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ぐらとぐら  作者: シクル
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第45話「遠い過去、遠い未来Part3」

―――羅生、アンタは……私の子じゃないの。

母の言葉が何度も胸に突き刺さる。

俺は、母さんの子じゃなかった。

どうやら母さんは若い頃に子宮癌を患ったらしく、それが原因で子供は産めないらしい。

しかし、どうしても子供が欲しかったらしく、それで孤児院から引き取られたのが俺だった。

羅生という名前も親が考えたものではなく、元々付いていた名前だそうだ。

何故このタイミングで伝えたのかと俺が問うと、先日両親の元に俺の本来の家の者が訪ねてきたらしい。

どうやら俺を探しているらしい。

近々俺の前にも現れるかも知れないとのこと。

俺にこのことを伝える時、母さんは泣いていた。

しきりに「ごめんね」と繰り返していた。

そして電話を切る前、最後に「アンタはうちの子だからね」と。

「……ただいま」

俺が電話を切ってから数十秒後、ドアが開いて羅門の声が聞こえた。

「……遅かったな」

「うん……」

先程の電話の内容は、羅門に話すべきなのだろうか…?

いや、やめておこう。

「表情が暗いが、何かあったのか?」

「……ううん。兄さんこと何かあった?」

「…………いや」

その日は、ほとんど無言のまま時を過ごした。

テレビを点けることもせず、ただ無音のまま互いに考え事をしていた。

羅門は何があったのだろう?

気になったが、尋ねることが出来なかった。





「ねえ。ねえってば!」

「あ、ああ……悪いボーっとしてた」

詩織に揺さぶられ、ふと我に返る。

文化祭六日前の土曜。

俺と詩織は町内をうろうろしていた。

一通り店を回り、時間が余ったので喫茶店で時間を潰していたのだが、どうも俺はまたボーっとしていたらしい。

「今ので六回目……。ねえ、そんなにあたしの話退屈?」

流石に六回目ともなると詩織も苛立っているらしい。

「悪い、そういう訳じゃないんだが……」

「……何かあったの?様子、変だよ」

一瞬、昨日のことを話そうと思ったのだが、詩織にあまり心配はかけたくない。

黙っておこう。

「……何でもない」

「言いたくないなら聞かないけど……あんまり無理しちゃダメよ。本当に辛い時は、誰かに話した方が楽になれると思うし……。まあ、あたしは話し過ぎなんだけどね」

そう言ってはにかむ詩織。

「とにかく、無理はしないでね」

「ああ…。ありがとな」

やっぱり、詩織には心配をかけたくない。

大切だからこそだ。

「あ、そういえばさ!」

話題を切り替え、詩織は持っていたバッグの中から二枚の紙切れを取り出す。

「なんだよこれ」

「あたし達の…文化祭のライブのチケット。羅生と、羅門君の分。最前線特等席だから」

俺はそれを受取ると、しげしげと眺めた。

「お前がライブやるなんて聞いてなかったぞ……」

「秘密にしてたんだ……。驚かせたくって」

そう言って詩織はもう一度はにかんだ。

「メンバーはあたしとりえりえと優。あたしがボーカルとベースでりえりえがドラム、優がギターだよ」

「お前がボーカルかぁ……」

確かに詩織とこの間カラオケに行った時はその歌唱力に驚かされたが……。

「大丈夫よ。毎日三人で練習してるし、もう曲も出来てるし。後は本番を待ちながら練習するだけだから……。一度しかやらないから絶対来てよね!」

「ああ。約束するよ」

「よく言ったッエラいぞ」

いや、エラいぞって…。

「破られぬ…………口約束……」

もう刃牙はいいから。



「兄さんと志村さんのデート、いつまで覗いてる気なの?」

喫茶店の前に止めてあった車に向かって僕は言い放つ。

嫌な予感がして来てみれば、兄さん達の入って行った喫茶店の前に妙な車が止めてあった。

こっそりと中を覗いて見れば、この間の黒服の男と似たような奴らが車の中から兄さん達を監視していた。

「尾行しているお前も似たようなものだろう」

男の内一人が車から出てくる。

「……そうかもね」

スッと。

僕は身構えた。

「兄さんを監視する目的は何…?」

「お前に言う必要はない。関係ないだろう?『偽の』弟にはな」

まただ。

コイツも僕が兄さんの弟だということを否定する。

「取り消せ……。今の言葉を」

「事実を言ったまでだ。取り消す必要はない」

同じだ。

この間と。

怒りで拳がプルプルと震える。

「うるさいッ!」

我慢出来ずに男に殴りかかった。

男は容易く僕の拳を避けると、僕を思い切り殴り飛ばした。

「がッ……!!」

ゴンッ!

鈍い音がして、僕の後頭部が強くアスファルトに叩きつけられる。

「―――――――――――――ッッ」

刹那。

頭の中に走馬灯のように様々な映像が流れ込んだ。

痛い。

頭が破裂しそうな程膨大な量の情報きおくが頭の中に流れ込む。

何だコレ?

ナンダコレ?

ボクハ……

ボクハ…………

「羅門ッッ!!!」

兄さんの声が聞こえる。

喫茶店から出て倒れている僕を見つけたのだろう。

あれだけ強く打ちつけたのに、僕は意識を失っていなかった。

失っていなかったけど…………

兄さん。

僕は――――――兄さんの弟じゃない。



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