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絆の証は契約と共に  作者: 伊達 翼
幼年期放浪編
9/22

第六話『出会ってたのはお隣さん?』

 ゼロが宿決めをしてる間、帝都東の住宅街を探検していた忍と明香音、そのお守役の天狼。

 彼らは東の住宅街にある公園で自分らよりも少し幼い子供達に出会っていた。


「あ、あの…触っても平気、ですか…?」


 どうも天狼に興味を抱いたらしいユウと呼ばれた子供が忍に尋ねる。


「うん、いいよ」


『あ、主?』


 忍の即答にちょっと驚く天狼だが…


「じゃ、じゃあ…」


わさわさ…


 ちょっと及び腰になりながらもユウは天狼に近寄ってその背中を撫でていた。


『むぅ…』


 釈然としないと感じつつも撫で方が優しいので天狼も大人しくしてしまう。


「だ、大丈夫なの? ユウ」


「…………………」


 その様子を見つつもユウの側に寄る女の子達。


「う、うん。大丈夫みたい」


わさわさ…


『主よ? いつまでこうしてれば良いのですか?』


 撫でられながら天狼は忍に尋ねる。


「まぁ、その子の気が済むまで?」


『むむむ…』


 自らの主よりも小さな子をあしらうことも出来ず、天狼は撫で続けられた。


『(まぁいい。この程度ならくすぐられてるのと似たようなものか…)』


 我慢出来なくもないくすぐったさだったので天狼は主の命に従った。


『(願わくば、この小さき者達との出会いが主の糧になればいいのだが…)』


 この出会いが忍達にとって良きものとなることを信じつつも天狼は主の師である男を思い出す。


 果たして、泊まる場所やら路銀のことは大丈夫なのだろうか…と。


………

……


 その頃、子供らをほっぽり出したゼロはというと…


「う~ん…」


 しばしの間、泊まれる格安物件を探していた。


「(宿でも別にいいんだが…天狼のことも考えると、空き家の方がいいよな…)」


 宿でも問題ないと思われるのだが、その場合は天狼を宿に入れていいのかという問題も出てくるので、ゼロは空き家を借りることを考えていた。


「(しかし、空き家っても…あんま豪勢なとこを借りても悪目立ちしそうだしな)」


 今のゼロは2人の子連れ状態である。

 そんな状態で悪目立ちしようものなら、あっという間に変な噂が流れるのは明白である。


「(質素だ。出来る限り質素に…)」


 そう心の中で自分に言い聞かせて物件を探していく。


「(でも…地下遺跡に入れなきゃ厳しいのは変わらんからな…そこも何とかしないとか…)」


 宿を決めるのもそうだが、目下の問題として収入源の確立が挙げられる。


「(ったく、地下遺跡に住む魔獣達のことを考えれば一般公開しないってのもわかるんだが…俺としては商売上がったりなんだよな…)」


 そんな愚痴を考えながらも物件探しは続いていく。


「(ともかく、あいつらが戻ってくる前に物件を決めとかないとな…)」


 ゼロの物件探しはもうしばらく続きそうだった。


………

……


 一方、忍達はというと…


「そっちに行ったよ~」


「は~い」


 ユウと呼ばれた子達と共にボール遊びに興じていた。


『…………………』


 その様子を木陰から天狼が見守っていた。


『(なんとも平和な時だろうか…)』


 子供らが遊ぶ姿を見て天狼は自らの半生を思い出していた。


『(我が生まれてからもう何年経つか…忘れるくらいに月日が経ったのか、それとも…忘れたいのか…)』


 天狼…契約前は霊力をその身に宿した霊獣と呼ばれる存在の狼。

 その半生は山奥でひっそりと暮らすものであった。

 魔獣、妖怪、そして時には人を喰らって生きてきた。

