第2話「ありのままに今起こったことを…(以下略)」
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!俺は晩飯のカレーを食べていたと思ったら、いつの間にか妙な奴が天井から降りてきていた。
な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
「会いたかったよ兄さん」
俺はそんな奇抜な出会い方はしたくなかったぞ自称弟よ。
「とりあえずそこから降りてくれ……」
「兄さんがそう言うなら…」
羅門と名乗った自称俺の弟は天井から降りると、俺と向かい合うように机の向こう側へ座った。
「……。で、結局お前は何者だ?」
「さっき名乗ったじゃないか兄さん。それに、双子は2人で1つなんだよ?」
いやいや双子じゃないですから。
他人ですから。
「さっきから兄さん兄さんって、俺は一人っ子だぞ」
「そうだよね。一人っ子政策だもんね」
似たような話を昼間にした気がするのは気のせいだろうか。
「でも僕は兄さんの弟だよ?」
筋が通ってない。
証拠もない。
新手のセールスか何かか?
悪徳商法なのか?
双子商法とかそんな感じのアレか?
「んじゃ証拠を見せてくれるか?」
コイツの顔や姿形は俺に似てなくもないが双子というほど似ている訳でもない。
正直他人の空似レベルだ。
恐らく岸田が昼間に言っていたのはコイツのことだと考えて間違いないだろう。
「うーん…証拠かぁ……」
羅門は少し考えると何か思いついたように手を叩いた。
「そうだ!兄さん、右腕を見せてくれないかな?」
「右腕…?」
俺は渋々と袖を捲り上げる。
右腕にあるのは妙な痣。
まさか……な。
「ほら兄さん!お揃いお揃い!」
同じように袖を捲り上げた羅門の右腕には、くっきりと俺と同じ痣があった。
肘から手首の近くまで伸びた痣。
この痣は俺が物心ついた時からあった痣と同じ痣だ。
コイツ…もしかして本当に…
「これでわかってくれたかい兄さん。僕達は血を分けたたった2人の兄弟…。それも双子なんだよ…だよ!」
何故語尾を繰り返すんだ我が双子の弟よ。
「だがそんな痣くらい、後でいくらでもつけられるだろ?」
「そんな身も蓋もないこと言わないでよ兄さん!」
しつこい奴だ。
俺に双子の弟がいるハズがない。
両親だってそんなことは一言も口にしなかったしな…。
「天井の修理代置いて帰れ。俺とお前は赤の他人だ」
きっちりと断言してやった。
「……」
しかし羅門は俺の想像するものとは全く別の反応をした。
てっきりしつこく食い下がるかと思ったが、羅門はうつむいて黙りこんでしまった。
「……ないんだ」
「え?」
羅門がうつむいているせいか最初の方がうまく聞き取れなかった。
「ないんだ。記憶が」
「記憶がない…?」
「うん。正確には僕がこの町に来てからの記憶がないんだ」
今までとは打って変わってしんみりとした態度で羅門は話す。
「気がついたら町のどこかに立っていた。自分が何者なのかもわからないまま…」
「わかっていたのは神宮羅門という名前ぐらい。一般常識とかそういうのは欠けてないんだけど…」
十分欠けていたがな。
「僕が最初に気がついたのは今僕が持っている携帯……」
そう言って羅門はポケットから携帯を取り出し、俺に見せる。
「それとこの右腕の痣」
羅門はもう一度俺に右腕の痣を見せた。
「僕が兄さんに辿り着いたのはこの携帯のおかげなんだ」
そう言って羅門は携帯を開き、電話帳を俺に見せた。
しの行。
というかそこ以外には名前はなかったんだが…
神宮羅生と書かれていた。
何で羅門の携帯に……
「それで僕はこの家に辿り着いたんだ…。兄さん、鍵閉め忘れてたでしょ?」
鍵を閉め忘れてた俺も俺だがお前はお前で不法侵入罪だぞ。
「でも何でお前は俺の兄弟だと思ったんだ?」
「苗字が一緒だったし…それに、さっき痣を確認した時に確信したんだ」
羅門は顔を上げると俺を見て屈託なく笑った。
「絶対、僕と兄さんは兄弟なんだって」
……。
そんな顔されちゃあな……。
「わかったよ。信じる。今日はやめとくが親にも確認してみるよ」
「え…」
俺のその言葉を聞くと、羅門の表情が固まった。
「それで……違ったらどうするの?」
「……」
追い出す……いや、それは言い方が良くないな。
本来いるべき場所に帰す。
「お願い。それだけはやめて」
「お前……」
「もしそれで違ったら、また僕は行くあてがなくなる…。お願い、僕の記憶が戻るまでは……僕の兄さんでいて下さい」
羅門はそう言って頭を下げた。
「……」
俺はやりづらそうにぽりぽりと頭をかくと、思い切って決断した。
「記憶が戻るまでだからな…」
「兄さん」
「それまで、俺の弟でいろ」
我ながら恥ずかしい台詞だ…が、悪い気はしない。
「ただし、俺と一緒にバイトすること。天井の修理費は払うこと。わかったか?」
「うん!」
羅門はもう一度屈託なく笑った。
「それで、寝る場所はどうするんだ?言っておくがベッドは1つしかないぞ?」
「えと……」
羅門はうつむいて恥ずかしそうにモジモジし始めた。
正直気持ち悪いんだが…。
「一緒に、寝ようよ」
「床で寝ろ」
結局羅門にはソファーで寝てもらうことになった。
続