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ぐらとぐら  作者: シクル
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第33話「君がいた夏は遠い夢の中Part2」

「う……ん…」

意識が朦朧としている。

ぼやけたままの視界で必死に状況を把握しようと辺りを見回す。

夜だ。

だけど辺りは明るい。

その明るさが人工の物による明るさだとなんとなく気づく。

……そうだ。

祭りだ。

祭りで集合して、詩織と話して……。

Doubleダブル-Actionアクション!!」

ガバリと身体を起こす。

俺がいた場所は神社の石段だった。

「まったく…。起き上ったと思ったら何を大騒ぎしてますの?」

完全に1人だと思い込んでいたため、不意に聞こえた声に俺は驚いた。

「鳳凰院…?」

「志村さんでなくて、悪かったですわね」

何を怒っているのか、涼香はプイっとそっぽを向く。

「悪いな、鳳凰院…。俺が起きるまで見ててくれたのか?」

「え、ええ。まあ…。本来なら志村さんがやるべきなのですが、福井さんに強引に連れていかれまして……」

福井の奴、どうにも俺と詩織をいちゃつかせたくないらしい…。

そういえば、石段の上に転がっていたのに頭に痛みがない。

後頭部に触れてみる。

砂か小石でも髪に混じっているかと思ったが、そんなことはなかった。

むしろ温もりがある。

その温もりが、誰かの体温であることに直感的に気付く。

「鳳凰院、ありがとな」

「何がですの?」

「いや、俺が起きるまで見ててくれたのと……膝枕……」

膝枕という単語を聞いた途端、涼香が頬を赤らめてうつむく。

「そ、その、硬い場所に寝かせておくのも忍びないですし……他に場所もなかったものですから……!!」

涼香はブツブツと呟くと、勢いよく顔を上げ、こちらを向く。

「と、とにかく!浮気はよくないですわ!!」

何でそうなる。

とりあえずみんながどこに行ったのか尋ねた所、詩織は福井と木下に連れて行かれ、他のみんなも散り散りにどこかへ行ってしまったらしい。

霧は最後まで残ろうとしたらしいが、遅れてきた真紀に誘われて困っていた所を涼香が行くことを許可したらしい。

その結果、この場には俺と涼香の二人だけになってしまったようだ。

とは言っても白凪神社は広くない。

ちょっと見渡せばすぐに見つかる。

羅門なんかは行動が奇怪なので本当にすぐ見つかる。

射的の所で商品を狙わず、隣にいる岸田に弾を乱発している。

……やめてやれ。

「えっと…。これからどうする?」

「そうですわね……。とりあえず二人で適当に回りましょう」

「二人でって…。俺と鳳凰院でか?」

「…嫌ですの?」

「そういうわけじゃないけど……」

「なら決まりですわ」

涼香はニコリと笑うとスッと立ち上がった。

「さ、行きましょう」

あの鳳凰院涼香もこんな顔をするんだなぁ……などと考えつつも、俺は立ち上る。

「とりあえず腹減ったな……たこ焼きでもなんでも適当に……」

俺が呟きながら出店の方を見た時だった。

「…ん?」

よくよく見ると、ほとんどの出店が片付け始めている。

ポケットから携帯を取り出し、時間を確認するが、まだ祭りが終わるような時間帯じゃない。

『レディースアーンドジェントルメーンッッ!!』

ベタな台詞が神社一帯に響く。

俺の予想が正しければこの声は……。

「神宮……羅門…?」

俺が口にするよりも早く、隣にいた涼香が奴の名前を口にする。

…何やってんだアイツ。

『これより!!行くぜ行くぜ行くぜ行くぜ町興し!〜究極の超人タッグ編〜を開催します!!』

意味のわからない羅門の言動に、俺も涼香も唖然とした表情で羅門の声を聞いていた。

『ルールは至って簡単です!今からスタッフの皆さんが、今神社の中にいる祭りの参加者二人を適当にペアにし、二人の両手首を手錠で繋ぎます!更に、ペアの内一人の頭部には風船を装着させていただきます!!』

羅門が説明する中、スタッフの皆さんと見られる人達が、祭りの参加者を本当にランダムに手錠で繋ぎ始める。

どうやら俺達以外の参加者も状況がよくわからないらしく、一様に戸惑った表情をしている。

「あの、繋ぎますんで二人ともちょっと手、出してもらえます?」

気が付けば俺達の所にもスタッフの男が来ており、戸惑いつつも手を出した俺と涼香の両手を手錠で繋ぐ。

「こんなとこ詩織に見られたらまずいな……」

ボソリと呟くと、涼香は俺の方を見てムッとした顔をした。

「志村さんと組めなくてお気の毒ですこと」

「何怒ってんだよ…」

「怒ってませんわ」

表情からして怒っているのは明白なのだが、涼香は頑として「怒っていない」と言い張った。

そんな会話をしている内に、スタッフの男は涼香の頭にカチューシャのようなものを付ける。

そのカチューシャには羅門の説明通り、風船がくっ付いていた。

『参加者の皆さん!既にペアが決まったと思います!!知らない人と組んじゃった人も、知ってる人と組んじゃった人も、大嫌いなアイツと組んじゃった人も、大好きなあの人と組んじゃった人も、とりあえずゲームをお楽しみくださいッッ!!』

『まずはルールを説明しますッ!このゲームは簡単に言えばバトルロワイヤルです!ペアの風船を割られたペアは負けです!!最後の一人になるまで戦ってもらいます!戦わなければ生き残れません!!尚、最後まで残っていたペアには温泉旅行のペアチケットを一枚ずつお渡ししますッ!わーお!町内会太っ腹ーッ!!』

突発的に始まったイベントなので、戸惑っていた参加者のテンションが上がる。

温泉旅行のペアチケットが原因だろう。

涼香は隣で「温泉くらい自宅にありますわ」などとほざいているがあえて無視する。

『禁止事項は四つ!一つ、相手を負傷させないこと!二つ、何らかの方法で手錠を繋ぎ換え、組み合わせを変えないこと!三つ、武器の使用は認めません!四つ、おいらのギャグには大爆笑する!!』

四つ目いらねーだろ。

「……」

俺はチラリと隣の涼香を見る。

彼女と組むのかと思うと正直な話、先が思いやられる。

こんな無意味にハードなイベント、一体誰が企画したのだろうか。

『尚、このイベントは危険なので、十二歳未満のお子様と保護者の方は不参加とさせていただきます。ご了承ください』

一応その辺は考慮していたのか。

『ちなみに、地面に敷かれたブルーシートは血がついた時に処理しやすいから敷かれております!!』

禁止事項の一つ目は破られること前提なのか…?

『それではゲーム開始スタートッッ!!』

ゲーム開始の合図に、羅門の声が神社中に響いた。


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