第6話「涼香と霧Part1」
新学期早々やってくれたな羅門。
いきなり何てことを言い出すんだお前は。
「で、どういうつもりですの?神宮羅門」
高飛車お嬢様はご機嫌斜めだ。
対する羅門は何を考えているのかヘラヘラと笑っている。
そんな様子をクラス全員が取り囲んでいた。
そして俺はその間にいる。
羅門の後ろでどうしたものかと頭を抱えている真っ最中だ。
「うん、だからその髪型面白いよねって」
だから何てことを言い出すんだお前は。
鳳凰院家のお嬢様にその台詞はまずいだろ。
しかも相手はあの鳳凰院涼香だ。
そいつに目をつけられるのは非常にまずいぞ…
「この私の髪型のどこが面白いっていうのかしら?」
くるくるの縦ロール。
超典型的なお嬢様ヘアーだ。
似合っているので別に良いが、落ち着いて考えると中々面白い髪型だ。
と、全員が思っているのだが羅門以外は口にしない。
つまりお前は禁忌に触れたんだよ羅門。
「だってくるくるしてて面白いよ」
「面白いと思っているのは貴方だけですわ」
いいや、みんな思ってるぞ。
「他の皆様方は美しいと思っているに違いありませんわ」
知ってはいたがかなりのナルシストだな。
そんな彼女の横ではいつものようにポニーテールの少女が立っている。
「素敵なくるくる縦ロール〜♪あなたと私〜♪仲良く縦ロール〜♪」
おいおいおいおい。
歌まで歌うか神宮羅門。
「素敵なくるくる縦ロール〜♪」
大きな栗の木の下でというみんな知っている歌があるのだが…
まさかその替え歌をここで披露してくれるとは…
とりあえずやめろ。
お嬢様の顔がすごい怖いことになってるぞ。
「神宮羅門……!どこまで私をコケにすれば気が済むのですか…!?」
こんなので家の電気とか止められませんように。
俺には祈ることしか出来なかった。
「お嬢様、お言葉ですがこれ以上ことを荒立てない方がよろしいかと……」
「霧……貴女まさか私に引き下がれとでも言うつもりですの!?」
「いえ、そういう訳では……」
「だったら黙っていなさい!!」
「申し訳ありません」
どう見ても八つ当たりだ。
「まあいいですわ。もう今日は帰ります。霧!車を呼びなさい」
「は、はい」
そう言われて霧と呼ばれたポニーテルの少女は慌てて携帯を取り出した。
「神宮羅門……覚えていなさい」
涼香はそう言って羅門を睨みつけると、まだ電話している霧をおいて教室の外へ出て行った。
霧は電話を終えると「失礼しました」と全体に頭を下げ、走って涼香を追いかけて行った。
「羅門……お前な……」
2人がいなくなったのを確認し、俺が羅門に一言言ってやろうとした時だった。
「おお〜〜!!」
不意に歓声が上がった。
見ればクラスメート達が羅門に歓声を送っているのだった。
「すげー!あの鳳凰院によくあそこまで出来たなー!!」
どうやら他のみんなも鳳凰院涼香には鼻持ちならなかったらしく、先程の羅門は非常に痛快だったらしい。
一気に羅門は英雄扱いだ。
俺はどうかと思うけどな。
あの後、俺は羅門をきつくしかった。
羅門の方は「だって面白かったんだもん」と言い訳していたがそれは触れてはならないと諭してやった。
そして思った通り、翌日から涼香は羅門につっかかってきた。
ことあるごとにつっかかってくるため、うざったいことこの上ない。
羅門本人はどうだか知らないが、近くにいる俺からすればうざったいだけである。
そしてその度に羅門は涼香を小馬鹿にし(主に縦ロールについて)、涼香の怒りのボルテージをドンドン上げていった。
徐々につっかかる回数も増え、その度に涼香の機嫌も悪くなっていく。
そしてそのせいでいつも忠告する霧への涼香の扱いも酷くなっていく。
彼女は何も悪くないのだが、どうやらストレスのはけ口にされているらしい。
霧はあまり表情を変えないのだが最近は辛そうだ。
「羅門、ふざけているだけならいい加減にしとけ」
昼休みの教室。
流石に見るに見かねた俺は羅門の方を止めることにした。
涼香も悪いが元を正せば羅門が髪型につっこまなければ済んだ話だ。
「うーん…そうだね。そろそろ飽きたし」
飽きが来る程お嬢様をからかうんじゃねえ。
「大体何で鳳凰院をからかったりなんかしたんだ?」
「だって反応が楽しいんだもん」
気持ちはわかるがマジでやめろ。
俺は相変わらず機嫌の悪そうな涼香を横目で見る。
「一応謝ってこい。随分とご立腹だぞ」
「そうだね」
羅門が席を立ち、涼香に謝りに行こうとした時だった。
「紅茶でございます。お嬢様」
何故か恒例の涼香の午後のティータイムのための紅茶を霧が運んでくる。
「おい馬鹿押すなよ!」
霧の後ろにいた男子生徒(というか岸田)が仲間に冗談混じりに押される。
ドン!
岸田の背中は霧に当たり、霧はバランスを崩す。
「あっ……」
そのままカップは宙を舞い……
バシャ!
あろうことか涼香の顔にかかったのだ。
「も、申し訳ありません!!」
それ程熱くなかったのか、はたまた怒り過ぎて熱さなどどうでもいいのか、涼香は黙って霧を睨みつける。
「どういうつもりかしら霧……」
声に怒気が混じっている。
日頃のイライラ+これだ。
怒るのも無理はない……。
「すぐにお拭きします!!」
霧が急いでポケットからハンカチを取り出し、涼香の顔を拭こうとした時だった。
「いいわ」
涼香は乱暴に霧の手からハンカチを奪うと、自分で顔を拭きはじめた。
「霧……」
「は、はい……」
「クビよ」
「え………」
「使用人の分際で主人である私の顔に紅茶をかけるなんて……」
「そんな!お嬢様!!」
「とにかく貴女はクビよ霧」
「そんな………」
その場にドサリと崩れ落ちる霧。
「早くどこかへ行きなさい!!」
その言葉に霧は一瞬泣きそうな顔をした後、走って教室の外へ出て行った。
続