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絆の証は契約と共に  作者: 伊達 翼
幼年期放浪編
16/22

第十三話『"災害"と、再会?』

 ゼロ一行がフィアリムに滞在し、早2日が経とうとしていた。


 この2日間は別段異常もなく、ごくごく普通に過ごしたとも言える。初日にゼロが忍のことについて契約獣達に話した後、ゼロや天狼、白雪は自然体だったが、焔鷲は少しぎこちなさを残していたようにも見えたが、忍は気にする様子はなかった。ただ、明香音は"何かあったのでは?"と少し勘繰っていたが、彼女自身そのことについて踏み込みはしなかった。何かを感じたのか、その辺は明香音にしかわからないことだ。


 ともあれ、忍の事情を知った契約獣達はいつも通りに過ごすことにしていた。


 フィアリムに入って2日経った今日は、ゼロも同行しての町の散策となった。


「(また知らない内に契約とかなったら困るしな…)」


 というゼロの愚痴にも等しい思いを知ってか知らずか、忍達は町を散策する。


「(というか、この時点で既に3体と契約してるからな。しかも属性も力もバラバラときたもんだ。俺の場合は参考にならんが、それでも忍のこの縁の繋ぎ方は面白い。流石にこの歳で龍気はまだ扱えんだろうが、他の力に関しては習得率が高い。そのままだと本当に龍気まで扱えちまうかもな)」


 明香音と一緒にキョロキョロと周囲を見て回る忍を見ながらゼロはそんな思考を巡らせる。


「(だが、その場合…果たして、俺が教えることはあるんだろうか? 基礎は教えてる。だが、応用はこいつ自身のセンスによるところが大きい。まぁ、竜也譲りで末恐ろしいもんがあるだろうが…)」


 天狼と白雪がそんな2人の左右に位置し、フォローしているのを後ろから見てゼロは思う。


「(次に契約するとなると、普通なら力の底上げと同じ属性による研磨だが、こいつの場合は俺と似て他の属性を手にすることになるかもしれないな。まぁ、契約がそんな頻繁に起こってたまるか、とも思うんだが…)」


 目の前を歩く忍を見てゼロは軽い溜息を漏らす。


「(何事にも例外ってあるからな。俺みたいに…)」


 自身の過去を思い返し、ゼロは少し遠い目をする。


「(あれから…もう、何年経ったんだかな…)」


………

……


 ゼロが生まれたのはどこかの大陸の田舎だった。今はもう地図上には存在しない小さな田舎の村。そこで生を受けたゼロは、どこにでもいるような赤子だった。


 "ある事実"を除いては…。


 それはゼロの生まれた村が魔獣の群れに襲われて壊滅した。そして、赤子だったゼロや他の赤子達や子供達が魔獣に連れ去られた。魔獣の食料になるために…。


 当時はまだ魔獣の対策も不十分な時世で、特に田舎までその対応策が行き渡っていない頃だったせいもあり、そういった被害が頻発していた。それ故に国も対応に四苦八苦していた。


 そんな被害者の中にゼロもいたのだ。


 だが、どういう運命の悪戯か…ゼロは、縄張りを持たず、自由気ままに、それこそ気分次第で国をも滅ぼせる力を持った"とある龍種"に助けられた。その龍種が何を思ってゼロを助けたのかはわからない。本当にただの気まぐれだったのかもしれない。しかし、結果として魔獣の群れはその龍種によって壊滅し、最後の食料として残ったゼロは、今度は龍種に連れ去られた。


 それから月日が経ち、龍種とゼロは自由に各大陸を時に渡り、時に住み着き、時に悪さをし、時に人助けなんかもしたりと好き勝手に生きていた。ちなみにその頃には既にゼロの背中一面を満たすかのような大きな刻印が刻まれており、龍種特有の龍気を扱えるようになっていた。


 当然、そんな危険な存在を各国が放置する訳もなく、お尋ね者のようにして扱われた。しかし、そんなことなど龍種とゼロは知ったことかと、己の自由を貫いた。


 そうしてこの1人と1体が一種の災害として扱われていた頃に、当時のフィアラル王国がこの災害を捕縛しようと動き出していた。


 このフィアラル王国の行動は、結果として災害の捕縛には成功したが、その過程で多くの犠牲が出てしまうこととなり、災害を断罪すべきという声も多かった。しかし、その反面、人間が龍気を使っていたことに注目した一部の学者達が研究のための被検体として身柄を欲しがった。


