第32話「君がいた夏は遠い夢の中Part1」
「コメディ物で夏休みの大半をキングクリムゾンするのはシクルくらいだと思うよ」
「……は?」
突如として意味不明なことを口走る羅門。
俺が読んでもない本の感想文と格闘している間に何を言い出すんだコイツは…。
夏休みというものは一見長そうだが意外と猛スピードで終わるもので、気が付けば既に八月も後半だった。
俺と羅門が宿題に手をつけていないことに気がついたのは盆が過ぎた頃だった。
ちなみに今年の盆は羅門の件もあり、家には戻らなかった。
親は心配していたが、羅門を置いて行く訳にもいかない。
なんだかんで盆は家でゴロゴロしたり詩織に会いに行ったりで宿題のことなどすっかり忘れていた。
盆が終わり、俺がカレンダーを見ている時に羅門が「宿題ってあったっけ?」と確認した時には、暇つぶしに見たホラー映画のホラーシーンよりも背筋がゾッとした。
そして現在に至る。
羅門は数学の問題集、俺は読書感想文。
二人で手分けして処理中である。
本来、今日は詩織達とカラオケに行く予定だったのだが断念。
詩織に「宿題が終わってないんでパス」と伝えた所、「だらしないわね」と怒られた。
詩織は既に半分以上が終わっているらしい。
手伝ってもらおうかとも考えたが、あまり迷惑をかけたくないのでこれも断念。
今は読んでもない本の感想を、あらすじと本のラストとネットのレビューを参考にしながら書いているところだ。
羅門の分もあるので同じ作業を違う本で行わねばならない。
「兄さん。数学終わったよ」
「おう、お疲れ。物理に取り掛かってくれ」
「リョーカイザー」
それ前も言ってなかったか?(第15話参照)
羅門と手分けしているおかげでもうかなりの量が片付いた。
こちらの作業ももう少しで終わるので羅門の分に取り掛かれる。
しかし俺が感想文の最後の行を書き終えた時だった。
『メールですよご主人さま』
俺の携帯からかわいらしいメイドさんの声が流れる…………なんでだ。
俺はとりあえず携帯を開き、適当なボタンを押して携帯を黙らせる。
「羅門」
「なんだいステファニー」
そんな名前になった覚えはない。
「俺の携帯の着信音を勝手に変えるなと何度言ったらわかる?」
「兄さんメイドさん好きじゃん」
俺はチャイナ派だ。
ってそうじゃなくて…。
「羅門、宿題が一段落ついたら遊ぼうな」
「やったー!僕の死亡フラグビンビンだね兄さん!!」
そんな羅門はとりあえずは無視しておき、メールを確認する。
詩織からだ。
ついつい笑みがこぼれてしまう。
メールの内容はこうだった。
宿題で忙しいかもだけど、今日の夜空いてる?
「童貞卒業おめでとう。兄さん」
不意に背後からメールを覗き見ていた羅門に肩を叩かれる。
「違うっつのアホ。多分これ祭りのことだ」
念のため確認のメールを送ると、やはりそうらしい。
どうやら福井や木下も呼ぶつもりらしい。
人数は多い方が良いらしいのでこちらも適当に呼ぶとする。
田原、ロボ子、有馬、牧村、鳳凰院……
後岸田。
とりあえず一通り呼んでみることにした。
宿題は宿題で大変なのだが、後三日もあるしこのペースなら大丈夫だろう。
集合は六時に白凪神社前とのこと。
今の時刻は三時十七分。
とりあえず残り二時間ちょっとは宿題を進めておこう。
六時頃に羅門と白凪神社に到着したころには、既に結構な数の人達が集まっていた。
鳥居の先には左右に沢山の出店があり、たこ焼きやわた飴など定番の物ばかりが売られていた。
それがまた祭りらしくて良い。
だがこの辺り一帯に巨大なブルーシートが敷かれているのは謎だが……
「こんにちは」
不意に声が聞こえ、振り返るとロボ子がいた。
隣には寄り添うように田原もいる。
「神宮君」
「田原、ロボ子!」
ロボ子は浴衣ではなかったが、涼しげな格好をしていた。
間接とか剥き出しになるとまずいんじゃないかと思ったが、そこは夏休みの間に田原がなんとかしたらしい。
「ご機嫌よう皆様」
相変わらず上から目線な口調の挨拶。
無論、鳳凰院涼香である。
隣で霧がペコリと頭を下げている。
霧も涼香も浴衣を着ている。
赤を基調とした生地に派手な柄が散りばめられたその浴衣は、正に涼香らしい派手さであった。
霧の方は青に、おとなしめの柄の浴衣。
服にもやっぱり性格が出るんだなと思う。
「後は詩織達と有馬と……」
「おい」
不意に背後から肩を叩かれる。
「気づけよッ!!お前達が来る前から来てたんだぞ!」
「なんだ岸田か」
「なんだじゃねえよ!!」
ちゃんと岸田も来ていたようだ。
忘れてたけど…。
後ろで「お前また俺のこと忘れてただろふざけんんじゃねーぞ俺の出番いつになったら来るんだよかれこれ十三話分も出番ねーぞこら」などと騒いでいるが聞かなかったことにする。
そういえば焼肉以来見てなかったなぁ。(第15〜17話参照)
「ごめん。遅くなっちゃった!」
走ってきたらしく、詩織は肩で息をしていた。
後ろからゆっくりと福井、木下も歩いてくる。
「お、おう」
俺は詩織の姿に、少し戸惑う。
この夏休みの間、彼女には何度か会っているのだが…
凶悪な程にその浴衣姿は新鮮だった。
「ピンクはちょっとアレだったかな……」
岸田を押しのけ、恥ずかしそうに呟く詩織の傍まで歩く。
「いや、似合ってるよ」
そう言って微笑むと、詩織も嬉しそうに笑った。
と、その時だった。
突如左右に気配を感じる。
「「のろけてんじゃ……」」
左右から同時に声が聞こえる。
右には岸田、左には福井という異例のコンビ。
二人とも右拳を振り上げている。
「「ねえええええッッ!!!」」
ドゴォッ!!
思いもよらないDouble-Actionによって、俺は左右から同時に激しい打撃を受けた。
かなりのダメージだったので、とりあえず一時的に意識は飛んだ。
続