 その中には同族である霊獣も含まれている。

 自然界の中では弱肉強食が当たり前であり、それを躊躇うということは死を意味する。

 幼い頃は親から糧を貰っていたが、ある程度まで大きくなったら親元を離れて自力で生きるしかない。

 それが自然の常であり、生き抜くために必要なことだ。


 そんな日々を過ごしていた。


 だが、それもあの時に一変した。

 人の集団…俗に言う盗賊達との遭遇である。

 最初こそ数人を手負いにしたものの、数の暴力には敵わず、頭目らしき巨漢の男の不意打ちもあって負傷してしまう。

 さらにまだ幼い子供が盗賊の一人に捕まり、頭目に目つきが気に入らないという理由だけで殴り飛ばされた。

 子供は天狼の近くに吹き飛んできた。

 最初は霊力回復のための餌だと考えていた。

 しかし、それは過ちだった。

 子供はその小さな体に反して強い意志を見せた。

 だからこそ天狼も立ち上がった。

 しかし、状況は圧倒的に不利だった。


 そんな絶体絶命の時にそれは起きた。

 『契約』である。

 子供は最初喜んでいたが、天狼の意志を尊重して断ってもいいと言ってきたのだ。

 それには天狼も驚いた。

 契約を断ってもいい、そんな人間もいるのかと…。


 その時だ。

 天狼が子供…忍を主と決めたのは…。

 このような子供でもきちんと自分の意志を持ち、契約相手である天狼をも気遣う心根の優しさ…。

 特に意識したことはなかったが、もしも生涯の相棒を決めるのであれば、子供であろうとこういう人物の方がいいのではないだろうか、と…。

 そして、決心した。

 今はまだ幼い主の牙となり、守ることを…。


 そんな風に考えながら他の子供と遊んでいる忍を見る。


『(主に出会うまで名無しで過ごしてきたのに、名を授かってから妙な愛着が湧いてしまった。だが、悪い気分ではない。むしろ、誇らしく思う。あのような主に出会えたことを…)』


 そのような想いを抱いていた。


「よっ、ほっ」


 ボールが忍に渡ると、忍はそのボールを軽く蹴り上げてその態勢を維持する。


「わぁ、お兄さん、凄いですね」


「蹴鞠の要領ね」


「ケマリ?」


「?」


「う~ん…簡単に言うと、ティエーレンでの遊びの一つです」


 忍の足技を見てユウが声を上げ、明香音が女の子達に軽い説明をしていた。


「てぃえーれん…ひがしのたいりくの?」


 この中で一番小さな女の子が尋ねる。


「えぇ。私達はティエーレンから来たの」


「へぇ~。なんでまた?」


「ちょっとした観光よ」


 女の子達に明香音はそう答えていた。


「あ…」


 足技から頭でボールを受けようとした忍だったが、失敗したようでボールが別方向へと飛び跳ねていく。


「ごめん。すぐに取ってくるよ」


「あ、ぼくも行きます」


 忍とユウがボールを拾いに行くと…


『主よ』


 天狼もそれを追うように駆け出す。


ポンッ…


「あら?」


 と、ボールが誰かの足に当たったらしく、その誰かがボールを拾う。

 声からして女性である。


「どうかしましたか?」


 連れらしいもう一人の女性がボールを拾った女性に尋ねる。

 その女性は白銀の髪をアップスタイルに結い、瑠璃色の瞳を持ち、柔和な雰囲気の綺麗な顔立ちをしており、白い着物を着ているので全体的なスタイルがスレンダーのように見えるが、実際にはよくわからないといった感じの美人さんである。


「いえ、ボールが…」


 一方のボールを持った女性は、背中が隠れるくらいの長さの水色の髪とアクアマリンブルーの瞳を持ち、少し幼さが残るような可愛らしい顔立ちをしており、白のワンピ-スを着ていてスタイルは標準的である可愛い系の美人さんだった。


