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ぐらとぐら  作者: シクル
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第49話「遠い過去、遠い未来Part7」

「……本当に行くの?」

後ろから詩織の不安そうな声が聞こえる。

「ああ」

詩織の声を振り切るかのように、俺は振り向かずに答えた。

「…………」

それでもやっぱり耐えられなくて、俺は振り返り、詩織の目を真っ直ぐに見た。

「全部終わったら、またココに帰ってくるから。心配するな」

俺がニコリと笑うと、詩織は涙目のまま、無理に笑って見せた。

「行ってらっしゃい」

詩織の震えた声に、俺は一瞬決意が揺らいだが、それでも……

「行って来ます……」

それでも俺は、行くしかなかった。




海音寺グループ倒産からもう二年が過ぎた。

海音寺魁人が殺人を犯し、逮捕されたことが報道された結果、海音寺グループの評判は当然の如くガタ落ち。

そのまま倒産まで至った。

そう。

羅門が死んでからもう二年も経ったのだ。

あの日、魁人が俺に向けて放った一発の弾丸。

それを間一髪で防いでくれたのは他でもない、羅門だ。

が、その弾丸は不幸にも羅門を貫き、羅門の息の根を止めた。

今までのお礼の言葉も、別れの言葉も、俺は羅門に何一つ言うことが出来なかった。

せめてもう一度会えれば……。

だが、もう羅門はいない。

俺にあるのは羅門のいない空虚な生活と、新たな環境、そして俺を心配してくれる仲間達。

羅門の葬式にはみんな来てくれた。

お金に関しては涼香が全面負担するとまで言ってくれた。(勿論そんなことはさせなかったが)

詩織と、みんなと、羅門との別れを惜しんだ。

そして、泣いた。

枯れるまで、泣き疲れるまで。

残る、空虚な感覚。

あれから俺と詩織は高校を卒業し、それぞれ職に就いた。

大学には進学せず、資金が溜まったら結婚しようという約束で。

それなりに幸せではあったが、どこか物足りない。

羅門がいない。

その事実だけが、幸せなハズの俺の心を絞めつけた。

そんな時だった。

田原が、ノーベル化学賞を受賞した。

最初に聞いた時は耳を疑ったが、どうやら本当らしい。

詳しく聞けば、機械による時間移動に成功したらしい。

そう、簡単に言えばタイムマシンだ。

物体や動物での実験は何度も成功したらしいが、未だに人間での実験はしていないらしい。

現在はタイムマシンのテストパイロットを募集している。

俺はすぐに田原に電話をした。

俺をテストパイロットとして使ってくれと。

危険さ故に、田原は少々渋ったが、俺の熱意に押されて了承した。

俺の目的は一つ。

二年前に飛んで、羅門を助ける。

勿論そのことは田原に話した。

不可能ではないらしい。

それで俺はタイムマシンのテストパイロットとなり、今から田原の研究所へ向かう所だ。

「失礼します」

研究所に着くと、俺はドアを開けて一礼した。

「お待ちしておりました」

二年前と変わらぬ姿のロボ子がペコリと俺に頭を下げた。

「神宮君……久しぶり」

二年前に比べて随分と背が伸び、逞しくなった田原が奥の部屋から現れた。

「髪も背も、伸びたね」

「…まあな」

羅門の面影を求めているのか、今の俺の姿は羅門そっくりだった。

元々顔が似ていたのもあり、髪が少し伸びて背が伸びただけでそっくりだ。

「飛ぶの……?二年前に」

「……ああ」

ギュッと。

ポケットの中にある羅門の形見である携帯を握り締める。

「羅門君を、助けるために……」

俺はコクリと頷く。

「……わかった。奥の部屋までついてきて」

「ああ」

俺はそう答えると先に歩き始めた田原の後ろを歩く。

その更に後ろをロボ子がいそいそと付き添う。



奥の部屋には巨大なカプセルのようなものが置かれていた。

大量のコードが繋がっており、その先には妙な機械があった。

恐らくそれでコントロールするのだろう。

「必要な物を持って中のカプセルに入って。こっちの用意が整い次第転送を開始するから」

「了解」

必要な物と言えば、ポケットに入っている羅門の携帯くらいな物だ。

後はどうするかな……。

二年前の俺にお世話になるとしよう。

食事中に天井裏から飛び出してやるのも面白い。

あの時の羅門のように……。

プシューと音がして、カプセルが開く。

「入って」

「ああ」

田原に促され、俺はカプセルの中へと入る。

必ず―――

必ず羅門を助ける。

「神宮君……。本当に良いの?志村さんのこととか、心配じゃない?」

「大丈夫だ。俺が向こうで死んだりしなけりゃ、五分もしない内に帰ってくるさ」

そう。

二年前に戻った俺が生きてさえいれば、二年前に到着してから二年後の俺がこの時代に帰ってこれるハズだ。

余分に老けてるとは思うが……。

「押すよ……。スイッチ」

「ああ」

カチリと。

機械のスイッチが押された。

徐々に意識が遠のいて行く。

過去へ、二年前へ、俺は今から飛ぶのだろう。

羅門を助けるために。

出来れば、ついでにあの楽しかった日々を……



――――もう一度楽しみたい。




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