第47話「遠い過去、遠い未来Part5」
何だったんだあの男は……?
思いつつも気を紛らわせるかのように文化祭の準備を手伝う。
羅門には何度か聞いたのだが一向に答えてくれない。
何か隠しているのは明白だ。
こないだ倒れたことと関係あるのだろうか……。
あの時走り去った車と今朝見た車が似ていたのも確かだ。
それに、数日前の母からの電話。
近々、俺の本当の家族が目の前に現れるかも知れない。
「まさか……な」
ボソリと口に出して呟く。
「おいぐら。大丈夫か?」
壁にポスターを貼っていると、不意に背後から岸田の声がする。
「大丈夫かって……何がだよ?」
「お前、顔色悪いぞ。ココ最近羅門ともギクシャクしてるみたいだし……」
岸田は本気で心配してくれているらしい。
「いや、大丈夫だ。悪いな…心配かけて」
「べ、別にお前のことが心配なワケじゃないんだからなっ!顔色が悪いのが気になっただけなんだからなっ!!」
いや、そういうのはいらない。
「文化祭……ねえ」
部下からの報告を受け、僕はボソリと呟いた。
僕がこんなに兄さんのために苦労してるのに、当の兄さんは文化祭の準備をお楽しみ中か……。
「なんだかムカつくなぁ……」
ガン!と。
僕は机を叩いた。
「そうだ。文化祭の最中に殺しちゃうってのはどう?」
「はぁ……」
僕がニコリと笑うと、部下は少し困ったような表情になる。
「何か問題ある?」
「いえ、どのタイミングで殺すおつもりなのでしょうか、と」
確かに正論だ。
公衆の面前でやるのはまずい。
「そうだ……。お前らの報告の中にライブってなかった?」
「はい。羅生様の恋人である志村詩織のライブが体育館のステージで行われるようです」
「うん。そのタイミングで行こう」
そう言って、僕はニコリと笑った。
遂にこの日がやってきた。
文化祭当日。
色々と心配なことはあるが、今日と明日だけは忘れて楽しもう。
遊んで、はしゃいで、その後落ち着いてから悩めば良い。
とにかくこの文化祭は、思い切り楽しもう。
「あ、神宮君!」
俺と羅門が既に賑わっている廊下を歩いていると、田原がこちらに走ってきた。
「おう、田原か」
「神宮君達だけ来てないから心配したんだよ…!」
「悪い悪い」
「もう始っちゃってるから、交代の時間だけでも確認しておいた方が良いよ」
「そうだな……」
田原に連れられ、俺と羅門は教室へと向かった。
が、どうも羅門の様子がおかしい。
今朝からほとんど喋らないし、いつもなら先程の会話も「兄さんは文化祭が楽しみで仕方無くて眠れなかったんだよ」などとボケそうな気がしたのだが……。
心なしか浮かない顔をしている気もする。
「羅門、どうかしたのか?」
「え?あ……いや、大丈夫だよ」
やはりどこかぎこちない。
再度何か尋ねようとしたが、その頃には教室に到着していた。
「い、い、い、いらっしゃいませご……」
「ご?」
「や、やっぱり無理ですわー!!」
凄まじいスピードでメイド姿の涼香が教室へ引っ込む。
その姿がかわいかったのか、何人かの生徒がニヤニヤと見ていた。
大丈夫か……アレで…。
一抹の不安を覚えながらも教室のドアを開けると、予想外に繁盛してるらしく、教室の中は満員だった。
「いらっしゃいませご主人様」
ペコリとメイド姿のロボ子が頭を下げる。
って何でロボ子が学校にいるんだよ。
「ロボ子、頑張ってる?」
「はい、陽一さん」
そう言ってロボ子はニコリと笑った。
「田原、何でロボ子が学校に……」
「ああ、人手がちょっと足りないみたいだから連れて来たんだ。一応親戚ってことで」
なるほどな……。
まあロボ子はどうみても人間にしか見えないので、問題はなさそうだ。
「詩織達はどこいったんだ?」
教室を見回しても詩織達が見当たらないので、田原に問う。
「ああ、志村さん達はライブの用意みたいだよ。そろそろ始るみたいだし、見るなら行った方が良いよ」
慌ててポケットから詩織にもらったチケットを取り出す。
腕時計で確認すると、今はチケットに記載されているライブの開始時刻の十五分前だった。
「羅門!急ぐぞ!!」
「う、うん!」
多少戸惑っている羅門の手を引き、急いで体育館まで走った。
体育館へ到着すると、入口で大野がチケットを回収していた。
「あ、神宮君達!急いで急いで!!後五分くらいで始っちゃうよ!」
「お、おう!」
慌ててチケットを二枚、大野に手渡す。
「最前席で聴けるなんて幸せ者だよ二人共……。あの子達、結構良い演奏するから」
席に着くと、会場はそれなりに賑わっていた。
どうやらライブをやるのは詩織達だけじゃないらしい。
何人かは詩織達のバンド名とは違う名前を呟いている。
「兄さん。始まるよ」
ブー!とブザーがなり……。
ステージの幕が上がった。
続