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ぐらとぐら  作者: シクル
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第7話「涼香と霧Part2」

「流石に今のは酷くねえか?」

流石の俺ももう見ていられない。

ついに俺はあの涼香お嬢様に意見してしまった。

「アレは私の使用人です。どう扱おうと私の勝手でしょう?」

今まで尽くしてくれていた彼女をこうも抜け抜けとアレなどよくと呼べたものだ。

「……最低だなお前」

俺は吐き捨てるように呟くと霧を追って教室の外へと飛び出した。

「待ってよ兄さん!」

続いて俺の後を追って羅門も教室の外へ出た。



直感で来たのだが思いの外当たっていた。

霧は屋上にいた。

隅でうずくまっている。

「あの……」

声をかけようにもなんて言えばいいかわからなかった。

「牧村です。牧村霧まきむらきり

「えと…神宮羅生じんぐうらしょうです」

何故かお互いに自己紹介をしてしまう。

「神宮羅門……名のらしていただこうジャンピエール…神宮羅門」

デッサンの狂ったフランス人かお前は。

「メルシーボークー。自己紹介恐縮のいたり………」

アンタものるな。

「…悪いな。そこの馬鹿が鳳凰院の機嫌を損ねてたせいで……」

涼香が悪いのだが元を正せば羅門が涼香をからかって機嫌を損ねていたせいだ。

っていうかコイツはもっと反省しろ。

「良いんです。私が悪いんです……。私がお嬢様の気持ちをわかっていなかったから……」

忠実過ぎる。

こんな彼女のどこが気に入らないのだろう。

「昔はもっと仲が良かったよね」

不意に声がし、俺は振り返った。

「真紀さん……」

俺の後ろにいたのは長い髪を左右でツインテールにした少女だった。

真紀さんと呼ばれた彼女はゆっくりと霧に近付くと、霧の隣で同じように体育座りになった。

「あ、神宮君達だよね?」

コイツと一緒に俺をまとめないでくれ。

「霧の友達の有馬真紀ありままきです」

真紀は体育座りのまま俺達にペコリと頭を下げた。

「神宮羅門……名のらしていただこう……」

「それはもうさっきやっただろ」

「羅生君と羅門君だよね?」

どうやら彼女は俺達の名前を知っているらしく、下の名前をピタリと当てるとニコリと笑った。

「みなさん、ありがとうございます…。私なんかを励ましに来て下さって……」

続いて霧も頭を下げる。

「ねえ霧。私は現場にいなかったから知らないんだけど何があったか教えてくれない?」

真紀の質問に霧は「はい」と答えると淡々とさっきのことについて説明を始めた。

そして最後に「全て私が悪いんです」と付け加えた。

「……中学に上がるまではもっと仲良かったよね?」

「牧村さんと鳳凰院がか…?」

俺が問うと真紀は「うん」とうなずいた。

「良かったら、何があったか教えてくれない?」

「……私がお嬢様の気持ちを察することが出来なかったのが全ての原因なんです」

あくまで涼香のせいにはしようとしない。

あまりに健気な彼女は淡々と過去について語り始めた。



5年前。

私とお嬢様が中学に上がる前くらいの話です。

その頃のお嬢様は今とは違い明るい普通の女の子でした。

住み込みの使用人の娘である私を友達のように扱ってくれていました。

同年代だったこともありその頃の私とお嬢様は本当に仲良しでした。

私はお嬢様のことが大好きでしたし、きっとあの頃のお嬢様は私のことを好いていて下さったんだと思います。

お嬢様は白凪町外に出るのを嫌い、学校も町内で選んでおられました。

故に遠くのエリート校やお嬢様学校へは行きたがらなかったのです。

私はおかげでお嬢様と同じ学校に行くことが出来ました。

しかし中学に上がる前、お嬢様の12の誕生日。

事は起こりました。

私はお嬢様の誕生日にお渡しするため、手間暇かけてぬいぐるみを編んでいました。

編み物が得意な母に習いながら私は懸命に縫いました。

ギリギリで完成し、カードに「お嬢様誕生日おめでとうございます」と書いてぬいぐるみに張り付け、私は急いでお嬢様の元へと走りました。

私がお嬢様の部屋へ入ると、お嬢様は1人泣いておられました。

「お嬢様……どうかなさったんですか?」

「……」

お嬢様は答えません。

心配になった私は詮索するのをやめ、元気づけることにしました。

「あの、お嬢様…。お誕生日、おめでとうございます!」

私は緊張した面持ちで、ぬいぐるみを差し出しました。

今思えば、あんな拙いぬいぐるみ、お嬢様が受け取るハズがありませんでした。

バシン!

ぬいぐるみはお嬢様の手によって叩き落されました。

私は訳がわからず、涙目で私を睨みつけるお嬢様と、床に落とされたぬいぐるみとを見比べていました。

「うるさいですわ!!使用人の娘の癖にっ!!」

その時私は悟りました。

お嬢様は最初から私のことなど眼中になかったのだと。

「も、申し訳……ありませんでした……」

私は涙を必死に隠し、ぬいぐるみを拾って駆け出しました。

お嬢様と私なんかが釣り合う訳がない。

そんなことは最初からわかっていたつもりでした。

それでも、流れ続ける涙を私は拭おうともせず私は逃げるように走りました。

後から聞いた話ですが、あの日お嬢様のお父様……つまり母が使えていたご主人さまが亡くなられたそうでした。

その悲しみを察することが出来ず、あんなぬいぐるみを渡してしまった私が悪いのだとわかりました。

それからしばらく私はお嬢様とは会いませんでした。

学校も同じですが、滅多に顔を合わすこともしませんでした。

小学校までの私とお嬢様を知っている人からすれば不自然だったと思います。

そして私が15になった時、私は正式に使用人として鳳凰院家に仕えることになりました。

それからしばらくして、私はお嬢様専属の使用人に選ばれました。

私はお嬢様が選んで下さったのだと喜び、きっとあの日のことを許してもらえたのだと。

また昔のように仲良く出来るのだと。

しかし、お嬢様は見ない間に変わっておられました。

今のお嬢様の私を見る目は、ただの使用人を見る目に変わっていました。

ことあるごとに私を叱り、罵り、こき使いました。

お父様が亡くなられた悲しみの反動なのかとも思います。

そして私とお嬢様の関係は「仲の良いお友達」から「お嬢様と使用人」という関係に変わりました。



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