「あの子達のでしょうか?」


 ボールを追いかけてきた忍とユウを見てもう一人の女性がそう言う。


「あ、そうみたいです、ね……」


 そう言うが、忍とユウの後方から追い掛けてくる狼を見て少し言葉を失う。


「………………」


 もう一人の女性も狼に対して少し警戒した様子だった。


「すみません。そのボールですけど…」


「え? あ、はい、どうぞ」


 ボールを持った女性が忍の声に反応してボールを渡す。


「ありがとうございます。それとごめんなさい。当たってなかったですか?」


 女性に当たったのが見えたのか、忍が謝ると…


「あのくらい平気ですよ。それでは、私達はこれで…」


 そう言って女性達がそそくさとちょっと急いだような足取りで離れていくと、天狼が忍とユウの元へと駆け寄ってきた。


『あの者ら…』


「? 天狼、どうかした?」


『…………いえ、なんでもありません…』


 忍の問いに天狼はそう答えていた。


『(あの2人…"妖怪"、か…)』


 但し、内心では女性達の正体を見破っていた。


………

……


 一方で…


「あの、"ユキ"さん…あの子達の後ろから駆け寄ってきたのって…」


「えぇ…おそらくは霊獣…いえ、もう契約獣かもしれませんね。あの子達の片割れの顔に契約紋がありましたし…」


「やっぱり、そうですよね…」


 女性達もまた天狼の正体を考察していた。


「あの歳で、もう契約しているだなんて…」


「"シズク"さん…」


「いえ…契約なんていつ発現するかわかりませんもの。あの子はそういう時が巡ってきたんですよね…」


「えぇ…私達も、いつかは契約する相手が見つかるかもしれませんしね」


「…はい」


 妖怪は人間社会に溶け込み、ひっそりと暮らしているケースも多い。

 この2人もそういった部類なのだろう。

 だが、人と妖怪は違う。

 それがバレれば、いつかはその場から去らねばならない。

 契約獣でないなら尚更である。

 悪事を働いていたら当然、討伐される可能性もあるが…。


「さ、暗い話はここまでです。今日もお仕事を頑張りましょう?」


「はい、ユキさん」


 そう言って2人は仕事場へと向かう。


………

……


 そうして時は経ち、夕暮れ時となる。


「あ、もうこんな時間…」


 夕暮れ空を見上げ、ユウが言葉を漏らす。


「そういえば、おじさんはどうなったのかな?」


「さぁ? 連絡の一つもありませんね」


 忍が明香音に聞くと、明香音もそういえばという反応をする。


『こちらから探す分には問題ありませんが、向こうから探す場合は…難しいのではないかと…(まぁ、あの男に限ってその心配もないかもしれないが…)』


 天狼はそう言いつつも内心ではあまり心配していなかった。


 ちなみに忍と明香音はゼロに行き先を伝えてないため、ゼロが探すのは非常に困難なのだが、天狼はそんな些事でゼロが忍達…特に忍を捜せないとは思わなかった。

 何かしら裏がありそうではあるが、あの胡散臭い男に限って言えば、恐らくは問題ないだろうと天狼自身は踏んでいる。


『(というか、この小娘…あいつとどう連絡を取る気だったのだ?)』


 今更ながら明香音の言葉に疑問を抱く。

 流石に聞く気にはならなかったが、何かしら用意があったのだろうかと天狼が首を捻る。


「明香音ちゃん、おじさんと連絡なんて出来たっけ?」


 天狼の気持ちを代弁するかのように忍が明香音に尋ねる。


「………………あ」


 言われてその手段がないことに今更ながら気付いたような反応を示す明香音。


『(こやつ、うっかり者か?)』


 微妙に失礼な視線を明香音に送る天狼だった。


「な、なによ?」


 その視線に気付いたのか、天狼をジト目で見返す。


『……いや、何も…』


 敢えて波風立てぬ必要もないと考えた天狼が空気を読んでいた。


「うぅ~」


 その反応に明香音が恥ずかしそうに唸り声を上げる。


「お兄さん達、大丈夫なの?」


