だよね。
解るよ~。 精霊なのに最初は飛べなくて、本気で荒れたもん。
でな、自分がなんなのか。 ステータスをオープンできたから、解っちまったのよ。
名称 :テラ
種族 :精霊
魔法 :無し
スキル:【顕現・地球技術の概念】
以上。
レベルの概念はないけど、細かいステータスの数値は有った。 けど、その説明はパス。
スキルはそれ以外を取ろうとしてるけど、全然取れていない。
アホくせースキルだよ、コレ。 地球の物を出せるのは良いんだけどさ、熟練度で出せる物が変わってくるんだよ。
技術レベルが高い物……現代最新兵器だの電子機器だのは熟練度が高くないと出せねーっつー厄介さ。 今は出せる様になったけどね。
しかもこのスキル、知識まで付いてて、地球で産み出された全ての技術が頭に浮かぶんだわ。
農業技術、掘削技術、会話・交渉技術、製造技術、調理技術、サバイバル技術、医療技術、戦闘技術、電子技術等々……。
名前に技術がついたり、それに関係する全てもまるっと含めて。
お陰で生活の知恵なんかも生きる技術として得られたのは、良かったんだか悪かったんだか。
それでまあ最初の頃は変な精霊だと、この世界に存在する別の精霊から馬鹿にされ、ムキになった俺は熟練度を上げた訳だ。
スキルの熟練度が低い内は、出せても青銅器とかで、すげー苦労した。
基本的に創り出したブツは人間用で、サイズ的に持てない。 家を出せば大きすぎるから、おもちゃの家じゃないとってのには、少しぐぬった。
が、それの補填なのか、指示を出せば宙に浮いて勝手に制御してくれる。 消えて欲しいと願えば勝手に消える。 超便利。
そして補填その2か、全裸だった俺が着られるサイズの服を出せたのは、有り難かった。
アレだな。 服とか身に付ける必要の有るものは、俺サイズのも出せるなんて、中途半端に融通が効いたのはちょっとモニョったな。
出せるに越したことは無いが、なんでその辺だけ……と言いたくもなる。
それがやがて投石機や鉄器が出せる様になり、合間にマーマ○トやハギスなんかの衝撃を挟みつつ、複雑な兵器を出せる様になり……と成長していった。
あ、1番最初に創れるようになった銃は、火縄銃じゃなかった。
銃弾を装填して撃つよりも、銃1丁を組み立てる方が早いとまで言われたり、すぐ暴発したりすぐオシャカになったりする近距離用迷銃だったのには唖然としたね。
その後に火縄銃。 火縄銃より単純な技術ってなんぞこれ。 使えなさすぎるから、要求熟練度を下げましたって感じがする。
まあ有効射程が3メートル以下とか言われるし、妙に納得しちまったけどさ。
すげー拳銃だよ、和訳名で解放者ってやつは。
それと言葉や文字は、途中で仲良くなって身の上さえ明かした大親友の精霊から、教えてもらった。
なんか頭に魔力をつーって送られたと思ったら、1発で頭に刻まれた感じで、ちと怖かったなアレ。
それと異世界生活の途中で、
「飛ばない変な精霊は無限の武器を生み出す! 捕まえて俺たちが利用する!」
とか言われて捕まりかけたのは嫌な記憶。
自身で禁忌としてきた攻城手段の、傷みの激しいご遺体ポーイで疫病発生をさせて、大混乱している内に脱出しようかと物騒な考えをしちまうほどに。
結局は、精霊の中でも変わり者って言われる、大親友に手助けしてもらったけどな。
他にも、
「あの精霊こそ、戦を司る精霊だ! 魔法を使わせぬよう、結界で閉じ込めて捕まえろ!」
とか変な強襲を仕掛けてきたのも居たな。
その襲撃少し前に、当時俺の住処だった場所を奪おうとする変な集団が来たのを、手回し式ガトリング砲で薙ぎ払った。
後から来たやつらも、仲良く一緒に蜂の巣だ。
「魔法を封じる結界で、なぜ魔法が使えるのだ!?」
なんておかしくなってたけど、当たり前だよな。 コレ魔法じゃなくてスキルなんだから。
それで生き残っていた奴が逃げ帰り、報告して捕獲作戦となった~って、一緒に住むようになった風の精霊が精霊ネットワークで得た情報を後でくれたな。
気まぐれで世界を放浪していた時に、
「お前が魔物にも有効なダメージを与えられる地球の兵器を、大量に出せる精霊だな!? 同じ転生者なら手を組もうぜ。 良い目を見せてやるよ!!」
なんて、自称・勇者がやって来たことも有る。
なんか知識チートで近代兵器を作ったは良いが、どうにも魔物には効きが悪かったんだそうな。
なのに俺が創ったのは効く。 勇者の面目を保つために、手伝えって上から目線。
そいつは20tトラックを創ってご退場願った。 場外ホームランになって、スカッとしたよ。 うん。
あいつもやっぱり転生トラックだったのか、トラックを出してから(魂を)積んで運ばれるまで、ずっと怯えて立ちすくんでたからな。
そんなこんなで俺を狙ってやって来る連中を振り払い、決着が付いた頃に精霊王が接触をしてきた。
んでその場所へ行ってみれば、精霊王は俺の大親友!