 結局のところ、拘束された災害はその一部の学者達の元に送られることとなった。そうして『被検体番号0番』と『観察対象龍種・危険度レベルEX』は、何よりも愛していた自由を奪われることとなった。だが、その代わりにこの災害を研究することで『契約』と『契約獣』という新たな概念が生まれることとなる。


 『災害』と呼ばれた存在が人々に新たな道を示す。


 その研究が一区切りし、世間に契約獣と契約についての詳細が公にされた頃、その最初の契約者と契約獣である『災害』は、自由を求めて研究機関を脱走する。だが、災害は別々の場所にいながらも同じタイミングで脱走したという。何かしらの方法があったのか…今でこそ契約紋を用いた会話もあるとわかっているが…当時はそれすらもわからなかった。それだけ契約に関する研究は、まだまだ初期段階だったということだろうか。


 その後、1人と1体は合流したのか、別々に行動していたのか、『災害』が揃った姿を見た者はいなかったという。


 それからさらに時が流れ、『被検体番号0番』は己のことを『ゼロ』と名乗り、己の素性を隠しながら今の時世を渡り歩いていた。その過程で、龍種以外の魔獣、霊獣、妖怪の上位個体とも契約を果たし、全ての力と属性を手に入れたゼロは自らの素性を隠したまま"最初の五気使い"を称し、そういう存在もいずれは出てくるのだと世界に示した。


 世界に示した後、ゼロは再び姿を消した。新たに契約した3体の契約獣達に自由を許し、バラバラとなった彼等が集まったことは、実は一度たりともない。もしも、彼等が集まる日があるとしたら…それは一体何を意味するのか?


 そして、ゼロは単身、再び表舞台へと舞い降りた。旅の小さな同行者達の保護者代理として…心からの友となった者達の願いを叶えるために…。


………

……


「(柄じゃねぇよな…だが、こいつらが自立出来るくらいに成長するまでは見守ってやるか)」


 そんな想いを抱きながら前方にいる忍と明香音を見る。


「(時間だけは、無駄にあるしな…)」


 そんな考えを巡らせたゼロだったが…


「あ…」


 不意に忍が声を上げた。


「ん?」


 ゼロが忍の視線の先を見ると…


「……………………」


 噴水広場なのか、噴水を中心に整備された広場がある。その噴水の縁で足を組んで座る1人の美女がいた。腰まで流れるような銀髪と深紅の瞳を持ち、まるで人形のように整った綺麗な顔立ちをしていて、その均等の取れた体を真紅のドレスで着飾った女性だ。


「(凄ぇな…場違い感が…)」


 ちなみに言っておくが、昼間の噴水広場で、子供達も多くが遊んでいる中で、そんな貴族っぽいような格好をしているためか、場違い感が半端じゃない。ゼロも遊びに来た子供達の親御さん達も皆そう思っていても不思議ではない。


