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ぐらとぐら  作者: シクル
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第8話「涼香と霧Part3」

「最低……ね」

涼香は先程羅生に言われた言葉を繰り返す。

「確かに、そうだったかも知れませんわね」

少なからず後悔していた。

霧をクビにしたことを。

霧にあんな酷いことを言ったことも。

いつの間にか自分は、霧をストレスのはけ口ぐらいに扱っていたのかも知れない。

薄々自分でもわかっていた。

「…霧」

涼香は浮かない顔で先程自分がクビにした最愛の友人の名をボソリと口にした。



「……そんなことが…」

全面的に涼香が悪い……とも一概には言えない話だ。

どうやら思ったより複雑な事情があるらしい。

「逃げてるだけだよ」

「……え?」

今まで珍しく黙って聞いていた羅門が不意に口を開く。

「逃げてるだけだ。自分のせいにしようと人のせいにしようと同じだ。牧村さんは逃げてる」

「羅門お前……!」

空気を読め、と言いかけた口を羅門の手に塞がれる。

「お嬢様に嫌われたくない一心でずっと逃げてるんだ」

「私は……逃げてなんか……」

「ならあの日逃げずに謝るなりなんなりすれば良かったんだ。確かに鳳凰院さんも悪い。だけどそれを理由に牧村さんは逃げているんだ」

正論……ではあるが精神的に凹んでいる今の霧には酷である。

だが俺はもう口を挿む気にはなれなかった。

「それに今の牧村さんは鳳凰院さんの使用人じゃない」

きっぱりと断言する。

羅門は酷な現実を霧に再確認させた。

「今の牧村さんは使用人の牧村さんじゃない。対等の立場の1人の人間、牧村霧だ。その意味がわかるかい?」

「………」

霧は少しの間黙り込むと立ち上がった。

「ありがとうございました」

そして俺達に頭を下げるとどこかへ走り去って行った。

「羅門……」

俺は霧が走り去ったのを確認してから羅門に話しかける。

「流石に今のは今の牧村さんにはキツくないか?」

「……変わるべき時なんだよ。彼女も、鳳凰院さんも」

変わるべき時…か。

羅門にしては良いことを言う。

「私は、羅門君の言う通りだと思うな」

真紀がスッと立ち上がる。

「私も同じことを言いたかったんだけど言いづらくて……。代わりに言ってくれてありがとう」

そう言って真紀は羅門に微笑んだ。

その後腕時計を見ると「もうすぐ5時限目だよ」と言いながら教室へ向かって行った。

「俺達も行くか」

「うん」



その後は特に大したことはなく、平常通りの授業があった。

霧と涼香が和解した様子もなく、2人の間にはギクシャクした空気が漂っていた。

俺達もあれ以上は何もしようとせず、静かに見守っていた。

そして授業が終わり放課後。

帰ろうとする俺と羅門を後ろから真紀が呼びとめる。

「ぐら君」

アンタまでそのあだ名で呼ぶか。

「大丈夫……かな。霧」

ああは言っていたが心配なのだろう。

「…大丈夫だろ。俺はよく知らないけど牧村さんは強いと思うぜ」

「そう…だよね。大丈夫だよね霧なら」

少しだけ暗かった真紀の表情が明るくなる。

「ありがとうぐら君、羅門君も!」

そう言って微笑むと真紀は帰って行った。

「兄さん」

「ん?」

「かわいいからってろうとしちゃダメだよ?」

「その前にお前をろうと思う」

とりあえずイラッときたので羅門の頭を軽く叩いておいた。



「ふぅ……」

涼香は溜息を吐きながら帰路に着いた。

いつもなら傍には霧がいた。

だが今の自分は1人だ。

それが涼香を無性に不安にさせた。

「おい」

不意に男の声がする。

涼香が慌てて振り返ると数人の男が立っていた。

「鳳凰院家の娘だな……」

男は近づきながら「護衛の1人も付けずに無防備なこった」と笑った。

「くっ……!」

よりにもよってこんな時に……。

「助けを呼ぼうなんて思うなよ?」

男の内1人が拳銃涼香に向けた。

「俺達と一緒に来い」

「目的は何ですの……っ!?」

「身代金の請求と仲間の仇討ち……かな」

なるほどそうか。

どうやらこの男達は先日警察に突き出した男の……つまり強盗集団の一味というわけだ。

「仇討ち……?悪いのは貴方達でしょう?」

涼香は無理に気丈に振る舞う。

弱気な所を見せるのはまずい。

「そうかもな……。ま、大事なのは前者の身代金だがな」

やはりそうか。

コイツらが仲間のためだけに自分を誘拐しに来るとは思えない。

「簡単に捕まるとでも?」

「簡単だぜ……。目障りな護衛の女がいねえからな」

護衛の女……。

霧のことだろう。

「何度か仲間がアンタを拉致しに行ったんだがあの女に邪魔されてな……」

気がつかなかった。

自分が知らない内に霧は自分を何度も救ってくれていたのだ。

自分は、涼香はそんな霧を勢いだけでクビにしたのだ。

先程よりも一層後悔が深まる。

「さあ、行こうか」

いつの間にか背後に回られていた。

自分の両手を男に掴まれる。

「は、放しなさいこの下郎!」

「下郎とは酷い言い方だなお嬢様」

振りほどこうにも力に差があり過ぎる。

涼香は額に汗が流れるのを感じた。


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