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ぐらとぐら  作者: シクル
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第42話「温泉へ行こうPart2」

「わー結構広いねー!」

温泉を目の前にして、はしゃぐ優を見てあたしは微笑んだ。

数ヶ月前の優からは想像も出来ない程楽しそうな表情。

優のこんな顔が見れるのも、羅生のおかげなんだと思う。

「……何笑ってんの?」

不意にりえりえに声をかけられる。

「優が、楽しそうだなって」

「……アンタもね」

「…え?」

少し聞き取れなくて、あたしは聞き返した。

「………何でもない」

りえりえはボソリと答えると、温泉の方へ駆けて行った。

「りえりえー!ちゃんと身体とか洗わないとー!」

あたしの忠告に、りえりえは「後でー」と答えると、中にザブンと入ってしまった。

ホントはタオル巻いたままもあんまり良くないんだけどなぁ……。

「良いですね…。こういうの」

不意に隣に現れたのは牧村さんだった。

「そうね……。牧村さんはみんなで入るの初めて?」

「はい。お嬢様としか……」

そう言って牧村さんは「恥ずかしながら…」と呟く。

「霧、背中を流しなさい」

あたしより先に来ていた鳳凰院が風呂桶を片手に牧村さんに指示する。

牧村さんは「はい」と答えると、すぐに鳳凰院の元へと駆け寄った。

相変わらず大変そうだな…。

あの我がままお嬢様の相手をするのは。

「どーしてかな。タオルを巻き終える頃には全身がムズ痒くなってきて、風呂場あいてを八ツ裂きにでもしたくなるんだ」

「有馬さん。それ絶対おかしいよ」

隣でニコリと笑う有馬さんにすかさずツッコミを入れる。

どこのグラップラーよアンタは。

「お風呂……初めてです」

次いで出てきたのはロボ子さんだった。

人間にしか見えないんだけど、どこか人間離れした何かを感じた。

「ロボ子さんって……本当にロボットなの?」

少しぶしつけな質問かも知れないがついつい尋ねてしまう。

気を悪くするかとも思ったが、ロボ子さんはニコリと笑った。

「はい、ロボットですよ。身体の部品パーツとか外せますよ?」

「いや、それはしなくて良いわ……」


温泉から上がった後、あたし達は男子組と合流してトランプなどで適当に盛り上がった。

優は途中で寝ちゃったけど……。

結局十二時前には消灯することになった。

男子組も部屋に戻って行った。

もう皆寝ちゃったみたいだし、ロボ子さんは睡眠状態スリープモードに入っていた。

りえりえはまだ起きているみたいで、ピコピコと携帯ゲーム機をつついていた。

寝よう。

今日は楽しかったけど、少し疲れた。

寝て明日また楽しもう。

そう思って目を閉じた時だった。

「志村さん」

鳳凰院の声だ。

そういえばあたしの横で寝ているのは鳳凰院だった。

もう眠ってしまっているかと思っていたけど、彼女は起きていた。

「…何?」

「少し話して良いですか?」

いつもの高慢な彼女らしくない、しおらしい言い方だった。

「構わないわ」

あたしが答えると、鳳凰院は「ありがとう」と小さく呟いた。

「私が、神宮羅生を好いていたのは知っていますわね?」

その問いに、あたしは「ええ」と答えた。

当たり前だ。

あたしは告白現場にいたのだから。

「今日の私、どうでした?ちゃんと諦めているように見えたかしら?」

今にも泣き出しそうな声だった。

「まだ、諦め切れてないのね……」

そう簡単に諦められる恋なら、この間のようなことにはならないハズだ。

「志村さん、お願いがありますの」

ギュッと。

あたしの手を鳳凰院が掴んだ。

「神宮羅生を、私の分まで愛して、大切にしてあげて下さい……」

泣いている。

震えた声でわかった。

あたしの手は、一層強く握られた。

あたしは、その手を強く握り返した。

「任せてよ」





随分と静かになった。

岸田も田原もぐっすりと眠っている。

羅門は寝ているかどうかよくわからない。

元々よくわからない奴だしな……。

まあ多分寝てるだろう。

そう思って隣の羅門を見る。

「おはよう」

「まだ夜だ」

起きてやがったか。

「俺もそろそろ寝るし、お前も早く寝ろよ」

俺がそう言って目を閉じようとすると、「待って」と小さく羅門が呟いた。

「何だよ?」

「兄さん、僕ね……記憶が少しずつ戻ってきてるんだ」

「……え?」

羅門の思いもよらない告白に、俺は動揺を隠せなかった。

「自分が誰で、どこから来たのか。薄らとわかり始めてる」

「お前……」

「でもね……。僕は、記憶なんて完全に戻らなくて良いと思ってる」

「な――――」

なんでだよ。

そう言おうとする前に、羅門が言葉を続けた。

「僕は、今この瞬間をも含めて『今』が大好きだ」

「『今』……?」

「うん。兄さんがいて、みんながいて。色々何かがあって、馬鹿騒ぎして、またこうしてみんなで集まって……」

語っている羅門の表情は、とても幸せそうだった。

が、その幸せそうな表情に、どこか儚さも感じた。

「記憶が完全に戻ったら、僕はもうココにはいられない気がするんだ。兄さんとも、みんなともいられなくなってしまう気がして……」

羅門の表情が暗くなる。

「だから僕は、過去はいらない。僕が欲しいのは『今』とこれから先、『未来』なんだ」

「羅門」

もう既に一人になったかのような表情を見せる羅門の顔を、真っ直ぐに見つめた。

「お前が誰であろうと、お前は神宮羅門だ。記憶が戻っても、お前が俺達の傍にいたいのなら自分の意思でいれば良い。俺はそれで構わない」

「……良いの?」

そう尋ねた羅門は、どうしようもなく不安そうだった。

「当たり前だ。前に言った言葉は訂正だ。記憶が戻っても、お前は俺の弟だ」

そうだ。

コイツは神宮羅門。

俺の弟だ。

だから、そんな不安そうで、寂しそうな顔はするな。

「約束……だよ」

「約束だ」

この約束は必ず守ると、心に誓った。



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