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絆の証は契約と共に  作者: 伊達 翼
幼年期放浪編
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第十八話『水と氷…その相性は…』

 急遽予定を繰り上げ、王都を出たゼロ一行。王都を出てからしばらくし、吸血鬼の襲来から捕縛までを行った夜が明ける。


「……………………」


 縄で両手足を縛られた吸血鬼は天狼の背に担がされて移動していた。ちなみに表情はムスッとしている。


『まったく…これでは人攫いに見間違えられても文句は言えんな』


 不承不承といった様子で吸血鬼を担いでいる天狼はそのように言う。


「そう言うな。放置したところで、また襲い掛かってきても面倒だしな。だったら、このまま連れてくさ」


「何故、このような者を連れていくのですか?」


「言ったろ? 下手に放置するよりかは近場に置いておくのが一番監視しやすいんだよ」


「それはそうですが…」


 白雪も今回の措置には疑問を抱いているようだった。


「つか、逃げるならとっくにそうしてるだろうしな」


 ゼロが視線を吸血鬼に向ける。


「ふんっ…」


 吸血鬼はゼロの言い方が気に入らなかったのか、そっぽを向く。


「あの怪力だ。そんな何の付与もしてねぇ縄なんて簡単に引きちぎれるだろうに」


「言われてみれば…」


『確かに…』


 ゼロに指摘され、天狼と白雪も不思議そうな表情で吸血鬼を見る。


「……………………」


 吸血鬼はそっぽを向いたまま黙っている。


「まぁいいさ。今はとにかく南へ向かうぞ。次の大陸に向かう準備もあるしな」


『南か…』


「暑い場所は苦手なのですが…」


 ゼロの言葉に天狼と白雪は少しげんなりしていた。天狼はふかふかの毛並み的に、白雪は種族的に、だが…。


「ま、アクアマリナーは熱帯の大陸だからな。対策もしっかりしとかないとな」


 そう言いながらゼロは前方を歩いている明香音を背負った忍と、その上で旋回しながら周りを警戒している焔鷲を見る。


「そこでも良い出会いがあればいいんだがな…」


『それは人か? それとも契約獣か?』


「どっちもさ」


 天狼の問いにゼロはそう答えていた。


………

……


 一方、王都では…


「なによ、それ…」


 いつものように朝陽が武器屋に顔を出すと、オヤジから朝陽に預かり物だといつも使ってた剣を手渡され、忍達が旅の続きに王都を出て行ったことを伝えていた。


「風来坊なんてそんなもんだ。いつか会えるかもだが、それがいつになるかまでは、な…」


「あたしとの決着がまだじゃない…それなのに…」


 武器屋のオヤジの言葉を聞きながらも朝陽はどこか悔しそうに両手で拳を作って強く握り締めていた。


「……………………」


 朝陽は顔を下に向けてプルプルと震えていた。


「(短い付き合いとは言え、急にいなくなったんだからな…)」


 という風に武器屋のオヤジは捉えていたが…


「………ぃ……」


「ん?」


「上等じゃない…あいつがいなくたって、あたしはもっと強くなってやるんだから!!」


「お、おう?」


 朝陽のいきなりの咆哮に武器屋のオヤジも驚く。


「見てなさいよ! 次に会った時はこてんぱんにしてやるんだから!!」


 悲しむことよりもむしろ闘争心に火が点いたらしく、朝陽は剣を手に大きく宣言していた。


「(バカ…)」


 それでも心の中では忍や明香音がいなくなった寂しさもあったのだろう。


………

……


 そんな王都でのことなど露知らないはずの忍はというと…


「?」


 不意に振り返って王都の方を見ていた。


「どうした?」


 それをゼロが尋ねるが…


「ううん、なんでもない」


 忍もなんで振り返ったのかわからずといった感じで答える。


「そうか。また、しばらくは道なりに進むが…こいつをどうにかしないとな。この国の騎士団に通報されても困るし」


 忍の反応を軽くスルーしながら吸血鬼の処遇をどうするか、本格的に考える。


「手っ取り早いのが、放置なんだが…」


「また狙ってくる可能性がある以上、捨て置けません」


『うむ』


 ゼロの言葉に白雪が反論し、天狼も白雪に同調する。


「じゃあ、もう一つの選択肢だ。こいつを仲間に引き込む」


「あり得ません」


『ふむ…』


 ゼロのもう一つの提案に白雪は反対したが、天狼は考え込む。


「天狼さん?」


『下手に野に放つよりは手元に置いた方が管理しやすい、といったところだろう。まぁ、手としてはありだろう。問題は御せるか、だ』


「ま、そこなんだよな…」


 天狼はゼロの考えをそう捉えていたし、ゼロの方もそこが一番の問題だと考えていた。


『我が主の器を疑う訳ではないが、それとこれとはまた別問題だ』


 天狼の言ってることももっともだが…


「随分と好き勝手言ってくれてるけど…私が本気で仲間になると思ってんの?」


 一番の問題は吸血鬼の心情である。この吸血鬼はどこか気位が高く、生粋の武人というわけでもないから一度敗北したからと言って素直に言うことを聞くとは限らない。言動も些か、上流階級か、それに準じた者のそれに見えなくもない。


