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ぐらとぐら  作者: シクル
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第21話「グラップラー真紀Part3」

羅生門の鬼……。

それは中学時代俺につけられていたあだ名だ。

ただ強さだけを求めてケンカに明け暮れた日々。

何度も勝ったし、勿論負けもした。

俺より少しでも強いと噂される相手がいればすぐに殴り込みにいった。

上級生だろうが高校生だろうが構わず戦いを挑んだ。

ただ力を誇示したい。

ただ強さを感じたい。

己が強いと認識し、認識させることによって自分の存在を強調したかったかもしれない。

当時仕事で忙しかった両親に自分の存在を感じさせたかったのかもしれない。

しかしある日突然そんな自分が嫌になった。

毎日毎日ケンカケンカケンカ。

ただ争うだけ。

仲間も最小限。

いつお礼参りに来られるかと警戒しながら過ごす日々。

嫌気がさした俺は中学卒業と同時に自分を変えた。

「ふぅ…」

そこまで考えて、俺は溜息を吐いた。

そしてもう一度考える。

今の真紀は昔の自分と同じなのだろうか…?

違いといえば「父親を倒す」という目的があるかないか程度だった。

真紀にも事情があるのだろう。

何か父親を倒さなければならないような事情が……。

「兄さん。時間、そろそろだよ」

羅門に言われて時計を見ると既に針は8時45分をさしていた。

「……行くか」



学校に到着する頃には8時50分であった。

俺は腕時計を確認すると、夜のグランドに立ち尽くす少女を見つめた。

「来てくれてありがとう。ぐら君」

「有馬……」

「言わなくてもわかるよね?始めよう?」

真紀のその言葉には一切の迷いが感じられなかった。

「羅門君、勝敗が決まったと思ったら止めてね。私、一旦暴れると自分でも止められないことあるから」

サラリと危険発言。

「大丈夫だよ。兄さんにもしものことがありそうな時は………僕が全力で止める」

珍しく真面目な顔で言う羅門を、俺は妙に頼りにしてしまった。

「『羅生門の鬼』……か。今までの人よりは楽しめそう」

スッと。

真紀は身構えた。

「懐かしいあだ名だ…」

あだ名から、雰囲気から、感じられる懐かしい感覚。

ついついブルリと震えてしまう。

「行くよ」

ザッ!

土を蹴る音と共に真紀が駆け出す。

真紀は俺の目の前まで到達すると、タン!と音を立てて空中へ跳ぶ。

その状態から右足で俺の顔面目がけて回し蹴りを繰り出す。

俺はそれを腕で受けると少しだけ退いた。

真紀は着地するとすぐに間合いを詰め、右拳を俺の顔面へ突き出す。

俺は首を動かして避けると真紀の横に回り込み、右足でハイキックを繰り出す。

真紀は凄まじい反応速度でそれを避けると、一旦距離を取った。

「……やるね…。流石は『羅生門の鬼』だよ」

「そのあだ名…俺は好きじゃないんだ」

「そっか…」

短く答えると、真紀は再び俺の元へと駆け出した。

まだ一撃も喰らってはないのだがやられっぱなしは嫌だ。

とはいえ、流石に女の子を平気で殴れる程俺は外道ではない。

何とかして「俺自身」に火がついてしまう前に終わらせなければならない。

でなければ流石の俺も彼女を傷つけてしまう。

俺は素早く繰り出される彼女の連続攻撃を必死で避ける。

かなりのやり手だ。

手を抜いたり、他の事を考えながら勝てるような相手じゃない。

だが、俺の理性は彼女と戦うことを拒否していた。

「そこまでィィッッ!!!」

「ッ!?」

不意に男の声が夜のグランドに響く。

羅門の隣に誰かいる。

俺も真紀も交戦をやめ、その男を見つめた。

「お父さん……邪魔しないで…!」

あの男であった。

羅門も状況が把握出来ていないらしく、困ったような顔をしている。

「真紀、もうやめろ」

「アンタ……」

俺が呟くと、男は俺の方を向いた。

「ほう。お前が『羅生門の鬼』……。神の宮殿を守り、修羅に生きる男…神宮羅生か」

そんなことは俺もお婆ちゃんも言ってない。

「俺は有馬竜次郎ありまりゅうじろう。真紀の父だ」

「有馬……竜次郎…!?」

過去に一度聞いた事のある名前に、俺は動揺を隠せなかった。

有馬竜次郎。

白凪町内で不良達に永遠に語り継がれるであろう男。

オーガと、白凪最強の生物と呼ばれた男……。

数年前に鬼神のごとき暴力で白凪町内最強を極めた男である。

「真紀……」

ゆっくりと真紀に近づく竜次郎。

何をする気だ……?

ピタリと。

竜次郎は真紀の目の前で止まると、不意に頭を深く下げた。

「真紀、お父さんが悪かったッッ!!」

「今更何よ」

……は?

何て?

白凪最強の生物が今何て?

お父さんが悪かった…?

「有馬さーん。説明お願いしまーす」

「あ、ぐら君。忘れてた」

忘れんな。

「実はね。かくかくしかじかで……」

真紀の説明はこうだった。

竜次郎は見た目と伝説の割には普通のお父さんらしく、その上過保護らしい。

それだけでも驚きである。

竜次郎は妻に頼まれ、洗濯された真紀の衣類を真紀の部屋へ運んだ際、机の上にあった日記帳を見てしまったらしい。

そして真紀に現場を押さえられ、真紀が激怒。

開き直った竜次郎も何故か激怒。

なんだかんだで口ゲンカになった挙句、真紀は「アンタを倒す力をつけて帰って来る」と言い残して家を出たらしい。

そして今日まで家に帰っていなかったらしい。

「……。それじゃアレか有馬。お前は日記帳を勝手に見た父親をぶっ飛ばすために修行することにして、その修行相手と称して各地の不良や武道家をボコッた揚句、俺や羅門まで巻き込んだということか?」

俺の問いに、真紀は清々しい程簡単にうなずいた。

なんつー人騒がせな親子だ………。

結局その場で話し合って解決。

有馬親子は仲良く有馬家に帰りましたとさ………



どうにも腑に落ちないので霧にこのことを話すと、なんと最初から知っていたらしい。

どうも家に帰っていない間は霧の所……つまり鳳凰院家にお世話になっていたようだ。

だったら霧だけでも解決できたろ…。

そのことについて彼女に言及してみたところ…

「師匠と羅生さんならきっと解決してくれると思いました。反省はしていません」

とのこと。

つまり面倒だったので人任せにしたということだよな。

とりあえず少しの間ではあったが悩んだ俺の時間を返せ。



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