変わり者同士だと思っていたが、相手は俺以上に変わり者だった訳だ。
これから付き合い方を考えねーとなぁ。 なんて思ってたら、このまま親友でいて欲しいとか言われて嬉しかったのは秘密。
そんな流れで現在に至る。 ……んだが。
《貴様がワシを屠れる可能性を持つ精霊か。 真偽を確かめる為、力を見せてみよ》
目の前に、厄介なお客様。
精霊の領域へ、危険な魔力が近付いてくるって言われて、慌てて入り口まで来たらコレだ。
相手はファンタジー世界最強を欲しいままにする、ドラゴンの中でもまた最強と言われる種。
真っ黒くて、2本足で立ってて、禍々しいお姿。
《初手は譲る。 その感触で貴様がワシを倒せそうだと思うなら、そのまま倒してみせい》
……とても偉そうなドラゴン様ですな!
まあ挑発だろうが、のってやるよ!
「後悔すんなよ! 用意するから少し待ちやがれ!」
前世はうだつの上がらない安月給サラリーマンだったのが、なんでこうまで好戦的な性格になっちまったんだろうな!
……効くのはなんだ? 貫通力? 破壊力? まあまずは普通のドラゴン種を倒せた物、一通り。
創るのはまず、携行兵器の対空・対戦者ミサイル、それと対戦車ロケット、ついでに対物ライフル。
スキルの力で自動制御して射撃までやってくれるんだから、楽で良いよな~。
んで決定打の劣化ウラン弾を装填した戦車。
それと……少しひねって、リミッター外して限界出力まで出せる音響兵器。
あと現在で最強の貫通力を求めて、アレも出しとくか。 撃ち出すまでの準備に時間かかるし、アレを積んだ航空機は急いで離陸っと。
「準備できたぞ!」
黒いドラゴンへ呼び掛けると、妙に嬉しそうな声が帰って来た。
《やっとか! さあ、こい!!》
それにお応えしまして。
ステンバーイ、
――――携行火器達が浮き上がり、ドラゴンへ狙いをつける
ステンバーイ、
――――戦車の主砲が照準をあわせる
ステンバーイ……あ、音響兵器は今ONね。
一呼吸置いて~。
ゴッ!!
うわー。 爆音がひでー、射撃の衝撃波もすげー。
精霊じゃなく物理的な肉体を持っていたら、多分発射の衝撃に巻き込まれて自分も自滅してたな。
黒いドラゴンの様子はと言えば、音響兵器で平衡感覚を持ってかれて、顎に受けた集中砲火で仰向けに倒れた。
攻撃でアゴが砕かれて、脳へダメージが入って、お目目グルングルンで昏倒。
「黒いドラゴンつえー。 普通のドラゴンならとっくに死んでるのに、まだ生きてら」
……駄洒落じゃないぞ? 勘違いするなよ、いいな?
倒れてるドラゴンへは近付かない。 君子危うきに近寄らずってな。
どうせアレだろ? お約束の「やったか!?」が用意されてるんだろ? 分かってるよ。
しかもアゴが砕けたってのに、普通に話しかけてくるんだろ? 【念話】とか使ってさぁ。
《……やるな。 こんなに傷付けられたのは、本当に久し振りだ》
ほらな? 知ってるよ。 しかしあんなの食らって、短時間の昏倒だけで済むってどんな存在だっつの。
だけどあれらでアゴを砕けたんだ。 用意した最後の一手でやれるな。
「そりゃどーも」
ドラゴンにそれを気付かせない為にも、話しかけに応じてやらないとな。
《これで終わりか?》
「終わりだね(仕込みもコミコミで、お前の命も)」
《そうか……お前でもワシを倒せなかったか》
「いや、今倒れてるだろうが」
現状にツッコミを入れてやったら、ドラゴンが少し笑った。
《確かにその意味では倒されたが、ワシが言っているのは命に関してだ》
──────ッッッ!
ようやく、待ち望んでいた風切り音が聞こえる。 ようやく来たか。
「分かってるよ。 だが実際、お前の命はそろそろ尽きるぞ」
《ん?》
俺の言葉に何かを感じたらしい。 ドラゴンの緩んだ空気が一気に消え、緊張感溢れる現場へと戻った。
━━━━━━━━ッッッ!!!
