第27話「メモリーオブロボPart6」
「そんなッ!ロボ子ッ!!」
「良いんです。陽一さんに会えて良かった。復讐のために生まれた私でも、誰かと穏やかな時間を過ごすことが出来た…。それだけで良かった。陽一さん、みなさんと一緒に逃げてください」
「嫌…だ…。ロボ子を置いて逃げるなんて……ッ!」
田原が泣き叫ぶ。
もう見ていられない。
田原の意見を尊重してやりたいが、ロボ子の覚悟を、決意を、無駄にする訳にはいかない。
「田原ッ!!逃げるぞッ!!ロボ子の気持ちを無駄にするなッ!」
「神宮君……ッ!!でもッ!!」
俺が呼びかけても田原はロボ子の傍から動こうとしなかった。
このままではロボ子だけではなく、この場にいる全員が爆発で吹き飛ぶことになる。
「陽一さん……幸せに」
「ロボ子ォォォォ!!」
泣き叫ぶ田原に、ロボ子はニコリと微笑んだ。
「羅門ッ!!」
「わかった!」
直感的にわかったのか、羅門は田原をロボ子から引き離す。
「どいつもこいつも私を馬鹿にしおってッッ!!!」
怒り狂う老人を無視し、俺達は梯子に向かって走った。
「ロボ子ッ!ロボ子ッ!」
羅門が必死に引っ張るが、田原は無理にでもロボ子の傍に向かおうと踏ん張る。
「陽一さん…。私の決意、無駄にしないでください」
ロボ子の瞳が潤んだ……いや、潤んだように見えた。
涙は流せない。
彼女はロボットだ。
それが無性に悔しく感じた。
「ロボ子……。ありがとう」
田原は意を決したかのようにロボ子に背を向け、梯子に向かって走り出した。
梯子まで辿り着くと、羅門、俺、田原の順番に梯子を上った。
「ロボ子……」
田原は名残惜しげに下を見た後、急いで梯子を上った。
俺達が急いだ甲斐もあり、数分もしない内に梯子を上り切る。
ナースロボ達は既に機能を停止しているらしく、そこら中に倒れていた。
「急ぐぞ」
俺の言葉に、二人はコクリとうなずき、急いで葉貝歯科を後にした。
チッチッチッチ……
ロボ子から自爆スイッチのカウント音が聞こえる。
「本当に自爆する気か?」
「ええ。貴方と共に」
「私まで道連れにする気か!?」
「間に合うのならお逃げ下さい。後三十秒です」
「な……ッ!?」
その言葉を聞き、葉貝は急いで梯子に向かう。
「ふざけるなッ!こんな所で死んでたまるかッ!!」
急いで梯子を上る。
が……
「……ッ!!」
ツルリと手がすべり、葉貝の身体は落下していく。
「さようなら」
ドゴォォォォォォォォォォン!!
ロボ子の一言とほぼ同時に、激しい爆発音がした。
間一髪脱出した俺達は、葉貝歯科から離れた場所で、爆発音を聞いた。
爆発音が収まったのを確認すると、俺達は急いで葉貝歯科へ戻った。
「ロボ子……ロボ子ッ!」
「あ、おいッ!!」
田原は急いで崩れた建物の方へ駆け寄る。
「ロボ子ッ!」
ロボ子を探して一所懸命に土を掘る田原。
「あ………」
しばらくすると、田原が何かを掘りだした。
まるで人間の頭部のような……
「ロボ子…」
それはロボ子の頭の部分であった。
爆発したのはボディの方だったのだろう。
頭の部分は奇跡的に爆風で飛ばされ、助かったのかもしれない。
データの入った頭が無事ならロボ子は十分復活出来る。
俺と羅門は顔を見合わせ、ニコリと笑う。
俺達が田原に近寄り、「良かったな」と声をかけようとした時だった。
「初回起動です。お名前を教えてください」
「……え?」
それは、ロボ子の無機質な声であった。
「ロボ子…」
爆発の衝撃でか、それともバックアップが原因か、彼女の記憶は初期化されていた。
「う、うわああああああああああああああああああッ!!!!」
ロボ子の頭を抱き締め、泣き叫ぶ田原を、俺達はただ黙って見ていることしか出来なかった………
あれから数日が経った。
あの日以来、田原は学校に来ていない。
心配なので家に行こうとも思ったのだが、そっとしておくのが一番だと思い、やめておいた。
梅雨も終わり、雨の回数が徐々に減って来た七月。
久々に雨の降った休日、俺と羅門が暇を持て余しているとインターホンが鳴り響いた。
面倒ではあったが、俺は立ち上がると、玄関まで向かった。
気になったのか、後ろから羅門が付いて来る。
「はーい」
ガチャリとドアを開ける。
「こんにちは」
「お前…」
田原だった。
しばらく見ていなかった田原が、今俺の目の前で微笑んでいる。
「もう、大丈夫なのか?」
俺が問うと、田原はコクリとうなずいた。
「大丈夫だよ。僕も、彼女も」
「彼女……?」
「お久しぶりです」
田原の背後から顔を出したのは…あのロボ子であった。
「お久しぶりって……まさか…?」
どうやら記憶領域の隅にデータが残っていたらしい。
それを復元してみた所、そのデータは陽一と出会ってからの記憶であった。
学校に来れなかったのはボディの制作に時間がかかったからだそうだ。
「先日はどうもありがとうございました」
そう言って頭を下げるロボ子の雰囲気は、俺達が初めて会った時のロボ子の雰囲気と寸分違わぬものだった。
本当に記憶が戻ったのだと、俺は安堵する。
「気にすんなって」
そう言って、俺と羅門は田原とロボ子の二人に微笑んだ。
続