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ぐらとぐら  作者: シクル
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第20話「グラップラー真紀Part2」

俺達が体育館裏に到着した頃には既に波島はその場に倒れていた。

他の仲間は逃げたのかその場には波島しかいない。

「おい、しっかりしろ!」

俺は急いで駆け寄ると波島を揺り動かした。

「兄さん、どいてて」

不意に羅門の声がする。

「羅門?」

羅門は俺を波島からどけると、ポケットから小瓶を取り出した。

「……何だそれ…?」

「タバスコ」

「そうか。タバスコか………………。…は?」

いやいや。

何故持っている羅門。

大方は予想はつくが……

「何に使う気だ?」

「in the 彼の口」

いやいやいや。

「流石にそれは……」

霧の言葉も無視し、羅門は波島の口を両手で開ける。

「GO!」

「GOじゃねえよッ!」

小瓶の蓋が開き、中のタバスコが波島の口の中に大量に流れ込む。

「ウボァァッ!」

タバスコの辛味が口と喉に大量に広がったらしい。

波島はのた打ち回る。

ホントにやるかよ普通……。

「さあ、言うんだ!君を襲った犯人はどこに言ったんだい!?」

相変わらず無茶苦茶な奴だ。

「ふほふひひっは(向こうに行った)!」

波島は校門の方向を指差す。

「校門……」

「まさか、鎌田さんを狙って…?」

そう考えるのが妥当だろう。

「追うぞ!」



「……君か。ここ最近、不良や僕のような実績のある武道家を狙っているのは……」

鎌田が問うと目の前の少女はコクリとうなずいた。

「『羅生門の鬼』と呼ばれる男を探しているんだけど…。もしかして貴方?」

「ご期待に添えなくて残念だが、僕ではない……が」

肩にかけていた入れ物から鎌田は竹刀を抜いた。

「『羅生門の鬼』以上の実力をお見せしよう」

鎌田が竹刀を構えた時だった。

「アンタじゃ無理だオレが代わる」

ポンと。

鎌田の肩に大きな手が乗せられた。

「え…?」

鎌田は振り返った瞬間、心の底から恐怖した。

何だこの男は。

何なんだこの闘気は。

人間じゃない。

鎌田の背後に立っていたのは化け物並みの闘気を放つ男だった。

肩にかかる程度に伸びた髪が逆立ち、ゆらゆらと揺れている。

男は少女を見てニヤリと笑った。

「久しぶりだなァ……真紀」

「お父さん……」

真紀と呼ばれた少女……否、有馬真紀は目の前の男を睨みつけた。



「あれは……」

俺達は校門辺りに到着すると同時に絶句した。

有馬真紀と見知らぬ男が対峙している…。

いや、問題なのはそこではない。

その二人が放っている殺気が問題なのだ。

霧ですら呆然としている。

「有馬……お前」

俺が辛うじて声を発すると、真紀はバッと振り返った。

「ぐら君……?」

気付かなかった…といった様子だ。

「真紀……そいつは誰だ?」

男が口を開く。

と、同時に強烈な殺気を感じる。

「アンタには関係ない……」

問いかけた男を睨みつけ、真紀は冷たく言い放った。

「真紀…………色を知る年齢としか!」

何て事を言い出すんだコイツは。

「だからお父さんには関係ないってば」

真紀の彼氏か何かにしては老けていると思ったらこの男、真紀の父親らしい。

似てないけど。

「とにかく、私はまだ帰らないから」

「アンタを倒せる力を身につけて、必ず帰るから」

真紀がそう言うと、男は真紀に背を向けた。

「勝手にしろ」

その場を立ち去る男の背中は、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。

「真紀……さんだったかな」

男が立ち去った後、不意に忘れられていた鎌田が口を開く。

「強くなりたいンだって?アミーゴ。強くなるってのはいいことだアミ……」

ドゴォッ!!

鎌田の言葉を不快に思ったのか、真紀は鎌田の顔面に思い切り拳を叩きこんだ。

鎌田はその場に倒れ、指をピクピクさせながら気絶した。

「真紀さん……ここしばらくの不良狩り、貴女だったんですか………?」

「……うん。効率良く強くなるには強敵と闘うのが一番だからね」

「真紀さん、もうやめて下さい。何故そうまでして強さを求めるんですか!?その先に何があるというのですか!?」

霧のその言葉は、真紀に向けられたハズなのに妙に身にしみた。

「お父さんより強くなる。お父さんが世界で一番弱い生き物だったら、私は二番目でも良い」

どこのグラップラーだよお前は。

「真紀さん……」

「そんなことよりぐら君」

不意に真紀がこちらを向く。

「『羅生門の鬼』……って、聞いたことある?」

その名前に、聞き覚えがある。

親しみのある名前だ。

過去に何度も何度も耳にした名前。

当たり前だ。

それは過去、俺につけられたあだ名だ。

「……」

俺は真紀の質問に答えられずにいた。

それは俺だと答えることも、知らないとしらを切ることさえ出来ずにいた。

それを図星の証拠だと受け取ったのか、真紀はニヤリと笑った。

「へえ、ぐら君なんだ」

「じゃあ、今日の夜九時にココでまた会おう?」

それだけ言い残して真紀は俺に背を向けた。

「あ、おい……」

何か言いかけて俺は口を閉じた。

何故か彼女を呼びとめることが出来なかった。

「……」

真紀が立ち去った後、しばらく静寂が続いた。

「兄さん」

羅門は不意に静寂を破り、倒れている鎌田に近寄った。

そしてポケットから小瓶を取り出す。

「タバスコ飲ませても良いかな?」

「やめてやれ」



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