第38話「魔法先生ねぎぽにだっしゅ!?Part3」
「う………げぇッ!!」
口の中に含まれた液体は想像以上に凄まじい味であった。
この世の液体じゃない。
「ちょ、吐かないでよ!材料高いんだから!!」
心配するのはそこか。
「………ッッ!!」
不快感は口の中だけだったのが、不意に身体全体へと行き渡る。
身体が内部から造り替えられるような感覚。
悪寒が走る。
目眩がする。
ブツリと。
そこで意識は途切れた。
「……んぐうー」
んぐう?
「神宮ー」
声が聞こえる。
宮本の声だ。
「大成功だぞっ!!」
俺が気を失ったのにも関わらず、のうのうと大成功などと喜んでいるのが無性に腹が立った。
「あのな……」
薬が原因か、身体中に違和感があるが、それでも強引に立ち上がり、宮本の胸倉を掴む。
「人を気絶させといて!大喜びしてんじゃ………あれ?」
今誰か俺以外に喋ったか?
聞いた覚えのない声がした。
慌てて誰か他にいないかと辺りを見回す。
「私とお前しかいないぞ。いいからその手を離せ、この同性愛者め」
「誰が同性愛者だ!大体俺とアンタは性別違……」
むにゅりと。
宮本の手が「俺の」胸に触れた。
「ひゃぅんっ」
身体中に走る経験のない感覚に、俺は出したことのない声を上げながら身をよじらせる。
今の……俺の声?
「ちょっと触れたくらいで感じるとはとんだ痴女だな」
「痴女って……」
立て続けに俺の喉から発せられる甲高い声に驚き、俺は慌てて喉を押さえる。
「……は?」
ゆっくりと。
不自然に盛りあがった自分の学生服を見つめる。
触れる。
揉んでみる。
「はうっ」
またしても先程と同じ感覚。
喉、胸、声。
そして一つの答えに辿り着き、冷や汗をかきつつ股間に手を伸ばす。
「…………ないです」
「ないな」
口をあんぐりと開ける俺とは対称的に、宮本はニヤリと笑う。
「長くて邪魔そうな髪だな。どれ、私と同じように結ってやろう」
指摘されてやっとのことで気づいた。
髪も恐ろしく伸びている。
確認すると、詩織程ではないが、しなやかな黒髪が肩甲骨辺りまで伸びている。
この髪質は「男性」の物ではない。
「ほら、こっちこい」
ニヤニヤ笑いながらこちらに歩み寄る宮本に、言いようのない恐怖を覚え、後ずさる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
化学準備室周辺に、一人の「少女」の声が響いた。
カワールカワールVX…。
それは宮本葱子の作りだした簡易変身薬。
俺が女性化したのはそれが原因らしい。
ちなみに試作品らしく、試したのは俺が初めてだそうだ。
どうやら今日の小テストも被験者を選抜するためらしく、点数の一番悪かった者を実験台にする予定だったらしい。
そして見事俺が選ばれたということらしい。
「中々美人になったな神宮」
「別に嬉しくないですよっ!実験が成功したなら早く元に戻して下さいっ!!」
甲高い声に違和感を感じながらも必死に抗議するが、宮本はニヤニヤと笑っているだけだった。
「まあまあ、持続時間は十五分だから。タルるートくんより長いぞ」
五分も長いのかよ。
「で、これがどう詩織と仲直りするのに役立つんですか?」
「うむ。姿を変えることによって志村の意見を彼氏としてではなく女友達として聞くことが出来るぞ生子ちゃん」
誰が生子だ誰が。
勝手に名前いじんな。
が、確かに良い方法かもしれない。
これなら詩織と話が出来るし、仲直りの糸口が見つかるかもしれない。
「休憩時間はもう十五分程あるし、ぴったりだぞしょこたん」
どっかのマルチタレント見たいな呼び方するんじゃねえ。
「しかし……その格好じゃ不釣り合いだな」
宮本は俺をじろじろ見ながら呟くと、近くにあった鞄から畳まれた女子制服を取り出した。
「着替えろ」
「だが断る」
「黙って着ろ。男装しやがって、宝塚の男役かお前は」
元々俺は男だ。
「時間がなくなるぞ」
「う……」
確かに時間は刻一刻と迫ってきている。
「わかったよ!」
俺は宮本の手から乱暴に女子制服を受取る。
「下着も入ってるからちゃんと着けろよー」
「わ、わかってるよ!!」
羞恥心で顔を真っ赤にしながらも俺は着替えるために化学準備室の奥まで向かうのであった。
「やっぱこれ、着なきゃダメですか……?」
羞恥心で死にそうだ。
「うん。ダメ。校則だし。女子は女子用制服を着用すること」
確かに校則と言えば校則だが…
「うんうん。サイズ合ってて良かったー。ニーソ(ニーソックス)も似合ってて完璧!絶対領域!!」
ニヤニヤ笑いながら俺を舐めまわすように見る宮本。
すごい嫌悪感。
「これ……足元がすっごいスースーするんですけど」
「スカートだし、丈もミニだから当たり前じゃん」
何が当たり前だ何が。
ふざけるな、と言いたい所だがこれも詩織と仲直りするため……。
あれ、スカート丈は詩織と関係なくね?
「おお、ちゃんと下着も着替えたか」
「っ!めくるなばかぁっ!!」
ゴッ!!
反射的に宮本の顔面に蹴りを入れてしまう。
「あ……」
仰向けに宮本が倒れたのを見て、慌てて詫びを入れようとした時だった。
宮本はむくりと起き上がり、笑顔で親指を突き立てた。
「ナイスキック!ナイスパンチラ!Nice boat.」
鼻血出てんぞ。
それと、Nice boat.は関係ない。
続