「それは、お前さん次第としか言えん…が、多分なるだろ」


「どういう意味よ?」


「ウチには人誑し且つ人外誑しがいるからな~」


 そう言ってゼロはニヤニヤとした笑みを浮かべながら前を歩く忍を見る。


「はぁ?」


 吸血鬼は意味がわからないようだったが…


『そういうことか…』


「はぁ…」


 天狼と白雪は忍と契約した時のことを思い出して溜息を吐くのだった。


………

……


 吸血鬼を捕えた。言葉にするとなんてことは…あるかもしれないが、ともかくゼロ一行はそうしてしまったのだから仕方ない。

 ただ、捕まえた吸血鬼は女性であり、それを縄で縛って狼の背に乗せて運んでいる。


 こんなの事情を知らない者からしたら誘拐と同じである。というかどう見ても誘拐にしか見えない。まぁ、一行に襲い掛かってきた吸血鬼も悪いっちゃ悪いのだが…。


 だからなのか、ゼロ一行は街道を真っ直ぐ進むことなく、道から外れた森を歩いていた。


 王都周辺の地域は草原と森が混じったような環境をしているのだが、南下していくことで徐々に荒野や砂漠地帯といった環境に変化していく傾向にある。

 ちなみに中心である王都からある一定の距離まで離れると、北地域は寒さを防波する山岳地帯、西地域は森林地帯が続き、東地域は渓谷地帯になっていくようになる。


 森を歩いている一行だが、南下する程に乾いた風が混じっているのを肌で感じ始めていた。


「街道を歩ければ楽だったんだが…まぁ、今更言っても仕方ないわな…」


 そんな愚痴を呟くゼロだった。


 街道から外れて進むこと4日。そろそろ砂漠地帯の境界線が迫ってきたのだ。その前に出来れば、吸血鬼には忍と契約してもらいたいと思っていたゼロはわざと迂回するようなルートを歩いていた。


『空気がだいぶ乾いてきたな。お前の言う荒野や砂漠が近いということか?』


「そうだな。このまま素直に行けば、って言葉は付くがな」


『厄介なことだ』


 ちなみにこの森を進んで3日目辺りで吸血鬼の足の縄を解いて白雪と焔鷲が監視しながらも忍達と一緒にいる。いつまでも天狼が背負っているのも天狼が疲れてしまうので、いっそ一緒に歩かせようというゼロの発案だ。白雪は猛反対したが、明香音に全部任せる訳にもいかず、白雪が監視を担当することになった。

 そして、天狼はゼロの横に付きながらゼロと話している、というのが現状だ。


「それで? あいつの様子は?」


『大人しいと言えば、大人しい。が、白雪との口喧嘩が絶えん』


「女は3人寄ると姦しいって言うしな」


『久瀬は参加してないだろう…』


「そこは気分の問題だ」


 などとゼロと天狼が会話している後ろでは…


「血が飲みたいわ」


「まだ言いますか。あなたにそんな権利はありません」


「別にアンタには聞いてないわよ。私は坊やに言ってるんだから」


「我が君の血を狙っておいて、よくもそんな図々しいことが言えますね?」


「喉が渇いたのだから仕方ないじゃない」


「そんなの水でいいでしょうに。血である必要はありません」


「堅苦しい女」


「なんとでも…あなたのようなだらしない女ではないので」


「あぁ?」


「なにか?」


 このような感じで吸血鬼と白雪が他愛もない口喧嘩を繰り広げていた。


「毎日毎日、飽きないよな…」


『よくあの程度のことで言い合えるものだな…』


 その光景を改めて見てゼロと天狼は嘆息する。


「全部は困るけど、ちょっとくらいならいいんじゃないの?」


 2人の口喧嘩を前の方で聞いていた忍がゼロに尋ねると…


「契約獣になった後なら別にいいが、今のあいつは野良の妖怪だ。そんなホイホイやっていいもんじゃねぇよ。第一、味を覚えられて付き纏われても困るだろうに…」


 ゼロはそのように答えていた。


「そうなんだ…」


「それでも可哀想に思うなら、とっとと契約してやるこった」


「でも、契約ってそんなすぐに出来るものなの?」


「さてな…こればかりはそうなることを祈るばかりさ」


 そんな風にゼロと忍が話している横では…


「はぁ…」


 溜息を吐く明香音の姿があった。


「(契約は時を待つが、今はこっちの問題だろうな)」


 その明香音の姿を横目で見てゼロがやれやれと肩を竦める。


「(首を狙ったまではいいが、そこから再生するとは思わず、逆襲されて戦闘不能。最初の魔獣狩りの時と合わせて自分の無力さを知って気落ちしてるって感じかね?)」


 4日前の吸血鬼との戦闘で、明香音は吸血鬼の首を狙ったが、吸血鬼の尋常じゃない再生力の前に逆襲されて吹き飛び、地面に何度もバウンドして意識を失ってしまった。流石にマズいと感じたゼロが即座に治療して事なきを得たが、最初の魔獣狩りの時にも似たようなことがあったので、それを引き摺っていた。

