表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぐらとぐら  作者: シクル
19/52

第19話「グラップラー真紀Part1」

「ひ、ひィ……!」

夜の公園。

あからさまに不良のような風貌の男が悲鳴を上げた。

男はボロボロの服と、傷だらけの身体で地面を這いずり回ってでも逃げようとしていた。

「ダメ」

「な、なにがダメなんだよォッ!」

男は悲痛な声を上げながら自分をボロボロにしたその「少女」に問い返した。

「アンタ弱すぎるわ……」

少女はそう呟くと男に背を向けた。

「町一番っていうからどれほどかと思えば……」

「ま、待て…」

ピタリと少女が止まる。

「この町最強の男を俺は知っている…!」

またこの話か。

少女は既に何十回も聞いたであろう話に、ほんの少しだけの期待を抱いて耳を傾けた。

「……誰?」

「名前は知らない…」

名前は知らない…?

少女は心の内で男の言葉を繰り返すと、訝しげな顔をした。

今までの話ではすぐにあの男の名前が出たのだが…。

「『羅生門の鬼』……男はそう呼ばれていた…」

初めて聞くその名前に、少女は動揺を隠せなかった。

「『羅生門の鬼』……」

少女のツインテールがゆらりと風で揺れた。




男と生まれたからには

誰でも一生に一度は夢見る地上最強の男

グラップラーとは

地上最強の男を目指す格闘士のことである

そんな風に考えていた時期が俺にもありました。

俺は朝のHRの話を聞きながらそんなことを考えていた。

懐かしい。

中学時代はある意味地上最強の男を目指していたような気もするし、町では最強だったかもしれない。

何故こんなことを思い出したかと言うと朝のHRでの先生の話のせいだ。

元々担任だった中山はある事件がバレて懲戒免職。(第10〜14話参照)

そのためしばらくは他のクラスの先生が交代で来てくれているのだが……。

今朝のHRの話はこうだ。

近頃白凪町内で「不良狩り」と呼ばれる事件が起きているらしい。

喧嘩に自信のある不良生徒が続けて1人の犯人にボコられるという事件。

しかも驚いたことに犯人は「少女」であるという。

白凪校からも何人か被害者が出ている。

ある者は「ツインテールの悪魔」、ある者は「赤い彗星」、ある者は「きょ…巨……人……」などと証言している。

二人目も十分に怪しいが三人目は確実に違う人物に襲われたのだろう。

「おはようぐら君」

不意に声が聞こえ、振り向くと有馬真紀がいた。

「おはよう」

俺は挨拶代りに軽く手を上げる。

「どうしたの?難しい顔してたけど……」

「ちょっと考え事をな」

「ふーん……」

真紀は深く追求することはせず、すぐに「じゃあね」と言うとどこかへ行った。

時計を確認し、授業の用意をしようとしていると、不意に後ろから声がした。

今度はなんだ?

そう思って後ろを振り返ると、霧が羅門に頭を下げていた。

「お願いします!」

……何事?

「何で僕なのさ?」

「師匠にこそお願いしたいのです!!」

「……いつの間に弟子を取ったんだ羅門」

俺は呆れ顔で羅門に問う。

「僕は何もしてないよ。牧村さんがいつの間にか弟子に……」

牧村さん、明らかに人選ミスです。

「師匠、私はあの日あなたの言葉がなければ行動出来ませんでした……!私は貴方を心より尊敬しております。どうか、師匠と呼ばせて下さい!」

…なるほどね。

あの時ね。(第8話参照)

「で、何を頼んでるんだ?」

俺が霧に問うと、霧は下げていた頭を上げた。

「はい、近頃町で起こっている『不良狩り』の犯人を突き止めたいのです」

「ああ、あれか……」

でも何で霧が犯人を突き止めたがるんだ?

気になった俺はとりあえず聞いてみることにした。

「何で牧村さんが犯人探しを?」

「私達は白凪町民です。白凪町に異変が起きているのなら率先して解決するべきです」

正論っちゃ正論だが…。

「そいえば鳳凰院さんはどうしたの?」

羅門が問う。

「お嬢様は風邪でお休みです。なので暇……じゃない。とにかく犯人を突き止めるべきです!」

暇なんですねわかります。

つまり霧は涼香の世話をしなくていいので暇だから暇つぶしがてら犯人を突き止めよう。

と、そう言いたいんだな?

「どうする兄さん?」

「どうするって…。俺が誘われてるワケじゃないんだろ?」

霧に確認すると、霧は首を横に振った。

「いえ、羅生さんもお願いします」

正直面倒だ。

興味がないわけではないのだが……。

「しようがない。やるぞ羅門」

「え?兄さん本気?超本気と書いてスーパーマジ?」

「ああ、超本気スーパーマジだ」

「ありがとうございます!」

結果として俺達は不良狩りの事件に首を突っ込む破目になった。



昼休憩の間に色々調べた結果、やはり犯人は喧嘩自慢の不良を狙っているようだ。

不良だけに限らず、スポーツ選手も狙われているらしい。

被害者リストにはボクシングジムに通う者や、白凪の武道系の運動部の生徒も多数被害に遭っている。

空手部の詩織が心配なので確認しにいくと、詩織はどうやら無事らしい。

被害者がわかりやすいので待ち伏せが可能だ。

この辺で有名な不良や選手で無事なのは…

「校内だと剣道部の主将と不良の波島だな」

剣道部主将の鎌田博之は去年全国まで行った実力者だ。

そして不良の波島は町外でも恐れられている喧嘩無敗の男だ。

「とりあえず鎌田先輩から行きましょう」

霧の提案で俺達は鎌田の元へと向かった。



鎌田に会うと、今日は用事で部活は休むらしい。

不良狩りのこともあるし、同行しようとしたが丁重に断られた。

「参ったな…」

「では波島さんの所へ向かいましょう」

正直嫌だ。

恐らく校内のどこかで仲間とたむろしているとは思うのだが……

波島は気性が荒く、何をし出すかわからない。

出来るだけ会いたくはないが…

「まあ、仕方ないか」

俺がそう呟いて波島がいるであろう屋上に向かおうとした時だった。

「ひィッ!」

「ッ!?」

体育館裏辺りから悲鳴が聞こえる。

「波島の声だ!」

「行きましょう!」

俺達は急いで体育館裏へ向かった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