『あやつ…あの時の…』


 そんな中、天狼が美女を警戒しているような目で見ている。


「お知り合い、ですか…?」


 白雪が天狼に問い掛けると…


『いや、面識はない。が、会ったことなら一度ある。まぁ、互いに目が合った程度だろうが…』


 天狼はそう答えながら忍の方をチラッと見た。


「……………………」


 当の美女の方は少し気怠そうな雰囲気で噴水の縁に座っているだけだ。


「(この波動…おそらくは…)」


 ゼロも美女から感じる力を察知し、その正体を推測していた。


「あ、あの…」


 そんな警戒中の天狼や若干興味深そうなゼロを尻目に忍が怖いもの知らずを発揮し、美女に近付いて声を掛けていた。


「?」


 声を掛けられた美女は、首を傾げながらも視線を下げて忍を見下ろす。


「む…」


 主を見下ろされて気分が悪いのか、白雪が少し不機嫌な声を漏らす。


「えっと、あの時は助けてくれてありがとうございました」


「あの時? 助けた?」


 忍が美女にお礼を言うが、言われた本人は身に覚えがないのか、美女は首を傾げたままだ。


『ティエーレンの山奥で、道の邪魔だと巨漢の野盗をお主が蹴った時だ』


 仕方ないとばかりに天狼が忍に歩み寄り、当時のことを苦々しそうな表情で思い出しながら呟く。


「……………………あぁ、あの肉だるまを蹴った時の…」


 天狼の言葉で、やや間はあったものの、美女の方も思い出したようだ。


「はい。あの時はありがとうございました」


 再度、忍が美女にお礼を言うが…


「別に。坊や達を助けた訳じゃないわ。アレが私の進む方向にいて邪魔だっただけよ」


 美女は自分のためにやっただけだと突っぱねる。


「それでも、結果的には助けてもらったので、お礼を言いたくて…」


「ふぅん」


 なんとも律儀な忍に美女は適当な返事をする。


「っ…」


「?」 


 珍しく白雪がズンズンと足を踏みしめて美女の前へと向かう様にゼロが首が傾げていると…


「あなた…」


「?」


 新たに声を掛けられ、美女の方もチラリと白雪の方を見る。


「我が君の感謝のお言葉をそんな気のない返事で返すなんて、失礼だと思わないのですか?」


 静かだが、どこか少しだけ熱の籠った声で美女に問いかける。


「別に。あなたには関係ないでしょう? どんなお礼を言おうが坊やの勝手だし、それにどう対応するのかも私の勝手なのだし」


「それでも、最低限の礼儀というものがあるでしょう?」


「口うるさい女は嫌われるわよ?」


「あなたのように礼節を重んじない人よりはマシなつもりです」


 そんな白雪と美女の言い合いに忍は困ったように両者を見ており…


「(どっちもどっちだろ…)」


 傍観していたゼロはそのような微妙な感想を抱く。


「……………………」


「……ふん」


 美女を睨む白雪と、そんな白雪の睨みなど意に介さない美女の間に微妙に火花が散ったようにも見えなくもない。


「あ、あの…」


「手出し無用。こういうのは放っておくのが一番だってお母さんが言ってた」


 2人を仲裁しようとした忍を明香音が近寄って手を引っ張り遠ざける。


『バカバカしい…』


『白雪さんって…』


「それ以上は言わなくてもいいぞ」


 天狼は呆れて首を横に振り、焔鷲も何か言おうとしたが、ゼロに止められる。


「……ともかく、これ以上、こんな礼儀知らずを我が君と関わらせる訳にはいきません」


「はぁ? 我が君?」


「あなたには関係のないことです」


「……それもそうね」


「「ふんっ」」


 互いにそっぽを向くと、美女はそのまま噴水の縁に居座り、白雪は忍達の元へと戻ってくる。


「白雪。喧嘩は良くないよ?」


 戻ってきた白雪に忍の第一声が届く。


「も、申し訳ありません。我が君。ですが…私はどうにもああいうのが許せなくて…」


 忍の言葉にちょっと動揺してしまい、あわあわとする。


「正義感が強いというか、礼節にうるさいというか…」


「何か言いまして?」


「いんや、何にも?」


 ゼロが何やら言っていたが、即座に復活した白雪の一睨みで黙らせる。


『主よ。あなたももう少し慎重に行動してください』


 天狼は天狼で忍に注意していた。


「でも、お礼は言っておかないと…」


『それでも、です。主の直感に頼った行動は我等をも翻弄してしまうのです。その点はお気をつけて頂きたい』


 それを聞き…


「…僕、そんなに無鉄砲かな?」


 忍は周りに聞いてみると…


「そうだな」


「あ~、確かに無鉄砲のきらいはありそう」


『えぇ』


「それは…その、はい」


『付き合いが短いので何とも言えませんが…僕の時もそんな感じでしたね』


 その場にいた全員から『無鉄砲』という烙印が押されてしまった。


「うぅ~」


 その事実に忍は唸ってしまう。




 そんなやり取りをしながら噴水広場を去っていく忍達。その様子を噴水の縁に座りながらも美女は見ていたが…


「……………………」


 何を思ったのか、その場から立ち上がると、忍達とは反対側の道を優雅に歩き始めた。


 ゼロは何かを察していたようだが、この美女の正体は一体…?

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