 まぁ、明香音の場合、それだけではないのだが…。


「(忍君にどう思われてるんだろ…)」


 これに尽きる。あの最初の一撃で勝負を決めにいった明香音は忍からどう見られるかを気にしていた。仮にあれで勝負が決まったとして、その後に忍とどんな風に接すればいいのか、ずっと悩んでいただろう。

 それは今も同じで早々に首を狙い、妖怪であっても人殺しを実行しようとした。それに対し、忍はどんな反応をするのか、聞くのも怖かったし、それで拒絶されるのももっと嫌だったのだ。だから、目覚めてからあまり、というかろくに忍と話していないから余計に悶々としている状態にある。


「…よし」


 すると、何を思ったのか、忍は未だ白雪と口喧嘩している吸血鬼の元へと行く。


「ねぇねぇ、吸血鬼さん」


「何かしら? 坊や」


「我が君?」


 流石に口喧嘩はやめたようだが、忍の投下した爆弾に周りが驚くことになる。


「ちょっとだけなら僕の血を飲んでもいいよ?」


「なっ!?」


「おいおい、さっきの話聞いてたか?」


『我が主よ!?』


『本気ですか!?』


「我が君! どうか、ご自愛ください!」


「………………」


 忍の言葉に吸血鬼も困惑から黙り、他のメンバーも忍を驚いたりしていた。


「大丈夫だよ。吸血鬼さんが悪い人じゃないのは、この4日間でわかったし。いつまでも意地悪してたらダメだと思うんだ」


「意地悪って、お前なぁ」


 忍の言い方にゼロが呆れたような感じになる。


「一舐めくらい大丈夫だよ」


「吸血鬼に血なんて与えたら力を与えるようなもんなんだがな…」


「それでその人がまた襲い掛かってきたらどうするの!?」


 流石に明香音もこの忍の意見には反対のようだ。ゼロはその反応からしてなんか微妙な感じがするが…。


「僕は吸血鬼さんを信じるよ」


「…………とんだお人好しね」


 その言葉に吸血鬼も毒気が抜かれたような言葉を漏らす。


「我が君、どうか考え直してください!」


 白雪も忍を説得しようとするが…


「大丈夫だよ」


 そう言って腰に差してた刀を鞘から少し抜き、その刀身で自分の右手の人差し指の先を少し斬ると、そこから血の球が滲みだす。


「っ…はい、どうぞ」


 身長差があるため、忍が少し背伸びして吸血鬼を見上げながら右手の人差し指を差し出す。


「……………………」


 目の前に出された人差し指の先から滴る血を見て吸血鬼は…


「…いらないわ」


 顔を背けて拒否した。

 吸血鬼にもプライドがあったのだろう。今の状態で本気で施しを受ける気はないのだと、そういう意図で断ったのだろう。


 だが、その瞬間…


カッ!


 忍と吸血鬼が深紅の輝きに包まれた。


「ほぇ?」


「!?」


 これはつまり、契約の儀式が発動したということだろう。


「マジか…」


『なんと!?』


「そんな…!?」


『えっ!?』


「嘘…!?」


 これにはゼロ達も驚くほかなかった。


「契約…?」


「これが…?」


 当の本人である忍と吸血鬼も驚いていたが…


「……いいわ、この契約。受けてあげましょう」


 意外にも先に吸血鬼の方が契約を受け入れていた。


「え? いいの?」


 その即断に忍の方も驚いたように吸血鬼を見る。


「アンタみたいなお人好しの坊やは放っておけないしね。そこの雪女に先輩面されるのは癪だけど、そこは私が寛容な心で見逃してあげるわ」


「なんです…!?」


「ちょっと黙ってような?」


 吸血鬼の言葉に白雪が激怒するもゼロに後ろから口を塞がれてしまう。


「それで? 坊やの方はどうなの? 私と契約、する?」


 そう聞かれても忍の答えは決まっていた。


「これからよろしくね、『真姫(まき)』さん」


 忍がそう言うと忍の右腿太腿に小さな蝙蝠の契約紋が浮かび上がるのだった。ちなみにもう契約紋の痛みに慣れたのか、忍は特に痛がる様子はなかった。


「真姫、ね。これからはよろしくしてあげましょう。マスター」


 こうして吸血鬼こと『真姫』との契約を果たした忍。これから本格的に南を目指すことが出来るだろう。




 ただ…


「私がいつ先輩風を吹かせるというのですか?!」


「小さいことに拘るわね。先輩?」


「誰が先輩ですか!?」


「マスターと契約したのはそっちが先でしょ?」


「それはそうですが…なら、こちらに敬意を払いなさい!」


「嫌よ。なんで私がアンタなんかに敬意を払わなきゃならないのよ?」


「この…小娘が!」


「うるさいわね、この年増!」


「なんですって!?」


「そっちこそなによ!?」


 白雪と真姫の相性はすこぶる悪かった。

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