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ぐらとぐら  作者: シクル
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第29話「恋せよ乙女Part2」

「作戦其の一、図書室でキャッ☆〜あたし達の運命の出会い〜編!」

あたしなら絶対に口にしたくないような恥ずかしい作戦名を、りえりえは平然と口にした。

「うわーすごーい!」

まだ聞いてもないのにはしゃぎながら拍手する優。

「…で、どういう作戦なの?」

あたしが問うとりえりえはさも楽しそうに語るのであった。

「まず私と優が神宮羅生を図書室へ連れて行きます。詩織は図書室で待機します。私達と神宮羅生が図書室へ到着します。それを見計らって詩織が図書室で上の棚の本を梯子を使って取ろうとします。私が梯子を倒します。落ちそうになった詩織を神宮羅生がキャッチ!そして結婚」

うわぁ。

作戦もアレだし最後意味わかんないし。

あたしは「はぁ」と溜息を吐く。

「ホントにやるの?」

「……やれ」

いつの間にやら命令口調なりえりえ。

すごく不本意なんだけど一応実行することに……



幸い休憩時間はまだ長いのであたしは渋々図書室へ。

図書室はわりと人が多かった。

大人しそうな生徒達が懸命に読書している。

本に集中しているとはいえ、これだけの人達がいる中、あの恥ずかしい作戦をやるかと思うとすごく気が重い。

羅生が連れてこられるまで暇なのであたしは目についた適当な本を手に取る。

「……」

何で高校の図書室に「ぐりとぐら」が置いてあるんだろう。

不思議に思いながらあたしは開きもせずに、「ぐりとぐら」を本棚へ戻した。

「こっちこっち」

あたしが本を棚に戻していると、不意に優の声が聞こえる。

来た!

「こっちって……図書室じゃねえか」

「……読書」

「いや、俺はしねえよ」

りえりえと羅生の会話が聞こえる。

そっちを見ると、合図と言わんばかりに優があたしにウインクする。

とりあえずあたしは梯子を取ってくる。

あたしが梯子をセットした場所と一番近い机に、りえりえは羅生を連れて来る。

「おう、詩織じゃねえか」

「え、ああ。うん」

不意に声をかけられ、声に少なからず動揺が表れてしまう。

「図書室にはよく来るのか?」

「いや、今日はたまたま……」

そう言いながらあたしはセットした梯子に上った。

上まで上り、適当に本を選ぶふりをしながらチラリとりえりえを見下ろす。

りえりえは「任せろ」と言わんばかりの表情で親指を突き立てた。

「あー足が滑ってなんやかんやあって梯子にスライディングしちゃうー」

棒読みだしおかしいし。

それになんやかんやって何よ。

ズザザザザッ!

りえりえのスライディングが梯子のバランスを崩す。

「やっ」

予定通りとは言え、やっぱり怖い。

あたしの身体もよろめき、下へと落ちて行く。

「お、おいッ!」

りえりえの計画通り、羅生はあたしを受け止めようと下で構える。

が…

ドン!

「……あれ」

どうも羅生は受け止め損ねたらしい。

あたしが着地したのは羅生の腕の中ではなく、羅生の身体の上だった。

「えっと……」

予定と違う状況に、あたしは少し戸惑う。

「………詩織」

「え?何?」

「重い」

あたしの下敷きになった羅生が苦しそうに訴える。

「ご、ごめん……」

と、素直に謝った後、すぐに「重い」と言われたことに対する怒りが湧いてくる。

「重いってどういうことよ?」

「いや、その、そのままの意味で……」

「ば、ばかっ!!」

ゴッ!

ついつい羅生の足を蹴り、走って図書室を後にする。

いや、あたしが悪いんだけど……

重いとか言わないでよ!

気にしてるんだから!!


あたしが羅生ともめてる間、りえりえが爆笑していたのは言うまでもない。



「作戦其の二、Help me!だーりん!〜だーりん!だーりん!〜編!」

ねえ、その作戦名はどこからつっこめば良いの?

問いただしたくなったけどあえてあたしはスルーした。

「……内容はシンプル。不良に扮した優に襲われそうになる詩織を通りすがりの羅生が助ける」

「え、私!?」

まさかの作戦内容に、優が驚きの声を上げる。

「優、期待してるから」

期待に満ちた眼差しで見つめられた優は、しばらく考えるような素振りを見せた後……

「任せて!」

と満面の笑みで答えた。

大丈夫かな……



そして教室前の廊下。

あたしは窓の外をぼーっと見ていた。

しばらく待っていれば優が襲いかかってくるそうだ。

羅生にバレないよう、変装してくるらしいけど……

「へいへいへいへいしお…じゃない、志村さんよぉ」

背後から優の声が聞こえる。

振り返るとそこには珍妙な格好をした優がいた。

ジャージ姿にサングラス。

手にはスポンジ棒を持っている。

色々とツッコミ入れたいけど…

まず、スポンジ棒はどこから持ってきたの?

っていうかバレバレです。

どうみても木下優です。

「あたいは巷で噂の大不良だぜ。あたいのスポンジロケット2001を喰らいたくなかったら大人しく襲われるんだな」

棒読みで言われても怖くない。

「巷で噂の大不良」の意味がわからない。

スポンジロケットの時点で意味がわからないのに2001が更に意味不明。

何で八年前なの?

「さあ、あたい様のスポンジロケット1992を喰らいたくなかったら襲われな」

年号が十七年前になってるし一人称違うし。

それにさっきの台詞言い直しただけでしょ。

「きゃー志村さんが不良に襲われてるーこーわーいー」

りえりえも優も棒読みなのは何で?

演技力ゼロなの?

それとも演技する気がゼロなの?

廊下を歩く生徒達が不審な目でこちらを見ている。

クスクスと笑い声まで聞こえる。

あたしもう帰りたい。

「……何やってんだ?」

教室のドアが開き、羅生が現れる。

正直な話ホントに助けてほしい。

「へいへい羅生さんよぉ。あたいは水の不良チルド様だぜ」

氷じゃなかったの?

ツッコミたいけど少しでも関係者だと思われたくないので黙っておく。

もう手遅れだけど。

「……木下」

「あ、あたいは木下じゃないぜ。優だぜ」

「木下、もうすぐ授業始るぞ。それに何でジャージ何だ?次は体育じゃないぞ?」

優のジャージをチラリと見て忠告する羅生。

キーンコーンカーンコーン

羅生の忠告とほぼ同時にチャイムが鳴り響く。

辺りを見回せば廊下にいるのはあたし達と羅生だけだった。

「お前らも急げよ」

そう言って羅生はすぐに教室へと戻って行った。

「……作戦失敗」

爆笑しそうなのを必死にこらえながらあたしの肩をポンと叩くりえりえ。

コイツ遊んでただけだろ。



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