第4話「白猫と賞金Part2」
「ハァハァ……」
結構な距離を走ったが、羅門達は見当たらなかった。
俺は肩で息をしながらその場に立ち止まる。
「ふぅ……」
落ち着いて考えればあの猫がシャルロットだという可能性は非常に高いが100%ではない。
確認してみる必要があるな……
そう決めてすぐ、俺は鳳凰院家に向かうことにした。
羅門の拾って来た猫とシャルロットの共通点をハッキリさせるには飼い主に特徴を聞くのが一番だろう。
距離的には大した距離ではない。
流石に走る気にはなれなかったので、俺は鳳凰院家に向かって歩き始めた。
「上は大火事下も大火事……。それは何でしょう?」
「みぃ〜」
「ブブー!残念でしたー!正解は大惨事でーす」
羅門はケラケラと笑いながら頭上の猫に話しかけていた。
「楽しいねー」
「みぃ〜」
傍から見ればただの変人である。
羅門は猫とともに神社の周りをうろうろしていた。
神社の周りは人通りが少なく、羅門と猫の会話を聞いているものなど誰もいないのだが……
というより会話にすらなっていない。
羅門が一方的に話しかけ、猫が呼応するかのように鳴いているだけだった。
「じゃあ次の問題!」
「みぃ〜」
「入口は1つ、出口は3つ…それは何でしょう?」
「みぃ〜」
「ブブー!正解はそういう造りのお屋敷でしたー」
「みぃ〜」
最早なぞなぞでも何でもない。
そんなツッコミ不在の会話をしながら羅門は頭に猫を乗せたまま神社の周りをうろうろしていた。
目的は散歩以外にないらしく、同じ場所を何度も回っていた。
「そろそろ帰ろうか……」
「みぃ〜」
いい加減飽きたのかは帰路に着こうと方向を変えた。
その時だった。
「待て」
後ろから声が聞こえる。
低い、男性の声だ。
「今日の昼ご飯何かなー」
聞こえていないのか聞こえていない振りなのか、羅門は無視して歩いている。
「待てと言っている!!」
ムカついたのか、男は語気を荒げた。
「僕?」
流石に気付いたのか羅門は後ろを振り返る。
「その猫を我々に渡せ」
後ろにいたのは数人の男達だった。
黒いスーツにサングラス。
怪しい風貌の彼らは一様に羅門の頭上の猫を見ていた。
「みーちゃんのこと?」
「そうだ。その猫は我々の物だ」
「そうなの?」
羅門は猫を頭から離し、抱き上げると優しく問いかけた。
「みぃ〜」
しかし猫は現状をあまり把握していないらしく、いつものように一声鳴くだけであった。
「違うって」
「いやいや、今のじゃ普通わからんだろ」
流石に耐えかねたのか男達の内1人がツッコミを入れる。
「とにかく、その猫を渡せ」
男達はどうにもその猫が欲しいらしく、じりじりと羅門に近寄る。
「だが断る」
「ナニッ!!」
「この神宮羅門が最も好きなことのひとつは自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやることだ…」
「この……クソガキがァーーッ!!」
とうとう頭に来たのか1人が羅門に銃を向けた。
「死にたくなかったらとっととその猫を渡しやがれェーッ!」
「はぁ、猫のことですか」
鳳凰院家の門の前。
俺は丁度庭の掃除をしていたメイドさんの1人を呼び止めた。
可能性はあまり高くないがこの人でも何か知っているかもしれない。
「今賞金がかかってるシャルロット様のことですよね?」
猫にまで様付けですか……
随分と違和感を感じるが気にせず俺は質問を続けた。
「何か猫に特徴的な行動とかありますか?」
俺の質問に、メイドさんは困ったような表情になった。
「私はシャルロット様のお世話はしたことがありませんので……」
「どうしたの?」
不意にメイドさんの後ろから声がする。
「あ、涼香お嬢様」
メイドさんの後ろにいたのは金髪の縦ロールが特徴的な美少女であった。
その横には付き人のように長いポニーテールの少女が立っていた。
見覚えがある。
同じクラスではないが白凪校の生徒だ。
それに2人とも白凪の制服だ。
縦ロールの方は鳳凰院涼香。
インパクトのある名前と容姿のおかげで容易に覚えることが出来た。
もう1人は見たことはあるが名前までは知らない。
「貴方……確か白凪にいませんでした?」
「ああ、まあ……」
顔しか知らないがな。
「この鳳凰院家に何か御用でも?」
「いや、猫のことなんだが……」
「猫?ああ、シャルロットのことですね」
「何か探してるんだが、何か行動的な特徴とかないか?」
「特徴……」
涼香は少し考えるとすぐに何かを思いついたような顔をした。
「そういえばシャルロットは高いところが大好きですわ。登る場所がなければ人の頭にでも上りますわ」
なるほどな。
これで羅門の拾った猫がシャルロットである可能性が随分と上がった。
というかそうだろう。
「それにしても猫一匹になんで10万も賞金かけるんだ?」
「貴方に教える義理も義務もありませんが……まあ良いですわ。教えてあげましょう」
涼香の態度少し腹が立ったがここは我慢しておく。
「あの子、つい先日に家の金庫の鍵を飲み込んでしまったんですの」
これはまたベタな。
「その上使用人のミスで逃げてしまって…」
「なるほどね……」
「しかも、その使用人。強盗集団の一味で、鳳凰院家の金庫を狙ってたみたいで……」
徐々に話が大きくなる。
「逃がしてしまったのも無理に捕まえようとした結果ですわ」
「じゃあ今その猫は……」
「ええ、強盗集団のみなさんに追われてますわ」
……ヤバくないか?
「お嬢様、そろそろ……」
「そうでしたわね」
涼香はうなずくと、ポニーテールの少女とともに門の外に出た。
「では私、これから部活動ですので」
「ああ、色々教えてくれてありがとな」
「礼には及びませんわ」
そう言って2人はこの場を去って行った。
「もしかしなくても今羅門ってピンチなんじゃないのか……」
嫌な予感がする。
俺はメイドさんに一言礼を言って頭を下げるとすぐに走りだした。
早く見つけないと羅門も猫もヤバい。
どこにいるかはわからないが、俺はとにかく急いだ。
続