その大きくなってきた音につられて空を見上げれば、そこには見えている先端が尖った野太い円形状の筒と、それに付いた小さな鉄羽。
和名で地中貫通爆弾。
その中でも1番大きく貫通力が高いブツ。
精密誘導可能で、ドラゴンの首辺りを正確に狙って落ちてきている。
想像の仕方によっては断頭台もかくやの、とても恐ろしい場面。
ちなみに今回は爆発させないよう、炸薬は追加の重りとなる物体へ交換してあるから、完全に貫通目的での投下。
どっかの怪獣王なら軽く傷付いただけだが、携行火器やら戦車の砲撃やらでダメージを負うこいつならやれる。
《なんだアレは!?》
降ってくるまともじゃない質量の物体を見付けて驚き、戸惑うドラゴンへ言い放つ。
「アレこそが、本命の攻撃だよ」
《なに!?》
超巨大質量に迫られるその圧力を受けて、慌てて起きて逃げようとしているのだろうが、そもそもとして起き上がれていない。
ただもがくだけで、それ以外はしゃべる程度しか出来ていないのだ。
《なぜだ! なぜ起き上がれないのだ!?》
「お前の頭が揺れているからだよ」
《ワシの頭が揺れている? どう言う事だ!?》
「詳しくは教えねーよ」
簡単な話だ。 音響兵器をまだ起動させているからな、体の感覚が狂ったままなんだよ。
だがそこまで教えてやる義理は無い。
「もう少しで終わりだ。 じゃあな」
掩体を壊す爆弾の力は凄まじい。
炸薬を抜いて爆発しないと言っても、高空から地面へ突っ込む衝撃や振動だけでヤバいのがよく分かる。
いくら物理手段に強い精霊の体だとしても、万一を考えて逃げるに限る。
《待て! 逃げるな!!》
逃げるに決まってるでしょーよ!
俺はドラゴンの声に耳を貸さず、ひたすら着弾予想地点から全力で逃げた。 慌てて出したラジコンホバーに乗って、ブオーンと大きい音をたてながら。
そして後ろから追いかけてきた衝撃波が俺の頬を撫でるのと同時に。
――――特殊個体の討伐を確認。 報奨としてスキル【顕現・地球技術の概念】に効果が追加され【顕現・空想を含めた地球技術の概念】へと変化しました――――
なぬ?
ちょっと確認、スキル知識をさらっと洗う。
…………なにこのヤベーの。
空想って空想と空想科学両方追加なの?
俺が前世にて死ぬまでの時点で、あらゆる創作で出てきた、魔法を技術として扱う学問の魔術とか、古典SFな宇宙兵器とか。
何もかもをスキルで創れるの?
今まで苦労してた移動手段も、魔術で飛べるわ転移できるわ、ロケットパックで飛べるわワープゲートでワープできるわ。
そもそもロケットパックすら不要で、重力式だの反重力式だのエーテル式だの、飛行ユニットの形態は思いのまま。
架空のエネルギー線を燃料にして戦う、合体スーパーロボを顕現させるのはもちろんの事。
他にもディストピア世界の人類管理システムを構築して、市民達へ完璧な幸福を強制したり。
核戦争後のポストアポカリプス世界で、素手の拳だけで全ての敵を粉砕できる、驚異の人体改造システムまで再現できたり。
未来から目的を持って送り込まれた、人工の肌が貼り付けられた、ゴリッゴリなマッチョを模した姿の戦闘人型ロボとか。
中に外見サイズより広い街が丸々入ってる、超時空要塞を出せたり。
瞬時に軌道エレベーターをおっ建てて、そこから様々な人工衛星を浮かべるのも楽勝。
更にリアルで時々噂にのぼる、神の杖とやらも普通に宇宙空間へ出せるし。
増えすぎた人口に対処すべく宇宙へ浮かべた人工の大地を創って、人々は自らの行為に恐怖したり。
飛行や時間移動を可能にした、超技術の車を体験できたり。
満ちた負の感情で星ひとつ簡単に滅ぼせる、ヤベー巨大ロボを出せたり。
光の剣で宇宙チャンバラしたり。
メンテが終わったらメンテが始まって、紛れもなく奴さ、ヒューー! な人の腕を出せたり。
かみをバラバラにするチェーンソーまで用意できるって訳だな?
なにこれ、冗談抜きでヤベェ。
俺はどーなっちゃうの?
転生精霊のテラさん、世界を変革せしめる事実上の神となれる。
……が、本人にはその気無し。
ただただ自分の生活が楽になりそうな、そんな物や技術だけ使ってのんびり生きる気でいます。
※本編冒頭の研究者は、ただの転生するきっかけとして登場させたので、出番は完全に終了しております。