 そんな明香音の様子を見てか、ユウが忍に尋ねる。


「大丈夫だよ。天狼の鼻ならおじさんのとこまで迷わないから」


『まぁ、あの男の匂いは独特ですからな。まず迷わないでしょう』


「ね?」


 そんな何とも能天気な反応に…


「(本当に大丈夫なのかな?)」


 ユウはそんなことを思ったようだ。


「ユウ。そろそろアイリも限界だから、早く帰りましょ」


「…………(うつらうつら)」


 アイリと呼ばれた小さい子が船を漕ぎ出そうとしているのを見ながらもう一人の子供がユウに言う。


「あ、はい。デヒューラちゃん。それではお兄さん、お姉さん、狼さん、今日は遊んでくれてありがとうございました」


 もう一人の子供…デヒューラと言うらしい…に答え、ユウは忍達にお礼とお辞儀をする。


「うん。じゃあね」


 軽く手を振る忍の答えを聞くと、ユウがデヒューラ達の元へと小走りで駆けていく。


「じゃあ、僕達もおじさんの所に行こっか」


「はい」


『御意』


 忍達もまた天狼の鼻を頼りにゼロの元へと向かうのだった。


………

……


 という訳でゼロの元へと向かったはずなのだが…


「あれ?」


「? どうしてお兄さん達が?」


 何故か、そう何故か天狼にゼロの匂いを辿らせたらば…その先でユウ達と再び出会ったのだった。


「おう、お前ら。探検どうだった?」


「やぁ、ユウマちゃん達もお帰り」


 東の住宅街の端の方にあるとある一軒家の前でなんとも人の良さそうな男性と話してたゼロが忍達に気付いて声を掛け、それにつられるように男性もそちらを見ると、ユウ…それとも『ユウマちゃん』?達の方に笑みを浮かべて迎えていた。


「なんだ? "お隣さんの子供"ともう知り合いになったのか?」


 そんなことを言うゼロに…


「お隣さん?」


「どういうことです?」


 忍と明香音が首を傾げて尋ねると…


「よく聞け。当分の間、この空き家を借りることにした」


 そう言ってゼロは自身が立っている一軒家…の隣の一軒家を親指で指差し答えていた。


「「…………………」」


 2人してゼロの説明にポカンとしていると…


「で、ご近所付き合いもあるからお隣さんに挨拶に来たわけだ」


 そこにゼロの元に戻ってきた忍達と、家に帰ってきたユウマちゃん達という構図らしい。


『たった一日でよくもまぁ見繕ったものだな…』


「はっはっは、伊達に世渡りはしてねぇのさ」


 天狼の言葉にそう返すゼロだった。


「おや、大型犬が喋るとは…もしや、契約獣ですかな?」


『我は狼だ!』


「まぁ、そう怒んなや。子供らもいるんだからさ」


「いやはや、これは失礼しました。それで契約者は?」


「俺じゃねぇんだな、これが」


 そんなやり取りを見せながらゼロは忍を見る。


「ほぉ、ユウマちゃんと少ししか離れてなさそうなこの子がですか。いやはや、世界は広いですな」


「まったくで」


 男性の言葉にやれやれといった具合にゼロは肩を竦める。


「そういや、お前ら…ちゃんと挨拶はしたか?」


 と、そんなゼロの問いに…


「あ…」


「遊んでて忘れてました…」


 忍と明香音が思い出したように呟く。


「おいおい…年上なんだからそこはしっかりしとけ」


「は~い」


 というわけで今更ながら子供達の自己紹介になった。


「僕は忍。紅神 忍っていうんだ。よろしくね」


「久瀬 明香音と言います。しばらくの間、よろしくお願いします」


「あ、ぼくは『ユウマ・リースリング』です。よろしくお願いします」


「あたしは『デヒューラ・スイミラン』よ」


「………………」


「あ、この子は『アイリ・ノージェラス』って言います」


「アイリはちょっと人見知りするタイプなのよね」


 そうして子供らの自己紹介は終わり、ユウ改めユウマ達とのご近所付き合いも始めるのだった。

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