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ぐらとぐら  作者: シクル
18/52

第18話「バカとテストの勉強中」

「……まずまずってとこだな」

俺は先程返って来た小テストの点数を見て呟いた。

小テストとは立派なテストだ。

成績にだってかかわるしここでまずい点数を取るようならこの先に控えている中間テストなど解けたものではない。

100点満点中85点……。

まあ取れている方だろう。

ちなみに後ろの羅門は98点という凄まじい点数なのだが本人にはその凄さが把握出来てないのかそれとも当たり前程度に思っているのか別段喜んだそぶりはしていないようだ。

「………それはまずいよ優」

「……………馬鹿」

他の生徒達はテストの見せ合いなどをしているらしく、各地で「勝った」だとか「負けた」だとか騒いでいる。

「……どうしよう」

木下は詩織と福井に囲まれ、テストの点数を眺めながら青ざめた顔をしていた。

「どうしたんだ?」

気になった俺はついつい輪の中に入り、尋ねてしまう。

「あ、羅生」

「神宮君……」

「…………神宮」

どうやらこの三人もテストを見せ合っていたらしく、木下の机の上には三人分のテストがあった。

詩織、73点。

福井、70点。

木下…………20点……?

「アンタはどうだった?」

詩織に問われ、俺は手に持ったままだったテストを詩織達の前で広げる。

「…やるじゃない」

ちょっと悔しそうではあるが素直に負けを認める詩織。

いや、そんなことより木下の点数だ。

20点ってヤバくないか?

小テストだぞ?

「どうしよう……。私、学校来てなかったし…」

自分の点数を見ておろおろする木下。

そういえば彼女はしばらく学校に来ていなかったので授業についてはかなり遅れを取っているだろう。

「すごいね…神宮君は」

木下は俺の点数を見るとそれなりに卑屈っぽい顔をした。

「…………中間どうするの?」

福井に問われ、かなり困ったといった表情になる木下。

「教えてあげたいけどあたしはあたしで精一杯だし…」

と、考え込むような仕草で詩織が呟く。

「………ゲームしなきゃだし」

福井、お前教えてやれ。

「あの……」

ふいに、木下が俺の方を見る。

「神宮君、出来れば教えてくれませんか?」

「……俺?」

確認するように俺が自分を指差すと、木下はコクコクとうなずいた。

「そうね…羅生なら暇かも」

勝手に暇人だと思われているようだが実はそうでもないぞ詩織。

バイトもあるしな。

「ダメ……ですか?」

まあ今日はバイトもないし木下も本気で困っているようだ。

俺も復習するぐらいのつもりで教えてやっても……

「任せて下さい」

グイッと。

突然羅門は俺の身体を押しのけて現れると木下に向かってニコリと笑った。

「勉強ならこの神宮羅門がお教えしましょう!」

「ホントですか!?」

「うん、まあ教えるのは兄さんだけどね」

じゃあ何で出て来たんだお前は。

「……しょうがない。放課後、俺ん家でな」

「あ、ありがとうございます!」



放課後、軽く談笑しながら木下は俺達の家までついてきた。

一旦帰るより直接行く方が早いし木下の家はわりと遠いのだ。

俺の家に着くと、木下はすぐに勉強道具を用意し始めた。

やる気は満々らしい。

「で、何がわからないんだ?」

「英語、数学、理科、科学、現代社会、世界史です!」

ほとんどじゃねえか。

「じゃあまず英語だな」

「それなら僕に任せてよ!」

羅門がひょいっと顔を出す。

「どのくらい出来るか試したいからこれから僕が英語で質問するから英語で答えてね」

「はい!」

「What kind of person is your mother?(訳 あなたのお母さんはどんな人ですか?)」

「No, it is a dog.(訳 いいえ、それは犬です。)」

……。

ダメだこりゃ。

「…お前の母さんは犬なのか?」

「いいえ、知っている単語を並べました」

適当にも程があるだろ。

「じゃ……次行くね…」

流石の羅門もここまでとは思っていなかったらしい。

顔が若干引きつっている。

「Who are you?(訳 あなたは誰ですか?)」

「Yes, I am your dog.(訳 はい、私はあなたの犬です。)」

一時の静寂。

酷過ぎるだろこれ。

「わざとやってるだろ?」

耐えかねた俺が木下に問うと、彼女は大真面目な顔で首を横に振った。

「違います!本気です!」

だとしたらヤバいぞお前。

どうやって白凪受かったんだよ。

「す、数学にしようか……」

羅門、頑張れ。

俺も頑張るから。

羅門はノートを取り出すとサラサラと式を書き始めた。

「(x−3)(x+6)=?」(答え x2−3x−18)

式を書き終えた羅門が問いながらノートを木下に渡す。

木下はノートを眺めて考えると、すぐにシャープペンシルを取り出してノートに答えを書き始めた。

答えを見て満足気な顔をするとノートを俺と羅門に向かって広げて見せた。

「8!」

「でたらめを言うな」

バシッ!

「あうっ!」

ノートで彼女の頭を軽く叩くと痛そうに彼女頭を押さえた。

「……兄さん」

「なんだ?」

「木下さん……僕に任せてくれないかな?」

いつになく真剣な表情で羅門が言う。

「何をする気だ…?」

「英単語カードのコーンフレークとかアスパラガス英語辞書巻きとか」

「髪が伸びるタイプのヤンデレかお前は」

流石に今のは冗談だったらしいが、羅門は木下を連れて一室に閉じこもってしまった。

羅門が言うには「僕流のスパルタで叩き込む」とのこと。

数時間後にやつれた顔の木下が現れ、「べんきょうだいすき」と虚ろな表情で呟いた時は羅門が何をしでかしたのかと肝を冷やした。

ってかたった数時間の勉強であんなになるか普通……。





羅門のスパルタの結果、木下は数日後の小テストで100点を取ったらしい。

テスト前日にやればかなりの成果を上げれるのではないか?と木下に尋ねたら青ざめた顔で

「もう二度と嫌です」

と断られた。

おかげで本番の中間テストはボロボロだったそうな。

「……羅門、ホントに何したんだ?」

「ヒ・ミ・ツ」

「………」



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