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ぐらとぐら  作者: シクル
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第37話「魔法先生ねぎぽにだっしゅ!?Part2」

「今から超難しい小テストをするので超頑張って下さい。ちなみに、高得点を取ると蝶・サイコーです」

どこのパピヨンだアンタは。

宮本が赴任してから数週間……。

色々と気になる所はあるものの、教師としては申し分なかった。

何とか大学(一度聞いたけど俺も忘れた)を出ただけのことはある。

教え方も悪くない。

……が、問題なのは宮本よりも大山だったりする。

「おい大山」

「はい」

良い感じに主従関係が出来ており、情けないことに大山は十三歳の少女にこき使われている。

「忘れたからテスト用紙持ってこい。私の机の上に置いてある。引き出しの中見たら殺すからな」

「わ、わかりました」

大山が教室のドアを開き、教室から出ようとした時であった。

コンッ!

大山の後頭部に黒板消しが投げつけられる。

投げたのは言うまでもなく、宮本である。

「早く取ってこいウスノロ!」

「は、はいっ!」

なあ、罵倒されて嬉しそうなのは気のせいだよな?

そんな光景を眺めながら、俺は深く溜息を吐いた。

「すごい先生だよね、宮本先生って」

後ろから田原の声が聞こえたので、俺は振り向いて苦笑した。

「色々な意味でな」

田原はクスリと笑うと、すぐに話題を変えた。

「そういえばさ、志村さんと仲直り出来たの?」

田原の問いに、俺は「いや」と答えた。

もうあれから何週間も経つというのに、一向に許してもらえそうにない。

俺がチラリと詩織の方を見ると、すぐにこちらの視線に気づいて目をそむける。

「…まだなんだ」

「メールしても返って来ないし、電話にも出ねえ……。どうしたもんかなぁ…」

「時間が経てば仲直りするかと思ったけど、そうでもないみたいだね…」

「ああ……」

不意に、田原がポンと両手を打つ。

「ねえ、僕の渡したチケットで仲直りするってのは?」

「それも考えたけど、話が出来なきゃ渡すことも出来ないしな…」

「そっか……」

「ありがとな。心配してくれて」

「ううん。こっちこそ力になれなくてごめんね」

申し訳なさそうな顔をする田原に、俺は「気にすんな」と声をかけた。

そんな会話をしている内に、大山がテスト用紙を持って教室に入ってくる。

「遅いぞっ!このウスノロ!!」

宮本は、大山の元まで駆け寄るといつものように脛の辺りを蹴りまくる。

蹴られる度に大山は快感に満たされているかのような表情を浮かべる。

「お、お前達…!最初に言っておく!」

「今日の俺は―――マゾだ!!」

今日だけじゃないだろ大山。

大山の衝撃的な告白に教室がざわつく中、宮本はやっとのことで蹴るのをやめ、テスト用紙を配り始めた。

ちなみに宮本は化学担当なので、無論テストは化学。

化学苦手だからまずいな……。



テスト終了。

内容は五十点満点の単語テスト及び化学反応式等の計算問題。

正直、ヤバい。

ふと木下の方を見ると放心状態だったが、まあいつものことだ。

答案を集め終わると、宮本はパラパラと確認を始める。

「……全体的に悪いな」

宮本はそう呟くと、答案を大山に渡した。

「お前、これ採点しとけ。私はもう確認した」

「わかりました」

大山はそう答えると、答案を持って教室の外へ出て行った。

「私の許可なく外に出るなこのウスノロっ!」

ドアに向かって宮本が罵倒すると、待っていましたと言わんばかりに大山が「はい!」と返事をしながら戻ってくる。

「これで四時限目の授業を終える。あ、それとご飯食べたら神宮羅生は化学準備室に来るように」

「何で俺がッ!?」

ついつい声を上げた俺を無視するかのように学級委員が号令し、四時限目の授業は終了した。



「……はぁ」

昼食を食べた後、溜息を吐きながらも仕方なく化学準備室に向かう。

何故呼ばれたのか皆目見当がつかない。

が、とりあえず行かない訳にもいかないので納得のいかないまま化学準備室へ向かう。

化学準備室のドアを開けると、宮本が座って待っていた。

「よく来たな神宮。まあ座れ」

十三歳の少女に上から目線で言われるのは非常に腹が立つが、相手の立場は教員なので仕方ない。

渋々用意された椅子に、宮本と向かい合うようにして座る。

「何で呼ばれたかわかるか?」

「全然わかりません」

「お前、今回の小テスト一番酷かったぞ」

「え?」

見てもないのに何でそんなことが言えるんだ、と言おうとしたがやめた。

多分、多分だが……宮本はパラパラとめくりながら簡単に採点していたのかもしれない。

「大山に急いで採点させたらやっぱりそうだった」

と、言いながらポケットから俺の答案を取り出す。

「十二点……」

その恐ろしく低い点数を見つめ、俺は絶句する。

いや待て。

我がクラスには幸い木下がいる。

俺が最低のハズはない……。

「あの、ちなみに木下さんは……」

俺が恐る恐る尋ねると、宮本はフッと笑った。

「十三点だ」

――――負けた。

「…で、俺に何をさせるんです?」

「私の薬の実験」

………。

しばし沈黙。

恐る恐る俺が「マジですか?」と問うと、宮本は「マジです」と真顔で答えた。

「私ばかりが得する訳ではない。お前だって得するんだぞ?」

「え?」

俺が聞き返すと、宮本は得意気に笑った。

「お前、彼女とケンカしてるだろ」

「な……!?」

なんでそれを!?と俺が問う前に宮本は説明を始めた。

どうやら俺と田原の会話を聞いていたらしく、そこから推測したらしい。

「安心しろ、仲直りさせてやるぞ!」

そう言って宮本はどこからかコップを取り出し、俺に差し出した。

「……なんスかコレ…」

「カワールカワールVX」

胡散臭い名前だ。

「カワールカワール2000もあるよ!」

どっかのツクールみたいな名前の変わり方だな。

「これを……飲めと?」

ドロドロとした緑色の液体。

俺の問いに、宮本はコクコクと頷く。

「休み時間の間には治るから」

何がだ。

何が治るんだ……。

「早く飲まないと単位あげないよ」

うわ、強行手段だ。

「わかりましたよ!飲めば良いんですね飲めば!」

コップの中の奇妙な液体と、宮本の妙な笑みに一抹の不安を覚えながらも、俺は覚悟を決めてその液体を飲みほした。



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