第14話「いじめ、かっこ悪いPart5」
「嘘だろ……ッ!?」
俺は……いや、この場にいた全員が言葉を失っていた。
木下の人差し指は震えながら指差し続けている。
先程まで鼻歌を歌う程余裕だった羅門でさえ、表情を驚愕に歪めている。
「私は……私はこの人に……っ!」
涙を流しながらブルブルと震える木下。
「…僕が?」
コクリと木下はうなずく。
「君を?」
そいつは……中山は不敵に笑った。
「ああ、あのことか……」
コイツもまた、大野と同じように言い逃れようとはしなかった。
「いやあすまないすまない。君の胸を見てるとついムラムラっと来ちゃってねえ」
そう言って中山は「ハハハ!」と笑った。
「………犯罪行為」
クール?な福井も表情に怒りが表れている。
「犯罪行為?何を言っているんだ?軽いスキンシップだよ……。彼女はバレー部。僕は顧問。手取り足取り教えて何が悪い?」
「…あれが……あれがバレーボールの練習ですか……っ」
木下は胸をかばいながらブルブルと震えている。
「兄さんが『静』のエロスならコイツは『動』のエロスということか……ッ!!」
とりあえず羅門は後でぶん殴るとして……
まさか中山が原因だったとはな…。
昨日の疑問が一気に解決した。
元々登校拒否と大野は関係なかったのだ。
木下が登校拒否に陥った原因は中山だったのだ。
「だからアンタ優のことに消極的だったのね……っ!」
「ああ。誰かに言いふらされると面倒だったからね。わざわざメールまで送ってあげたんだ……。読んでくれたかい?」
木下は中山の一言一言に怯え、ビクビクしていた。
「さて。君達も口止めしないとまずいな……。黙っててくれるよね?」
「黙っていられるワケないでしょっ!!」
ガッ!
強気な志村の両手を、中山が掴む。
「じゃあ、黙らせようか……」
「……っ」
ゆっくりと中山の顔が志村の顔に近付く。
中山は手を志村の腕から話すと、志村の長い髪に触れた。
「僕はね……君の性格はともかく、この綺麗な髪や顔は好きなんだよ……?」
「触らない……でっ!」
流石の志村も恐怖を感じたのか、顔が引きつっている。
目には涙さえ浮かべていた。
「黙っててくれるよね……?」
ゴッ!!
限界が来ていた。
出来れば穏便に済ませようと考えていた俺も流石に限界だ。
気が付けば中山の顔面をぶち殴っていた。
「お、お前……神宮羅生ッ!!」
眉間にしわが寄っているのが自分でもわかる。
身体が火照っている。
今俺は怒りで興奮状態に陥っている。
自分でもハッキリとわかった。
「テメエそれでも教師かッッ!!!」
俺はよろめいている中山の胸ぐらを掴んだ。
「良いのか神宮……教師の僕にこんなことしてただで済むと思うなよ?」
あくまで反省する気はないのか……。
「お前こそ俺の『友達』とその友達にあんなことしてただで済むと思ってるのか?」
ギロリと。
思い切り睨みつける。
まるで中学時代に戻ったかのような気分。
恐らく今の俺は物凄い形相になっていただろう。
中山が小さく「ヒッ」と悲鳴を上げる。
「…………警察に」
まるで俺をなだめるかのように隣でボソリと福井の声がした。
「…そうだな」
「ハッ!証拠もないのに警察!?」
「………証拠ならある」
そう呟いて福井は木下を指差した。
「彼女の証言かい?」
「…………違う。優の携帯」
「……ハッ!」
そうだ。
木下の携帯には恐らく中山からの脅迫メールが大量に残っているハズだ。
「……詩織、通報」
「え?ああ、うん!」
少し戸惑っていたが志村はすぐに携帯を取り出した。
あの後、すぐに警察が駆けつけてくれた。
事情を説明すると俺の方は正当防衛ということで無罪、中山の方は取り調べのために木下と一緒に署まで連れて行かれた。
志村達や俺は「ついて行こうか?」と聞いたが木下は「一人で大丈夫」と答えた。
初めて見た時の陰鬱な表情は消え、清々しい表情をしていたため、俺達は安心して彼女を送りだした。
買い物から帰って来た木下母にも事情を説明した。
驚いてはいたが「これで優も学校に行けるわね」とその部分については喜んでいた。
「…俺達も帰るか」
「そうだね」
全てが解決したのを確認し、俺と羅門は帰路に着くことにした。
まあ羅門は帰ってからボコボコにする予定だが……。
「ね、ねえ」
木下家に背を向けた俺に、背後から声が聞こえた。
「ん?」
「あ、あの……」
志村だった。
彼女は頬を赤らめ、俺の方を見ていた。
「えと………ありがと」
「ん?ああ。気にすんな」
中山から助けたことだろう。
こうも素直に礼を言われると照れる。
「ま、まあ別にアンタと『友達』ってワケじゃなかったんだけど……」
「なってあげてもいいわよ『友達』くらいなら……!」
プイっとそっぽを向きながら志村は言った。
これが彼女なりの感謝の気持ちなのかと思うと、少しだけ笑みがこぼれた。
「ああ、よろしくな。志村」
「あ、後……。あたしのことは詩織で良いから……」
「え?」
「ち、違うのよ!?アンタに下の名前で呼んで欲しいとかじゃなくて苗字があんまり好きじゃないだけだから……っ」
志村……いや、詩織は恥ずかしげにまた頬を赤らめていた。
「……ったわよ……」
「え?」
「何でもない!行こうりえりえ!」
最後の言葉を聞き取ることが出来ず、戸惑う俺を無視して詩織は福井を半ば強引に連れて走り出した。
「………まあいいか」
は、恥ずかしかった……。
このあたしがあんなこと言うなんて……。
自分でも信じられなかった。
そして何で走って逃げたのかもよくわからなかった。
「………ツンデレ」
「りえりえ。それは違います断じて」
「…………何て言ったの?」
「え?」
「……最後のアレ」
ああ、アレか……。
正直恥ずかしいから二度と口にしたくない。
だけどもう一度くらいなら……
「かっこよかったわよ、羅生……」
続